最近、世間を賑わせているChatGPT。質問すれば何でも答えてくれるAIを歓迎する人もいれば、「いよいよ人間の仕事が無くなるのでは…」と不安に感じている人もいるかもしれません。
実は、教育の世界においても、AIやデジタルツールの台頭は大きな波乱を呼んでいます。例えば30人のクラスの場合、子どもたち一人一人に合わせてそれぞれ違った内容の課題を出すことは、担任の先生1人だけでは到底不可能です。
ですが、AIを搭載したドリルがあれば、それぞれの習熟度や苦手に合わせた練習問題を生成し、しかも採点までしてくれます。こうしたAIドリルは既に実在し、教育現場でも導入されています。
では、AIがもっと進歩すれば、学校の先生や塾講師、家庭教師は必要無くなってしまうのでしょうか? 学習塾経営・現役のプロ家庭教師の視点から考察していきたいと思います。(個別指導塾経営、プロ家庭教師:妻鹿潤)
AIドリルは「落ちこぼれ」だけでなく「浮きこぼれ」も救える?
まずChat GPTを始めとしたAIチャットです。これまで私たちは、勉強で分からないことがあれば先生に質問してきました。ですがこれからは、ChatGPTのようなAIに質問すれば事足りる…と言いたいところですが、現状のChatGPTの精度では間違った情報が出てくることも結構な頻度であります。
そのためChatGPTがすぐさま学校の先生や塾講師、プロ家庭教師にとって代わるということは無いと考えられます。
ただ、今後精度が格段に上がったり、もしくは学校の教科学習に特化したAIが開発されたりすれば、「質問は先生ではなく、AIにしてください」という時代がやってくるかもしれません。
ChatGPTのようなツールよりも、むしろAIドリルの方が教育現場にもたらすインパクトは大きいです
AIドリルとは、AIがつまずきの原因を解析し、苦手を解消するために解くべき問題を自動的に誘導する仕組みが搭載された学習用アプリケーションのことです。
例えば、AさんもBさんも分数の割り算で不正解だったとします。AIは2人の解答を分析し、Aさんは分数の割り算の方法が理解できていないことが、Bさんは計算の順序を間違えたことが原因であると判断し、それぞれに応じた練習問題を出題してくれます。
一問一答形式ですぐに回答が確認できるほか、分からないときにはヒントや解説を参照できることもAIドリルの大きなメリットの1つです。
こうした対応を生身の人間で行おうとすると、先生の数が圧倒的に不足してしまいます。子どもたち一人一人に応じた学習の提供にあたっては、AIは非常に効率的かつ効果的なのです。
さらに、一人一人に合わせた学習が可能になることで、どんどん先に進みたい子は先に進めますし、ゆっくりと学ぶ子は自分のペースで進めることができます。
これまでの画一的な学校教育の中では、勉強についていけない“落ちこぼれ”だけでなく、逆にIQが高すぎて勉強が退屈に感じる“浮きこぼれ”も大きな問題となっていましたが、AIによる個別学習の実現により、これらの問題の大部分は解消されていくでしょう。
人間の先生が重要になるのは「非認知能力」の分野
一方で、子どもたちの成長において、生身の人間が関わることの重要性を看過することはできません。自己肯定感やコミュニケーション力、課題解決力などの学力テストでは測れない「非認知能力」は、AIドリルで学習するだけでは身に着けることは難しいでしょう。
子どもの様子をみて、その都度適切な関わり方をしながら成長をサポートしていくことに関しては、まだ当面は人間のほうが強いと感じています。
私も現役の教育関係者として、AIなどのデジタルツールを上手く使いながら、同時に生身の人間だからこそできることは何かを常に自問し、子どもたちに向き合っていきたいと思います。