2023年07月08日 09:11 弁護士ドットコム
コンビニで盗んだ1本のジュースが原因で、20年間も苦しみ続けている人がいる。
【関連記事:親友の夫とキスしたら、全てを親友に目撃され修羅場 】
30代の杉沢幸助さん(仮名)は中学生当時、親友だと思っていた友人から頼まれて「万引き」し、逮捕された。追いすがった店員にケガをさせた罪悪感にさいなまれ、精神疾患を発症し、思うような人生を歩めなかったという。
昨今は、いわゆる「闇バイト」に手を出した若者が強盗や詐欺などで逮捕される事件が目につく。杉沢さんは「快楽や一時の欲望から安易に一生後悔することだけはしないでほしい」と呼びかける。(聞き手:編集部・塚田賢慎)
「わかってるよな」
高校受験を控えた週末。杉沢さんはコンビニの外で体をつかまれた。
パニックになって抵抗した勢いで、コンビニ店員が地べたに転んだ。強盗致傷罪で現行犯逮捕され、警察署に連れて行かれた。
「万引き」を指示した親友が知らん顔して遠くから見ていた記憶があるそうだ。
「もし断ったら、親友が離れていくと思って引き受けてしまいました。店に入ったときから怖くてビクビクしていました」
親友だと思えばこそ、警察署の取り調べでは「出来心でやった」と友人をかばうような供述をしたという。
あとになって知ることだが、友人は「俺のことを警察にしゃべったら杉沢を殺す」と友人らに話していたそうだ。
人生で初めて「人を傷つけた」という経験はもちろん、12日間に及ぶ勾留生活は、中学生だった杉沢さんの精神を壊していった。手錠をかけられ、指紋を採取された自分の手を「犯罪者の手」と考えるようになったという。
最終的に1年の保護観察処分と決まるも、それから何年も手袋をつけて生活した。今でも精神科病院に通い続けている。
「罪悪感から痛みやかゆみが感じられ、『犯罪者の手』を切り落としたくなる。希死念慮が今でも出てくることがあります」
高校卒業後、定職にはついていない。発達障害も判明し、福祉作業所で掃除などをしている。
すり傷程度で済んだ店員は被害届を出していなかった。むしろ、身柄拘束されている杉沢さんを案じて「反省しているんなら早く出してあげて」と警察署に足を運んでくれていたそうだ。
事件から数年後、電話で謝罪をつげると、「謝る気持ちがあるだけえらいよ」と言われた。「あのとき謝ることができて、今救われている」と認識している。
救われているという人生は、法に触れるようなことを限りなく避けるという、杉沢さんの言うところ「コンプライアンス人生」になった。
高校卒業後は、大学の通信科目履修生として刑法学を勉強した。酒も一切飲まない。何も考えずにいられる水泳は毎日続けている。一人暮らしで遊びに行く友だちはいない。
取材中は「自分がいけないんですけど」「理性的でありたい」という言葉を何度も何度も繰り返した。
報道で若者が簡単に稼げる手段として「闇バイト」に飛びつき、有罪判決を下される衝撃を受けている。
「悪いことをしたら、絶対に後悔するから。僕みたいな人生を送ってほしくないと思う。お金に困ったら、日本には社会保障制度があるから大丈夫。快楽や一時の欲望から安易に一生後悔することだけはしないでほしい」
とても肝心な情報だけ、記憶からポッカリ抜け落ちていた。
杉沢さんの「一生」を変えてしまったコンビニのジュースの銘柄を覚えていないという。