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Corneliusが語る、いま「諸行無常」と歌うのは。誕生と消滅、切れ目のなく続く毎日、残された時間

2023年06月28日 18:11  CINRA.NET

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Text by 金子厚武
Text by 山元翔一
Text by Hayato Watanabe

オリジナルアルバムとしては6年ぶりとなるCorneliusの新作『夢中夢 -Dream In Dream-』は、いつになく小山田圭吾のパーソナリティが露わになったシンガーソングライター的な作品となっている。

空間とレイヤーを活かしたCornelius印のサウンドプロダクションが健在であることはいうまでもなく、歌の要素が強まった前作『Mellow Waves』(2017年)の発展形と見ることもできるだろう。しかし、もともと短編映画の主題歌として書き下ろされ、坂本慎太郎が作詞を担当した“変わる消える”とインストを除く全曲の作詞を小山田本人が手がけ、歌っているというのは大きな変化だ。

開会式の音楽を担当する予定だった東京オリンピックにまつわる騒動(※)と、世界中を襲ったパンデミックを経た、現在の小山田の心境が伝わってくる作品であり、サウンドやビジュアルだけでなく、言葉をもデザイン的につくりあげているという意味では、「Corneliusらしさ」をより突き詰めた作品ともいえるはずだ。

アルバムのラストに収録されている“無常の世界”で小山田は、<諸行無常>と歌っている。かつてYellow Magic Orchestraのサポートギタリストを務めた小山田にとって、METAFIVEとしても活動をともにした高橋幸宏、そして坂本龍一との相次ぐ別れが非常に大きな出来事だったことはいうまでもない。久々のインタビューでその胸中をじっくりと語ってもらった。

Cornelius (コーネリアス)
1969年東京都生まれ。1989年、フリッパーズギターのメンバーとしてデビュー。バンド解散後、1993年、Corneliusとして活動開始。現在まで6枚のオリジナルアルバムをリリース。2023年6月、7thオリジナルアルバム『夢中夢 -Dream In Dream-』を発表。自身の活動以外にも、国内外多数のアーティストとのコラボレーションやリミックス、プロデュースなど幅広く活動中。

―2022年7月に“変わる消える(feat. mei ehara)”が出て、そのあと『FUJI ROCK FESTIVAL』と『SONICMANIA』に出演されたのがCorneliusとしての活動再開だったと思うんですけど、まずはあの2本のライブの感想を教えてください。

小山田:一昨年のオリンピック関係の騒動以来、ほとんど活動をなにもしてなくて、あの2本のライブが活動再開の一発目って感じだったので……普段はあまり緊張しないんですけど、珍しく緊張したのは覚えています。

でもあの件があって活動するのが難しかったなかで、SMASHとCREATIVEMAN(※)の方が声をかけてくれたんです。それをきっかけにして、活動を再開することができました。

小山田:あとはもちろんコロナもあったけど、『サマソニ』とかはお客さんも結構たくさんいて……そういえば、『SONICMANIA』ではメンバーが1人いなくて(笑)。ライブ直前に3人でやることが決まって、ちょっと大変だったけど、無事にできてよかったです。

―『フジロック』は活動再開一発目のライブだったからいい緊張感もありつつ、久々にCorneliusのライブが観られてうれしかった印象がすごく残っています(※)。『SONICMANIA』はいまおっしゃられたとおり、直前に「堀江さん(堀江博久)が出られない」という情報があって、SNSにはThe Jam風の写真がアップされていて(笑)。堀江さんはウワモノ担当とはいえ、あの難しい曲を3ピースでできるんだっていうのはびっくりしました。

小山田:さすがに、あらきさん(あらきゆうこ)とかがいないと成立しなくなっちゃうんだけど、おっしゃるとおり堀江くんは基本ウワモノで、トラックに堀江くんの音を入れなおす作業をする時間がギリギリあったので、「それならできるかな」って。もちろん大変ではあったんですけど、でもせっかくの機会なので、「ここは頑張ってやろう」ということになりました。

―あれはあれで非常にレアなライブが体験できたなと、ちょっと得したような気分にもなりました。

―その一方で、アルバムの制作に関してはいつごろから、どのようにはじまっていたのでしょうか。

小山田:途中でMETAFIVEが入ったり、ほかのプロジェクトが入ったりもしながら、2020年ぐらいから空いてる時間にちょっとずつ曲自体はつくりはじめていました。

“変わる消える(feat. mei ehara)”が再配信されたのが2022年の『フジロック』の前あたりで、今年の頭に自分のバージョンを出しました。騒動があったので、一昨年の夏からしばらく音楽ができない状態が続いていたんですけど、2022年の年明けぐらいからちょっとずつまた音楽と向き合えるようになってきたので、そこから本格的にアルバムをつくりはじめた感じです。

―音楽ともう一度向き合えるようになったのは、なにかきっかけがありましたか?

小山田:特になにかひとつのきっかけがあったわけではなくて……。一昨年の夏以降は本当に大変だったんですけど、オリンピックが終わったタイミングで自分の声明文を出して、その年末に宇川くん(宇川直宏)とかが「DOMMUNE」をやってくれてちょっと新しい気持ちになれたり……そうやって徐々に、っていう感じでしたね。

―アルバムをつくるにあたっての方向性やイメージはどの程度ありましたか?

小山田:最初はなにも考えないで曲をどんどんつくっていきました。本当は今回アルバムに入った以外にもう1枚分ぐらい曲があったんですけど、途中からなんとなくの方向性を自分で決めて、それに合う楽曲をまとめた感じです。

―その「なんとなくの方向性」というのは?

小山田:シンガーソングライター的というか、今回は歌詞もなるべく自分で書こうと思ったんです。これまでも自分で書いてはいたんですけど、坂本くん(坂本慎太郎)にお願いすることも多くて。

坂本くんは大好きな作詞家で、日本で一番すごい作詞家だと思ってるから、坂本くんとやったらいいものができるのはわかってるんですけど、今回は基本全部自分で歌詞を書くっていうのがひとつのチャレンジとしてあったんです。いままでみたいに「サウンドプロダクションを聴かせる」というよりも、シンガーソングライター的な、パーソナルな感じで1枚つくりたいっていう方向性が途中からから見えてきました。

―曲のつくり方自体になにか変化はありますか?

小山田:特には変わってなくて、今回もハードウェアは一切使ってないです。声とギターとベースと、オーディオで録ったのはそのくらいで、あとは全部プログラミングでつくっています。

事務所の上のスタジオでマニュピレーターの美島さん(美島豊明)と2人でつくって、最後にエンジニアの高山さん(高山徹)が入ってミックスとマスタリングをするっていう、関わっているのはその3人だけですね。

『FANTASMA』(1997年)のころはまだ外のスタジオでドラムを録ったりしていましたけど、以降は全部自分のスタジオでやるようになって。『POINT』(2001年)のころはサンプルを録って自作のドラムキットのプログラミングをつくっていたんですけど、最近は普通にプラグインのドラムマシンのなかから選んでいます。

前作くらいからアンプも使ってないし、アウトボードもほぼないので、使っているのはパソコンとギターとベースとマイクぐらい。昔は「シンガーソングライター」というとこういう感じ(と言ってギターを弾く手振りをする)だったけど、現代のシンガーソングライターにはパソコンでやる人も多いですよね。

―サウンドではなく言葉に向かったというのも、やはり一連の騒動を経過したからこそだと言えますか?

小山田:そうですね。自分の内面と向き合う時期が長かったので、これまではあえてやってこなかったですけど、パーソナルな表現を出してみるタイミングなのかもしれないなって……。

まあ、騒動だけが理由ではなくて、単純にいままでトライしてこなかったので、ちょっとフレッシュなことをやってみたい気持ちもありました。“環境と心理”をつくったときに、自分なりのやり方がちょっと見えた感じがあって、この感じで1枚やってみようかなっていうのもありましたね。

―その「自分なりのやり方」というのは?

小山田:いつもはもうちょっと周りを表現するというか、単純な言葉を並べていって、あとは想像で埋めていくみたいな書き方だったんだけど、もうちょっとストーリー性があるというか、普通の歌モノというか、そういう感じでわりとスルッと“環境と心理”ができたので、この感じでいけたらいいなと思って。

小山田:淡々としてるんだけど、ちょっとエモーショナルな部分がある。そういう曲はいままであまりやってこなかったんですけど、これはわりといい塩梅でできたなと思ったので、この調子で1枚つくってみようかなって。

―アルバムに先駆けて先行で配信された“火花”はまさにシンガーソングライター的な印象の曲で、アレンジやプロダクションも比較的ストレートですよね。

小山田:“火花”は2020年とかにつくっていた曲で、たぶん今作で一番古い曲。サウンド的には、自分が10代のころに聴いていたようなイギリスのバンドを自分流にアップデートするみたいな感じでつくってます。

歌詞を見ると、「炎上のことがよみがえってくる」みたいに言われることが多いんですけど、じつはあの件よりもずいぶん前につくった曲なんです。

―<過ぎてった 瞬間が/突然に 蘇る/脳の中 消去した/思い出が 顔出す>ですもんね。たしかに炎上騒動と関連づけて聴くこともできます。

小山田:あの件を踏まえて聴くと、あのことを言っているようにしか思えないんですよね。

でも坂本くんが歌詞を書いた“変わる消える”に関してもそういう感じがして、別にそのことについて書いたつもりじゃないけど、いろんな境遇とか状況を重ね合わせられるようなことってポップソングにはあって。逆に言えば、すごくパーソナルなことを歌っていても普遍的なものになりうるというか、そういうことは意識しながらつくっていきましたね。

―たしかに“変わる消える”の<ずっと見ないふりしてた>というワンフレーズにしても、小山田さんの騒動と重ねる人もいるだろうけど、その人の置かれた境遇や状況によって歌詞の解釈が変わるというのはポップソングの醍醐味ではありますよね。

小山田:僕が歌った“変わる消える”のカップリングの“続きを”は、salyu×salyuでつくった曲なんですけど、ちょうどあの曲のオリジナルがリリースされたのが震災のタイミングで、震災のことを歌ってるようにしか聴こえなくなっちゃったんですよね。

小山田:あの曲も坂本くんが作詞なんですけど、坂本くんの歌詞はそういうことがよくあって、やっぱりそこがすごいところだなって思います。別にそのことを歌ってるわけじゃないんだけど、なにかの状況があるとそこにぴったりはまっちゃう。炭鉱のカナリア的な感じというか、なにかを察知しちゃってるというか、そういうのもあるなと思うんですよね。

―ずっと坂本さんと一緒に曲をつくってきたからこそ、坂本さんのテイストみたいなものが自然と小山田さんのなかにも入ってきていて、だからこそ“火花”もある種の炭鉱のカナリア的な曲になったのかもしれない?

小山田:坂本くんみたいに上手くはできてないんですけど、でもなにか影響はあると思います。

―“火花”のタイトルの英訳が「Sparks」なのは小山田さんらしいなと。

小山田:「Sparks」か「Sparkle」かで悩みました(※)。Sparksか達郎さんかどっちかなって(笑)。

―どっちもありですね(笑)。

―“火花”はわりと以前に書かれた歌詞とのことでしたが、比較的最近書いて、ご自身のパーソナリティがより反映されている曲を挙げていただけますか?

小山田:最後に入ってる“無常の世界”は今回のアルバムを象徴する曲だと思っています。ここ数年に自分の周りに起こったことだったり、世の中に起こったことを思いながら書いた曲ですね。

―“DRIFTS”や“無常の世界”は単語を並べることでイメージを広げたり、つなげたりしていて、ひとつの作風になっているように思います。

小山田:そうですね。前のアルバムに“夢の中で”って曲があって、こういう感じのやり方はそのあたりからですね。

四字熟語は少ないセンテンスでいろんな意味合いが込められるし、発語したときの気持ちよさもあって、今回もスタイルのひとつとして取り入れました。“Audio Architecture”(※)は英語ですけど、単語を2つ並べてその対比でつくっていくやり方は、今回の作詞にも近いですね。

―“無常の世界”では「諸行無常」という四字熟語が印象的に使われていて、すごくヘビーでもあるし、でもこの3年間はそれを実感した日々でもあったなと感じます。

小山田:ヘビーっていうのもあると思うんですけど、「諸行無常」と考えることで楽になることもいろいろあって。あとは最近自分が子どものころに憧れていた人とか先輩がどんどん亡くなってたりするので、そういう気持ちも少し入ってます。

―タイトルを見て一瞬、The Rolling Stonesを思い出しつつ、でも英訳のタイトルはジョージ・ハリスンで。

小山田:ストーンズは「無情」だけど(※1)、こっちは「無常」で、英訳すると「All Things Must Pass」になるんじゃないか、という考え方ですね。

たぶんジョージ・ハリスンはThe Beatlesのなかでも一番東洋思想にハマっていて(※2)、あの曲自体「諸行無常」みたいなことを歌った曲だと思うんですよね。なので、曲自体は全然The Rolling StonesでもThe Beatlesでもないですけど、タイトルの英訳として採用しました。

―“火花”はミュージックビデオも非常に印象的でした。監督はお馴染みの辻川幸一郎さんですが、基本的には曲だけ聴かせて自由につくってもらった感じでしょうか?

小山田:曲を渡して、ざっくり話をして、コンテが送られてきてって感じですかね。

―言葉ではどの程度イメージを共有したのでしょうか?

小山田:タイトルが“火花”だからシンプルに映像も火花でいこうっていう、最初はそのくらいだったんですけど、今回はもうMVという概念がないというか、ライブの背景として一番映える状態を優先してつくっていこうって感じでした。

あとはCGのクオリティですよね。犬童宗恒くんは“Fit Song”のMVからずっと一緒にやってる人で、“あなたがいるなら”もやってもらってたり、日本でも有数のつくり手なんです。経歴がすごくおもしろくて、東大を出てCGのほうに行ってて、あとドラマーでもあるから音ハメがすごく上手い。リズムの概念がしっかりとあるから、「キックにはこういう感じ」とか、「スネアのタイミングとこうあわせる」みたいなこともわかる。

小山田:火花が散ったときにどういう軌道を描いて地面に落ちて、この速度だと何回跳ねるとか、そういう物理計算みたいなのがCGではすごく重要らしいんですけど、そういう数学脳と、ドラマーだからこその音楽脳とを両方持っている人なんです。

―コロナ禍を経て映像技術の進化もすごくあって、ライブの演出にしてもLEDスクリーンにクオリティの高い映像を投影してライブをすることがかなり一般的になりましたよね。

小山田:いまのCGのクオリティは現実と見分けがつかないぐらいになってきてますよね。このチームとは長くやってるので、今回もすごくいいものができてよかったです。

―アートワークについてもお伺いしたいです。

小山田:今回はマルチプル・エクスポージャー、多重露光的なものをジャケットのコンセプトにしていて、いろんなレイヤーで絵を重ねています。それは共通した言葉がいろんなところに出てくる歌詞にも通底することで、アルバムを通したひとつのコンセプトです。

―たしかに、先行で配信された“変わる消える”や“火花”のアートワークからしてそうですね。

小山田:今回使った写真はSNSで見つけた写真なんです。“変わる消える”は、「人の写真」と「橋の写真」が多重露光されているんですけど、「人の写真」はポーランドに住んでる19歳の写真家志望の子のInstagramで見つけて、「橋の写真」は広島在住の方のブログにあったんですけど、その2人の写真を重ねてつくりました。

“火花”は普段は結婚式の写真とかを撮ってるカナダ在住のフォトグラファーが、趣味で撮ってるアブストラクトな写真がいくつかあって、それを重ねてつくっています。アルバムの写真はそのポーランド人とカナダ人の写真と、あとはiPhoneで撮った近所の写真をミックスしてつくってるんです。「夢の中の夢」みたいな、そういう多重世界的なものをビジュアルで表現すると多重露光なのかなって。

―サウンドのレイヤー感も含め、そこはトータルでコンセプチュアルに表現されているわけですね。

小山田:「こういう写真が撮りたい」「こういうイメージがある」みたいに狙って写真を撮ろうとしても、なかなか思ったとおりに撮れないんだけど、いまの時代SNSがあるから、イメージにあった写真を見つけて、その人に直接コンタクトをとって許可をもらえばいいわけですし。

小山田:そうすると一気に選択肢の幅が広がるし、いまはSNSをポートフォリオ的に使ってる人がたくさんいますからね。

使わせてもらった写真は、そんなに有名じゃない人のほうがいいなと思って、イメージにあう写真をいろいろ探していくうちに見つけて。広島の方はCorneliusをなんとなく知ってくれていたみたいで、快くOKしていただきました。

―アルバムタイトルは『夢中夢 -Dream In Dream-』で、収録曲のなかには“霧中夢”というアンビエント色の強いインストも入っていますが、このあたりの関係性であり、タイトルの由来を教えてください。

小山田:順番はどっちだったかな……曲のほうが先だったかもしれない。タイトルのイメージとしては「夢の中の夢の中の夢の中の夢の中の……」みたいな感じなんですよね。

―ループしているような感じというか。

小山田:そうですね。去年ちょっと体を壊しちゃって、背中が痛くてなかなか眠れなくて睡眠薬を飲んだりするようになったら、よく夢を見るようになったんです。それで「夢か現実か」みたいなことをすごく考えるようになって。

Cornelius“霧中夢”を聴く(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く)

小山田:あとYouTubeで科学系のチャンネルをよく見ているのも関係しています。多重世界やパラレルワールド的なこととか、量子力学に興味を持って、いま自分たちが感じている世界というものの実在について考えたりするなかで、このタイトルが思いつきました。

正しい文法でいくと「Dream In A Dream」だと思うんですけど、このシンメトリーの感じ、永遠に続くループ感みたいなのが気持ちいいと思って、それで『夢中夢 -Dream In Dream-』になったんです。

―“時間の外で”もそういう世界観の楽曲ですよね。

小山田:“時間の外で”は星が散らばっている感じをエレピで表現しているんだけど、エレピの入るタイミングをすごくランダムにすることで、宇宙の不確定性みたいなものを表現してみました。あとD.A.N.のリミックスはこのトラックをベースにつくったので、聴き比べると兄弟っぽく聴こえると思います。

小山田:まあ、量子力学なんて本当に難しい話だから、僕も全然わからないんですけど、SF的だと思っていたことが本当にそうかもしれないとか、科学を突き詰めていくと仏教的な考え方とすごく近いものになっていったりとか、そういうのがおもしろいなと思ってます。

コロナのことも含めたこの数年間って、本当にみんな不思議な時間を過ごしたと思うんです。それこそ現実なのか夢なのか、みたいな。いまはいろんなことが終わったことになってるけど、「これ、本当に終わってるのかな?」みたいな、ここ数年の感じが作品につながったんじゃないかなと思っています。

Cornelius“蜃気楼”を聴く(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く)

―“環境と心理”に関しては去年の『フジロック』と『SONICMANIA』でも演奏されていて、セルフカバーを入れようというのは早くから決めていたわけですか?

小山田:そうですね。もともとMETAFIVEとして3年前に発表した曲ですけど、幸宏さんが亡くなっちゃって、METAFIVEは活動できなくなってしまった。

でもこの曲は自分でも気に入っていたので、このまま演奏されることがなくなっちゃうのはもったいないなと思って、これは引き継いでやっていこうかなと。いろんな思い出がある曲ですしね。

―この1、2年は幸宏さんとはお会いできていたのでしょうか?

小山田:一昨年の年末に一度軽井沢に会いに行きました。そのときにお会いしたのが最後かな。

去年、幸宏さんの70歳記念のライブがあって、ご本人も出る予定だったんだけど、去年の夏ぐらいからあまり具合がよくなくなってしまって結局それは叶わず、今年の1月に亡くなられて軽井沢で最後のお別れをして、っていう感じですかね。ある程度覚悟はしていたんですけど……でもやっぱりね、寂しいですね。

しかもそれからすぐに坂本さんとかね、鮎川さんもそうだし、信藤さんもそうだし、本当に仲よくしてもらっていた先輩が毎月のようにいなくなっちゃって(※)。みんなまだ引きずってはいると思うんですけど……とはいえね、まだ我々の人生はもうちょっと続くんでね。

「高橋幸宏 & METAFIVE」名義時代の高橋幸宏と小山田圭吾のインタビュー記事(2014年)より(記事を開く) / Photo by 永峰拓也

―いまCINRAでは坂本さんのキャリアを振り返る連載を公開していて、小山田さんは現在54歳で、Corneliusとして活動を開始してから今年でちょうど30年にあたると思うんですけど、坂本さんは54歳でレーベル「commmons」を設立し、その3年後に傑作として評価の高い『out of noise』を発表されています。もちろん、小山田さんのキャリアと坂本さんのキャリアを単純に比較することはできませんが、今後のキャリアについて、小山田さんのなかでなにか思うところはありますか?

小山田:30年っていうのは言われて初めて気づいたくらいなので特にどうっていうのはないんですけど、ただ一昨年の炎上の件もあって、今回リスタートみたいな気持ちはちょっとあります。とはいえ目標とか野心みたいなことがあるかというと……でも坂本さんが『out of noise』で到達した感覚はすごくわかりますよ。

小山田:90年代とかは本当にいろんなタイプの音楽をやっていたけど、やっぱり『CHASM』(2004年)ぐらいからちょっとシフトが変わっていって、あれが50歳前後の作品ですよね。だから、僕が坂本さんとかと一緒にやりだしたのがいまの僕の年齢ぐらいで、そのとき坂本さんや幸宏さんはすごく先輩だと思っていたけど……自分はこの年になってまだこんな感じなのかって思ったりはしますね。

でもやっぱり自分も坂本さんみたいに……まあでもね、人によってだからなかなか難しいですけど、でももう残された時間はそんなにないんだなってことは正直自覚してます。まだ50代だけど、でもそこから坂本さんや幸宏さんがいなくなるまでって本当に一瞬だったから。

そんなに時間はないんだなって気持ちがあるから、なるべく本当に自分のやりたいこととか、本当に自分がやるべきことにフォーカスしてやっていかないとなって考えていますね。