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交際相手が「小学生の娘」に性的暴行、発覚後も関係を続けてしまった母の後悔

2023年07月07日 10:10  弁護士ドットコム

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「まさかそんなことが起きるはずがない、という思いがずっとあったのですが、家庭内の性被害は思っているよりも身近にあることだと知ってほしいです」


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こう話すのは、高校生の娘がいる30代女性、かおりさん(仮名・30代)です。かおりさんの元交際相手の男性は、当時小学生だった娘に性行為を繰り返していました。



被害は、かおりさんが娘に確認したことで明らかになりました。ただ、当時は警察に届けず、かおりさんは男性と交際を続けてしまいました。



その後、性行為は止まっていたものの、娘が中学の養護教諭に過去の被害を訴えたことで、児童相談所に保護されました。そこで、かおりさんは加害者との関係を完全に断ち切ったといいます。



加害者は強制性交等罪などで起訴され、1審で実刑判決が言い渡されました。弁護側が控訴し、現在、控訴審を控えています。



「なんでその状態で付き合っていたのか、と今なら思うんです。当時は娘が我慢していることにあぐらをかいていたんだと思います」と悔やむかおりさん。



「多くの人に、誰にでも起こることなんだと思ってほしい」と被害発覚から裁判に至るまでの話を聞かせてくれました。



※この記事では被害の実態を伝えるため、加害行為の詳細についての記載があります。ご注意ください。



⚫︎「まさか面倒を見ている子どもにそんなことしないだろう」

加害者の男性との交際は、かおりさんの娘が幼少期のころにはじまりました。



加害者は時間の融通がきく仕事をしていたため、娘が小学生になると、学童保育への迎えが間に合わないとき代わりに行ってもらったり、夕食を食べさせたりしてもらっていました。同居はせず、加害者は夜になると必ず自宅に帰っていましたが、ほぼ毎日のように顔を合わせていました。



異変を感じたのは、娘が小学校高学年のころです。自宅近くにかおりさんの両親が住んでいましたが、あるときから娘が「(祖父母の家に)泊まる」と言い出しました。そのまま1カ月ほど泊まるようになり、自宅に帰ってこない時期がありました。



「変だな」と思って友人に相談すると、友人は「交際相手による性被害があるかもしれない」と言いました。かおりさんも、シングルマザーの娘と交際相手との間で、よく性被害事件がおこっていることはニュースで知っていました。ただ、当時は「それはない」と思ったそうです。



「娘にまさかそういうことをする人柄とは思っていませんでした。加害者の好みは胸が大きく女性らしい体型が好きな人。さらに面倒を見てきた子どもにそんなことするのか、そんなことしないだろう、という気持ちがありました」(かおりさん)



その後も少し気にかかっていましたが、疑念がさらに膨らんだのは、娘の誕生日のお出かけでした。前から娘が行きたがっていたテーマパークに3人で行ったものの、どうも娘の態度がおかしいように感じたのです。友人からの話を思い出し、かおりさんは自分の妹に相談します。



「妹に性被害のことが気になっていると話したら、妹から娘に聞いてもらうことになりました。ただ、私が妹に話したことですごく気になってしまって、妹に話した翌日に私から娘に直接確認したんです」(かおりさん)



⚫︎「性被害にあっていた」と打ち明けた娘

確認すると、娘は泣きながら被害を打ち明けました。小学校中学年のころから2人きりの車の中で胸を触られたり、太ももを触られたりするようになり、高学年になると目隠しをされながら性行為をされたと話し、確認したその日にも被害にあっていました。



加害者は、かおりさんが仕事中の昼間や夕方に、娘がいる家を訪れたり呼び出したりしていました。「俺はお前を迎えにきてやったり夕飯を作ってやったりしているのに、お前は俺に何ができるんだ」という加害者の言葉に、娘は「我慢して受け入れるしかないのか」と思っていたようでした。



加害者にも話を聞くと、娘の話といくつか食い違いがありました。



「娘は性行為が最後まであったと言っていたけど、加害者は『挿入行為はせずに、目隠しの状態で、指を出し入れしながら腰を動かすところまでしかしていない』という言い分でした。目隠しをされた状況なら、まだされたことをよくわかっていないこともあるのかなと。『最後までされていなければいいな』という私の気持ちを優先していたと思います」(かおりさん)



その後、警察に届けることはなく、加害者との交際をそのまま続けて、被害のことはうやむやになっていきました。娘にはしばらく会わせないようにしていたものの、数カ月後にはまた3人でご飯に行くようになりました。



娘と加害者を2人きりにしないようにはしていましたが、かおりさんは流されるように加害者と会う頻度が増えていきました。



⚫︎娘が学校で打ち明け、児相一時的に保護

そうした生活が数年続く中、事態が大きく動きました。



娘の中学校から「娘が児童相談所に一時保護された」と連絡がありました。娘が養護教諭に、過去の被害を打ち明けたことがきっかけでした。児相の担当者から「心当たりはありますか」と聞かれ、すぐに「性被害のことしかない」と思ったそうです。



かおりさんは「今ならなんでその状態で付き合っていたのかと思うんですが…」と当時を振り返ります。



「親子げんかになったときに、気持ちがたかぶっているとフラッシュバックするのか、娘が『まだ(加害行為を)されている』と言ってきたことがありました。『今もされてるの?』と再び確認すると、『今はされていないけど、ずっと嫌だ』と話したので、心の中に残っているんだろうなと思っていました。性被害のことはいつか娘が誰かに言ったり公になることがあるんだろうな、と思っていたので、児相ということは打ち明けたんだろうなと」(かおりさん)



そのころ、加害者はかおりさんの自宅に泊まるようになっていました。娘にとって、それが大きなストレスになっていたのです。



「当時、娘は別の部屋で寝ていたんですけど、あるとき加害者が『3人で川の字に寝よう』と言い出したんです。並びも私、娘、加害者で娘を挟んで寝ようと。違和感を覚えるような並びで、私は嫌だと思ったし、娘も嫌だとはっきり言っていた。結局、娘は別の部屋で寝たんですが、その次の日に養護教諭に相談をしていました。耐えられなくなったんだと思います」(かおりさん)



養護教諭にいろいろな相談をする中で「心配なこととか嫌なことないの?」と聞かれ、娘は「今しかない」と打ち明けたそうです。すぐにかおりさんは加害者に連絡して会いましたが、そこで驚くようなことを言われました。



「私が『娘が児相に保護された。お前のことだと思うよ』と伝えると、『なかったことにできないのか』と言ってきたんです。『無理でしょ。警察に行く話も出てるし、覚悟を決めるしかないんじゃない』と返すと、『娘が嘘をついていると言えないのか』と言われました。そのときすでに未練はまったくなかったんですけど、また娘のせいにするんだなと信じられない思いでした」(かおりさん)



その日を境に、加害者とは一切連絡をとっていません。



⚫︎警察の聴取、数年前の証拠を集める日々

娘に家に帰ってきてもらうために何ができるのか。かおりさんは児相の担当者のすすめで、警察に被害を相談しに行きました。さらに引っ越しの準備も始め、その後、2人で新しい生活を始めることができました。



警察署での聴取も本格的に始まりました。警察官は「全力で調べます」と迅速に対応してくれ、「頑張って記憶を思い出して、LINEや写真が残っていないか確認してください」と証拠を探すよう求めました。



小学生時代の出来事の記録を掘り起こすのは、大変な作業でした。過去のLINEを調べてみると、娘のLINEは被害当時の履歴が消えてしまっていました。ただ、かおりさんのLINEには、娘に被害について聞いた日のやりとりが残っていました。



さらに、娘が加害者に呼び出されたときのLINEのやりとりを、かおりさんに送った履歴もありました。医師の診察により、性的虐待によって生じた可能性が高い身体の損傷も見つかりました。



起訴をするためには、できる限り犯行日時を特定しなければならないとされています。娘は当時、週に数回被害を受けていて、かおりさんが直接確認した日の被害以外は具体的な日時を覚えていませんでした。ただ、誕生日のお出かけの前日にも被害にあったことを覚えていたため、最終的に2件の日時を特定することができました。



これらが性行為があったことを裏付ける客観的な証拠となり、加害者は強制性交等罪などで逮捕、起訴されました。



加害者は調書で、動機について「たまたまいたから」「言うことを聞く女がいた」ということを言っていたそうです。さらに、1審の法廷で「身に覚えがない」と完全否認し、「触れてすらいない」と反論しました。



⚫︎娘「ママが好きで大事にしている人だから」

児相から帰ってきた娘は、夜眠れなかったり、「被害当時のことを夢で見た」と泣いて起きてきたりするようになりました。人混みが苦手になり、フラッシュバックで動けなくなることもありました。



中学に上がってから被害はなかったものの、加害者は娘に接触しようとしていたこともわかりました。かおりさんが自宅でトイレやお風呂に入っている間に、娘に「触らせてほしい」「お金をあげるから」などと言っていたのです。娘はそれを断っていたものの、かおりさんには隠していました。



「加害者と娘は共通の趣味もたくさんあって、私が知らないことも2人で仲良く話している印象で、むしろ私よりも仲が良いくらいに思っていたんです。楽しいと思えることもあれば嫌なときもあったそうなんですが、『ママが好きで大事にしている人だから、自分が我慢すればいい』と思っていたみたいなんです」(かおりさん)



「まさかこんなことが起きるはずがない」と思っていたかおりさん。今思えば、それは間違いだったと振り返ります。



「子どもが親を思う気持ちで、被害が隠されているんだと知りました。もし被害を言えていない子がいるなら、打ち明けることが一番親のためだというふうに思ってほしいです」(かおりさん)