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多発する「無断キャンセル客」に強く迫れない美容業界、回収代理サービスの実態

2023年07月02日 09:21  弁護士ドットコム

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美容院や飲食店を予約して無断キャンセルする「No Show(ノーショー)問題」。店側には材料費などの損害が出るが、「お客様は神様」的な風潮のある日本では、店が直接、客からキャンセル料を回収することはかなりの心理的負担で、泣き寝入りするケースが少なくない。


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そこで出てきたのが、飲食店や美容院、ホテルのキャンセル料回収代理サービスだ。コロナ禍の前に始まり、着実に実績をあげているという。運営する北周士弁護士にノーショー問題の実態と対策を聞いた。(ライター・国分瑠衣子)





●飲食業界は年間2000億円の損害

北弁護士は2019年にキャンセル料回収代行サービス「ノーキャンドットコム」を立ち上げた。無断キャンセルが多いとされる飲食、美容院、ホテルの3業界が中心だ。立ち上げのきっかけは、2018年に経産省の有識者勉強会がまとめた「No show(飲食店における無断キャンセル)対策レポート」だった。飲食業界に与えているノーショーによる損害が、年間約2000億円にのぼることを知り、ショックを受けた。



消費者は店を予約した時点で、料理や技術の提供を受けるという「契約」が成立したことになる。だから無断キャンセルで契約が履行されなかった場合は、店側は債務不履行に基づき客に損害賠償としてキャンセル料を請求できる。



ただ、小規模店は請求手続きを行うだけの人的な余裕がない。また、店側が心理的に請求しにくいという背景もあり、泣き寝入りするケースが少なくなかった。



ノーキャンドットコムは、店舗の依頼を受けてSMSで客にキャンセル料を請求する。1カ月で約1000件の依頼があり、北弁護士がキャンセルした客からの問い合わせに答える。大半の客が初回の請求で振り込むが、応じない場合は複数回請求し、それでも応じない場合は店舗の要望があれば内容証明郵便を送ることもある。



ただ、内容証明を送ったのは過去2回ほどと少なく、訴訟に発展したことは現時点ではない。キャンセル料の回収率は非公表だが、北弁護士が経験した一般的な少額の債権回収の回収率と比べれば高いという。



●回収したキャンセル料の累計が230万円を超えるサロンも 

ホテル、飲食、美容と3ジャンルでサービスを始めた北弁護士が「これほど需要があるとは」と驚いたのが、美容系のノーショーの多さだ。美容系とは美容院だけではなく、ネイルサロン、マツ毛エクステ、マッサージなども含む。



2019年12月から約3年半で依頼件数は約1万件以上、回収依頼額は1.1億円を超える。あるネイルサロンでは累計230万円のキャンセル料を回収したという。



なぜ美容系が多いのか。北弁護士は「全体に占める予約の多さが関係しているのでは」と見る。「飲食は予約なしで当日に利用する人もいます。だから客数全体の予約割合がそれほど高くありません。一方、美容院はほぼ予約なので、無断キャンセル発生の確率が高いのだと思います。飲食店はキャンセルで食材がロスするなど具体的な損失イメージがつきやすいが、美容院はどんな損失が出るのか想像しにくいという理由もあります」



また、美容院やネイルサロンはネットなどで簡単に予約できて便利な反面、予約自体を忘れてしまうケースも多い。「ネイルやまつ毛エクステのようなサロンは、同じ店に継続的に通う人ばかりではなく、初回限定のクーポン目当ての一見さんが、予約して忘れてしまうという状況が発生しやすいのではないかと推測します」



●「将来的には回収サービスがなくなる世界が理想」

ノーショー防止やキャンセル料回収のために店でできることは何か。北弁護士は3つのポイントを挙げる。



1つが予約客へのリマインドだ。北弁護士は「無断キャンセルが少ない店は、予約の日が近付いてきたらリマインドメールを送っています」と話す。費用はかかるが、SMSでリマインドを自動送信するシステムを導入することも方法の1つだ。



2つ目はキャンセル料の目安をまとめた「キャンセルポリシー」を作成すること。小さい店ではキャンセルポリシーがないこともあるが、「ポリシーを作り、提示することで『キャンセルポリシーを見ていなかった』というお客さんの主張に反論することができます」(北弁護士)



最後は名前と電話番号確認の徹底だ。今はインスタグラムのDM(ダイレクトメール)で予約を受け付ける店もあるが、携帯電話番号と名前を確認することで、連絡がとりやすい状態にしておくことが大切だ。



予約した時点で「契約」になり、責任も生じるということが消費者に浸透すれば、利用者のモラルが変わっていくだろう。北弁護士は「ノーショーが減り、将来的には回収サービスがなくなる世界が理想です。請求額が累計で1億円を超える状態は尋常ではありません。利用者のモラルが変わるよう働きかけたいと思います」と話している。