2023年07月06日 10:41 弁護士ドットコム
硬いものを食べていたら歯が欠けてしまった経験はありますか。弁護士ドットコムには「フライを食べて奥歯が取れてしまった」という男性から相談が寄せられました。
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男性が食べたのは、会社で注文した弁当のおかずにはいっていた白身魚とイカのフライ。衣の周りがかたく、食べた際に奥歯のブリッジが取れてしまいました。医者には「ブリッジの元になる歯が折れてしまっていて、義歯を入れるしかない」と言われ、治療費は5万円ほどかかる見込みです。
店に連絡すると、担当者から「異物混入ではないので払う義務がない」と治療費を払わない旨を伝えられました。
男性は以前も同じ店の弁当に入っていた揚げ餃子で、前歯が折れていました。「かなり気を付けて食べるようにしていましたが、今回白身魚のフライでそんなに硬い物があるのかと油断していました。もう安心して弁当を食べられません」と話します。
弁当のおかずそのものが原因の場合は、治療費や慰謝料を請求できないのでしょうか。田村ゆかり弁護士に聞きました。
——男性は治療費や慰謝料の請求が可能でしょうか。
故意または過失による違法行為によって、権利を侵害されたとして不法行為責任(民法709条)、弁当店と男性との間には弁当の売買契約があるので債務不履行責任(民法415条)が考えられます。
そして弁当店で弁当が製造されているという前提で製造物責任法に基づく損害賠償請求が考えられます。
それぞれの法律要件は重なる部分もありますが、故意や過失がなくても損害賠償の責任を問える製造物責任法を検討します。
お弁当はこの法律における「製造物」にあたります。そして、製造物責任法3条は、以下のように定めています。
「製造業者等は、その製造、加工…した製造物であって、その引き渡したものの欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる」
そして「欠陥」とは、以下のようにされています。
「当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう」(同法2条2項)
裁判では、まず、この「欠陥」を立証できるかが問題となります。
弁当店が「異物混入ではないので」と言っているように、たとえば弁当のおかずに金属片が混入していて、それを食べていたら奥歯のブリッジが取れてしまったのであれば、その弁当が「通常有すべき安全性を欠いている」と立証するのは、比較的簡単です。
しかし、今回は白身魚のフライそのものが通常有すべき安全性を欠いているほどに硬かったということを立証する必要があります。
——欠陥があったと立証できればよいのでしょうか?
欠陥の立証をクリアできたとして、次に、その欠陥と男性の受けた損害との間に因果関係があることを立証できるかが問題となります。
今回取れてしまったというブリッジは、失った歯があった部分の両隣に、生えている健康な歯を支柱として橋をかけるように人工の歯を入れる治療法です。ブリッジをかけるときに両隣の歯を削る必要があり、義歯を支える役割を果たすため負担がかかると言われています。
硬い白身魚のフライを噛んだことが、ブリッジが取れたこと、そして、その隣の歯が折れたことの原因であることの立証をする必要があります。
——歯医者さんに協力してもらう必要がありそうですね。
まずは治療をした歯科医師に、ブリッジが取れたことやその隣の歯が折れた状態やその原因についての考えを聞きに行くのがよいかと思います。
たとえば、その結果、ブリッジが取れたことは硬い白身魚のフライが原因と言えそうだが、隣の歯が折れたのは前々から弱っていたことが主原因と考えられそうであれば、治療費の全部ではなく、一部について弁当店に支払いを求めるといった交渉も考えられます。
なお、食品衛生法6条において不潔、異物の混入または添加その他の事由により、人の健康を損なうおそれがある食品は販売してはならないとされています。保健所に連絡をして調査や指導をしてもらうのも同時並行でおこなってはいかがでしょうか。
【取材協力弁護士】
田村 ゆかり(たむら・ゆかり)弁護士
経営革新等支援機関。沖縄弁護士会破産・民事再生等に関する特別委員会委員。
事務所名:でいご法律事務所
事務所URL:http://www.deigo-law.com/