2023年07月10日 16:50 弁護士ドットコム
政治が遠すぎる。上智大学4年の中村涼香さん(23歳)が立候補年齢引き下げ訴訟の原告団に加わったのは、非核を訴える活動のなかで感じた歯がゆさからだ。
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長崎県出身の被爆3世で、高校時代から平和運動に参加。2021年には学生団体「KNOW NUKES TOKYO」を立ち上げ、共同代表を務める。
議員アンケートでは、秘書を通した手紙やファクスのやりとりが煩雑で、政治家との距離が遠いと感じた。70代の国会議員からは「学生に何がわかる」とすごまれた。「おじさんたちに私たちの代弁ができるの?」。訴訟にかける思いを聞いた。
中村さんは2020年、国会議員、都道府県知事、市区町村の核兵器問題に対する立場をオンラインで示す議員ウォッチプロジェクトに参加した。
長崎選出の国会議員8人に面会を申し込んだが「政治家に会うことが、思った以上に大変でした」。秘書に手紙やファクスを送った上で電話を何度もして、やっとスケジュール調整に入るという具合だ。
市民を代表するはずの議員と対話の機会がないことにがっかりした。さらに失望したのは、一部の秘書や議員が高圧的だったこと。「学生に何がわかる。こっちは新聞を毎日4時間かけて勉強しているんだなどと言われました。つらかったし、怒りもわいた。変えていかないといけないと思いました」
長崎市の活水高校では平和学習部に所属し、署名活動などに取り組んだ。「国連に行ってみたい」と最初の動機は広い世界へのあこがれだったが、何十年も活動を続ける人たちの背中を見て、夢中になった。
しかし大学に進学すると、仲間のほとんどは活動から離れた。自分は絶対に続けようと学生団体を立ち上げた。
核問題を語る時、左や右といったイデオロギーにされてしまいがちだ。母方の祖母が被爆者だが、クラスの3分の1くらいが被爆3世や4世で珍しいことではないという。当事者が亡くなっていく中で、非核を求める運動も過渡期だと感じている。
「被爆地にルーツがないと核兵器の問題が語れないわけではありません。広島や長崎に矮小化しないためにも、新しい活動が必要だと思っています。座り込みやデモじゃない伝え方を探りたい」
4月にはKNOW NUKES FORUMというイベントを開催。DJを呼び、アートを展示し、立食パーティーのようなレセプションも作った。ジェンダーや気候変動など他の社会問題と合わせて考えられる空間をデザインした。
積極的に発信していれば、風当たりもある。今回の被選挙権年齢引き下げでも、統一地方選に25歳に満たないまま立候補して不受理とされる手法を批判する声もあった。
「SNS見たりして1年に1回くらいは落ち込みます。社会運動をしていると、世に名前が出て拒否されてしまう怖さでやめる人もいます。私は割と楽観的なほうなのかもしれません」
原告には、子どもの貧困問題、気候変動、ジェンダーなど多様な社会問題に取り組む同世代がそろった。「同じ界隈でワンイシューで語っていると、議論が停滞するし風通しが悪くなる。自分の活動にもいい影響があります」
政党や議員と若い有権者の間のコミュニケーションをつなぐ役割をしたいと話す中村さんは、物腰はやわらかく語り口も穏やかだ。議員へのロビー活動を通して国際会議にも出席するなど経験を重ねてきたからかもしれない。非核運動のイメージを変えるだけでなく、政治の世界にも新しい風を吹かせようとしている。