「とにかく、“よく生きて60歳を迎えられたな”っていうのがひとつですよね」
そう笑ったのはフリーアナウンサーの笠井信輔。'19年にステージ4の血液のがん『悪性リンパ腫』と診断されながらも、闘病生活を乗り越え'20年に復帰。現在もテレビやラジオ、講演会などで精力的に活動しながら、4月に還暦を迎えた。
「ステージ4のがんだと宣告を受けたときは、“もう死んでしまうのかな”って覚悟しました。還暦を前に、そして何よりも、子どもたちの結婚式を見ることもできずに……。私には息子が3人いるんですが、自分の夢のひとつに、“子どもの結婚式で挨拶のスピーチをする”というのがあるんですよね。これまで結婚式の司会を250回以上やってきていて、父親のコメントで泣いたりしていて(笑)。自分もああなりたかったんです。ですから、そんなことをする前に死んでしまうのかっていう思いが最初はありました。ただ、今の医学の進歩に助けられて、命を返してもらって……。そうして迎えた60歳は、やっぱり格別なものがありました」(笠井、以下同)
現在ではその経験を生かし、がんに関する講演も行っている。
「実は、'19年にフリーになった時点で、半年先まで講演の予定が詰まっていたんです。でも、独立から2か月後に見つかったリンパ腫で全部キャンセルに。退院後、新たに講演がいくつか決まりましたが、新型コロナウイルスの影響でみんな延期、中止になりました。ようやく最近は講演会ができるようになって、たくさんご依頼いただけるようになりました」
テーマは、がんや子育てのことが多いという。
「やっぱり、お客さんを前にしゃべるのは、本当に面白いんですよ。テレビでしゃべるのもなかなかいい体験だけれども、講演ではお客さんをどういうふうに自分のトークに巻き込んでいくかっていうのが楽しいですね。お客さんの層によって話す内容を変えたり。あと、講演会では“笑い”を大事にしているんです。どこでウケを取るかっていう。闘病の話であっても、実際に笑いは取れるんですよ。
当事者だからこそ取れる笑いがあるんです。お客さんから“こんなに笑えると思わなかった”ってよく言われます。あとは、自分のテンションと客層にもよるんですが、介護のテーマで話すときはほとんどみなさん泣いて帰られますね。要はどれだけ共感を持ってもらえるかと、大きな気づきを持ってもらえるかを大事にしています。患者にならないと、子育てしないと、介護しないとわからない気づきを持ってもらうこと、そんなお話をどれだけ盛り込めるのかを意識してしゃべるようにしています」
楽しいと言いながら、毎日のように日本の津々浦々を飛び回っている笠井。還暦を迎えた身体に負担はないのだろうか。
「そもそも電車に乗るのが好きなんです。移動して遠くへ行くことがぜんぜん負担ではなくて。むしろリフレッシュになるくらい(笑)。だから、都内の講演会よりも、地方の講演会のほうが好きです。空港から1時間半かかるところや、最寄りの駅からすごく遠いとか、そういう場所にも、結構行きますよ。お客さんから“こんなところまで来てくれたの”って、よく驚かれるんです」
北海道や沖縄などの遠方でも日帰りをすることもあるそうだが……。
「講演の主催の方が“泊まってください”って言ってくださることもあって。とてもうれしいけれども、やっぱり泊まればお金がかかるじゃないですか。主催者側のコスト負担もありますから、日帰りで帰ることが多いですね。でも、それに関してはあまりストレスがないんです。なぜかというと、33年間、ワイドショーや情報番組でリポーターをやっていたから。当時は現場に行って取材して、基本的に日帰りで都内に戻っていました。それが染みついているので、負担はあまりないんですよ。ま、都合よくできているんです(笑)」
目標は「『逃走中』に出たい」
現在は軽部真一アナとともに『男おばさん!!』(フジテレビ系)に出演中。23年も続く長寿番組だ。
「軽部さんとは、例えばお互い妻を失って、家族みんなに見放されたとしたら、2人暮らしできるぐらい仲がいいんです。私が軽部さんを“親友”ってなかなか言えないのは、軽部さんは先輩だから(笑)。よく私のほうが年上に見られるんですけどね。
人間にも寿命がありますが、『男おばさん!!』はいけるところまで頑張りたいですね。あと10年ぐらいはいけるんじゃないかな。例えば、男2人の長寿番組として、ギネスに認定されたりしたら楽しそうですよね」
意欲にあふれている笠井。今後の目標について聞いてみると……。
「マネージャーによく言ってるのは、フジテレビ系のバラエティー『逃走中』に出たいってこと。フリーになってすぐは、結構バラエティーのお話もいただいたんですよ。でも、すぐにがんになってしまって。復帰したら、もうぱったりとバラエティーの話はなくなってしまいました。
これって結構、がん患者やがんサバイバーの人たちが抱えている課題でもあって。“アンコンシャス・バイアス”っていう無意識の偏見があるんです。本人はもう普通に元気にしてるんだけども、“がん患者だったんだから無理しないで”と思われてしまうことですね。差別意識とは違って、優しさから来る偏見なんです。でも、バラエティーの制作陣からいえば無理もないんですよ。がんの人を笑ったり、無理させたりしたら、視聴者に何を言われるかわかりませんから。それに、独立したばかりのある意味“お試し期間”にがんになって休業してしまいましたから、自分のよさもあまり出せなかったなとも思いますしね」
しかし、笠井はめげないのだという。
「周りの人にも“『逃走中』なんて無理だよ”って言われますが、ジムにも行って体力をつけていて。ランニングもしているので、走れる自信もあります。自分が復活して、走り回ってる姿を見てもらいたいし、ステージ4でも、大量の抗がん剤を使っても大丈夫だという姿を見せたいんです。“どうせすぐ捕まるよ”とも言われますが、捕まったら捕まったで、あの牢屋の中で存在感を示すぐらいの腕は持っていますから(笑)。なので、自分の中では『逃走中』がすごく大きな目標ですね。身体を張るバラエティーに出たいです。身体づくりもちゃんとしますから、どこかでチャンスをもらえたらうれしいですね」
終始、目を輝かせながら語ってくれた笠井。『逃走中』出演という“とくダネ”は、ぜひ『週刊女性』につかませてください!