トップへ

アル/ヴェルにセンチュリーのSUVまで! トヨタがVIPカーの覇権を握る?

2023年06月29日 07:51  マイナビニュース

マイナビニュース

画像提供:マイナビニュース
トヨタ自動車のVIPカーはラインアップが充実している。いわずとしれた「センチュリー」に加え新型「アルファード/ヴェルファイア」もあるし、新型「クラウン」のセダンタイプもショーファーカーに使えるクルマとなりそうだ。昔は日産とVIPカーの覇権争いを繰り広げたトヨタだが、これでもう盤石かも?


○クラウンVSセドリックも今や昔



トヨタの新型「アル/ヴェル」発表を受けて、ライバルとなる日産自動車「エルグランド」との戦いの歴史を調べているうちに、その少し前、1980年代後半から1990年代半ばごろまでのトヨタと日産の高級車における頂上対決を思い出した。「クラウン」VS「セドリック/グロリア」(セド/グロ)という構図だ。



「いつかはクラウン」を標榜し、ヒエラルキーの頂点としておじさまたちに人気だったクラウンに対して、1987年にデビューしたY31型のセド/グロは角型ヘッドライトに縦格子の専用グリル、大きめのチンスポイラーなどを装備した4ドアハードトップスタイルの「グランツーリスモ」(通称:グラツー)を用意。さらに、次のY32型グラツーには強力なVG30DETターボエンジンを搭載し、当時の若者たちのハートをがっちりとつかむことに成功した。


セド/グロの押し出し感の強いエクステリアと走りは、当時のちょいワルなマイルドヤンキーな方々にも「VIPカー」として珍重され、おとなしめのスタイルだった9代目のS140系クラウンを圧倒することに成功。300万円台の高価なモデルであったにも関わらず、がんばって手に入れた若いユーザーさんにとっては「買ったぜ!」と周囲に自慢しまくれるクルマとなったのだ。まさに、現代のアル/ヴェルVSエルグランドと同じ構図(メーカーの関係性は逆になったが)といえるのではないだろうか。

○ショーファーカー=セダンは古い?



若者向けVIPカーの覇権争いでは日産に軍配が上がったのだが、当時の「本物のVIP」はどんなクルマを使用していたのだろう。



例えば皇室の御料車としてまず頭に浮かぶのが、日産に吸収合併された旧プリンス自動車が開発した1967年の「プリンスロイヤル」だ。縦目4灯のヘッドライトを持つフロントデザインは同社のグロリアに似て上品で、重厚なセダンボディに搭載した6.4LのV8エンジンで粛々と走る姿はまさにVIPという印象だった。

2006年にその跡を継いだのがトヨタの「センチュリーロイヤル」で、現役の御料車は3代目センチュリーをベースにしたモデルになっている。日産には大型高級車として「プレジデント」があったけれども、御料車にセンチュリーが採用されたこともあって、公用車や社用車としての「ショーファーカー」といえばセンチュリーというイメージが定着した。


この流れに一石を投じたのは、なんとトヨタの現会長である豊田章男氏だった。



新型アル/ヴェルの発表会に登壇したトヨタ執行役員のサイモン・ハンフリーズ氏によれば、2004年に役員だった豊田章男氏が、「広い車内でゆったり仕事ができる、会議の合間にくつろげる、必要なら着替えもできる」ところが彼のワークスタイルに合うということで、セダンからアルファードへの乗り換えを敢行したとのこと。「当時、白のアルファードでサプライヤーを訪れると、『もうすぐ黒のセンチュリーに乗ったVIPが来るので道を開けてくれ!』と注意され、そのアルファードの後席から降りてきた章男さんを見て先方はびっくり仰天した」というエピソードを披露した。ショーファーカーはセダンしか認めないという価値観をアルファードが覆したのだ。


新型アル/ヴェルは、ショーファーカーとしての使用を見越して2列目に充実の装備を盛り込んでいる。例えばエグゼクティブパワーシート、脱着式のリアマルチオペレーションパネル、バニティミラー付き回転格納式テーブル、下降式サンシェード、スーパーロングオーバーヘッドコンソールなどだ。「おもてなし」をテーマとし、かゆいところに手が届くような装備を満載している。アル/ヴェルはいまや相撲の力士や政治家、映画スター、ビジネスパーソンなど、あらゆる人に選ばれるクルマとなり、ショーファーカーのニュースタンダードになったのだ。


トヨタのVIPカーには、さらなるサプライズもある。ハンフリーズ氏は「先ごろ発表したクラウン セダンは『カーボンニュートラルなショーファーカー』という新たな選択肢であり、FCEVユニットの設定もあります。アル/ヴェルとの違いが楽しめて、ショーファーカーを自由に選択できるようになりました。また、究極のショーファーカーであるセンチュリーも、大胆に変えようとすでに動いています」とほかの車種にも言及。画面上にセンチュリーに似たサイドラインを持つSUVスタイルの高級車(センチュリー・クロスオーバー?)のシルエットを映し出すというサプライズ演出を行ったのだ。多種多様なショーファーカーを取りそろえ、トヨタがVIPカーの覇権を握ろうとしている。


原アキラ はらあきら 1983年、某通信社写真部に入社。カメラマン、デスクを経験後、デジタル部門で自動車を担当。週1本、年間50本の試乗記を約5年間執筆。現在フリーで各メディアに記事を発表中。試乗会、発表会に関わらず、自ら写真を撮影することを信条とする。 この著者の記事一覧はこちら(原アキラ)