蔡國強は、火薬の爆発を用いた独自の手法で注目を集め、第48回ヴェネチア・ビエンナーレで国際金獅子賞を受賞しているほか、2008年北京オリンピックと2022年北京冬季オリンピックの開閉会式の視覚特効芸術と花火監督を務めるなど、今日における現代芸術の権威と表現して差し支えないだろう。「蔡國強 宇宙遊―<原初火球>から始まる」は、1991年に東京で開催された「原初火球 The Project for Projects」を、“蔡の芸術におけるビッグバン(原点)”と捉え、火薬や爆破を用いた作品の原点とその起因、今日に至るまでの展開を辿る展覧会となっている。会場では、日本初公開の新作を含む54点の作品を、壁や柱を取り払った2000平方メートルの空間に展示。5つのセクションに作品を区分し、蔡のライフワークでもある火薬絵画を披露するとともに、LEDを用いた大規模なネティック・ライト・インスタレーション「未知との遭遇」が会場の半分を使用して設置されることで、蔡の活動を辿る壮大な旅路のようなデザインとなっている。国立新美術館 館長 逢坂恵理子氏はワンフロアで作品を展示する会場構成について「従来のインスタレーションとは異なるものを試みた」とコメントした。
サンローランが支援した理由 同展は、国立新美術館とサンローランが共催している。プレスカンファレンスに登壇したサンローランの社長兼最高経営責任者 フランチェスカ・ベレッティーニは、今回の支援について「創業者イヴ・サンローラン(Yves Saint Laurent)は、ファッションと芸術の関係性を革命的に変えた人間である」とした上で「アンソニー・ヴァカレロ(Anthony Vaccarello)が率いる現在でも、アートや映画、音楽などのクリエティビティの支援はブランドの使命とも言える」と考えを示す。
「イヴ・サンローランもアンソニー・ヴァカレロも、心が動かされること、自由に協働することを重要視しています。芸術はやる必要がないという人もいるかもしれないが『やりたいからやる』というパッションは潰えるべきではなく、それはブランドにおけるクリエイションにも直結するでしょう」(フランチェスカ・ベレッティーニ)。
同展において、同ブランドのアイテムが登場しないことはもちろん、展覧会全体を通じて同ブランドの主張が極めて希薄なことを加味すれば、フランチェスカ氏が語る「心が動かされること、自由に協働すること」が体現されているようにも感じる。同氏は蔡氏との継続的な取り組みについても意欲をみせた。