「問題勃発 中学生のお出かけに3000円渡すのか?」
6月上旬、そんなサムネイルの動画をタレントの辻希美が自身のYouTubeチャンネルにアップ。4月に中学生となった長男のお金の使い方に悩んでいることを明かした。辻によると、長男は「これでやりくりして」と渡した入学祝いをすぐ使うなど、貯めておけないタイプ。そんな長男から「明日、友達と銭湯行くから3000円ちょうだい」とねだられたことを問題視。「3000円稼ぐのは大変なこと」と長男を諭し、入場料の1200円のみ渡してあとは「皿洗い1回につき100円」など自分で働いて稼ぐことを促した。
この一連のやりとりに対して、視聴者から寄せられたのが、「思春期の子どもとおこづかいについて論争するのが一般家庭と同じで安心しました」、「辻ちゃんの愚痴、よくわかる。言ってもらえてスッキリ」といった共感の声。多くの家庭で同様のバトルが繰り広げられていることがわかる。
子どもの人生を左右する「おこづかいの渡し方」
「辻さんは芸能人でありながら、ごく普通の金銭感覚の持ち主。だからこそ息子さんのお金の使い方が気になるのでしょうが、実はこんなふうにお金に関する困り事が起こったときこそマネー教育を始めるチャンス。そのツールとして活用できるのが、おこづかいなんです」
と話すのは、教育ジャーナリストの藍ひろ子さん。
おこづかいというと「子ども自身が欲しいものや、したいことのために使うお金」というイメージがあるが……。
「私がおすすめしているのは、それだけでなく文房具代や塾に行く際の交通費など、『必要なもの』の費用までおこづかいに含めて渡す方法。子どもに任せる額は年齢や責任能力に合わせて、徐々に増やしていきます」(藍さん、以下同)
その目的は、お金の使い方を学ばせることだという。
「子どもはいずれ独り立ちします。その際は親の保護なしで、自力で家計をマネジメントすることが必要。そこで、子どものうちから長い時間をかけて、子ども自身に任せるお金の額を増やし、少しずつ一人前の金銭管理ができるように近づけていくのです」
ちなみに、2015年に行われた調査(※)によると、おこづかいのもらい方は、必要に応じてその都度渡すことを示す「ときどき」が小学校低・中学年では半数以上。高学年でも「ときどき」が4割近くを占め、月1回もらう場合は500円との回答が多かった。(※金融広報中央委員会 子どものくらしとお金に関する調査(第3回)2015年度調査)
「この結果から、欲しいものを買うために少額のおこづかいを渡すか否かの違いはあれど、多くの家庭で親が子どものお金の使い方を管理していることがわかります。お金に関するトラブルを避けることができるため、親はラクですが、そのままでは趣味にお金を使いすぎたり、いつまでも親の経済力に頼ったり、金銭管理能力が危うい大人になる可能性も」
18歳で成人したら、1人で賃貸住宅やクレジットカードなどの契約を結ぶことも可能になる。その結果、マルチ商法の被害に遭うなど、大きなマネートラブルに巻き込まれるケースもあるという。
「そんな事態を避けるためにも、親の管理下にあるうちに自分でお金をやりくりして、時には失敗する経験を積むことが重要となるのです」
おこづかい会議を親子で開催
家計管理ができるようになる具体的なやり方は?
「まず子どもとおこづかいについて話し合う機会を設けます。予算会議を開くイメージで、子どもの生活に必要なお金を親子で確認しましょう」
大切なのはこのとき、親も子どもに使っているお金を子どもの理解度や年齢に合わせて提示すること。
「少々面倒ですが話し合う前に、親子双方が週給制なら1週間、月給制ならひと月単位で、項目ごとにかかるお金を書き出しておくと、話し合いがスムーズに進みます。もちろん小学校低学年くらいまではその場で親が聞き取りして書き出す形でかまいません」
例えば必要な出費では、文房具など学用品、野球など地域のスポーツチームの会費や保険代、お稽古事や塾の交通費、中高生の昼食代。
子ども側の出費としては、おやつ代、個人的に欲しいもののお金、遊ぶためのお金、などが考えられる。
「これらを合わせたものがおこづかいの予算となります。肝心なのはそこに『貯金』と『寄付』のためのお金を加えること」
さらに必要なのが、友達や家族へのプレゼント代、高額な欲しいものなど、年単位の出費の書き出し。
「これらの総額の分割額を『貯金』として予算に上乗せ。少しずつ貯めることで、計画性を身につけることができます。また『寄付』するお金を確保することで、自分のためだけでなく他人や社会のためにお金を使う意識が育まれます」
当然ながらこれらを加えたおこづかいは、以前より大幅な増額になるケースがほとんど。子どもの成長に伴い、洋服代や大学進学のための貯金など自分でやりくりする範囲を増やせば、金額はさらに大きくなるが、それでOK。
「一方で、おこづかいは家計に無理のない金額であることが大前提。もし子どもが分不相応な金額を要望したら、長期間かけて貯めることを促すなどじっくり話し合いましょう。反対に節約を優先するあまり、絶対に足りない額を提示するのもNG。子どもが自分の裁量で使えるお金が少なすぎると、やりくりする力が育ちません」
藍さんはマネー教育の一環として、子どもができる範囲で、家の仕事を引き受けることもすすめている。
「大人が働いて給料を得るように、家事の分担を決め、その対価としておこづかいを支払います。わが家の場合、息子が小学生のときは週3回の洗濯物たたみと皿洗い、部活と勉強で忙しくなった中学生のときは夕方帰宅時の新聞取りと週1回の皿洗いを仕事としました。このようにその子のできる範囲でかまわないので、家族の一員として責任を持ち仕事を遂行してもらいましょう」
親がその都度、頼む通常のお手伝いも、仕事ごとに金額を設定しておくといいそう。
「子どもがもっとお金が欲しいと思ったときに、働いてお金を得られる仕組みも整えておきます。家計に響くことのないように、上限額をあらかじめ決めておけば安心」
これらの合意内容は書面にして明文化。最後は親子で「おこづかい契約書」にサインを。
「大人になれば、スマホ購入やアパート賃貸などさまざまな場面で契約を結びますから、その練習にもなります。なお、契約内容は年1回など必要に応じて見直しましょう」
その後は、見守る姿勢で、親子ともに契約を遂行していく。
「最初のうちは、おこづかいを渡したらすぐ使い切ってしまったなんて失敗も。しかし、その経験を経て、子どもはお金の使い方をコントロールできるようになります。ですから親から見て無駄づかいに思えるときも手出しは無用。ただし、発達心理学の観点から、小さければ小さいほど長い時間の見通しを立てることが難しくなります。ですから、おこづかいは週単位で渡して、容易にリセットできるようにするといいでしょう」
辻ちゃんの長男のようにお金の使い方が気になる子どもでも、このやり方は有効?
「もちろんです。お子さんは大きく分けて、コツコツ貯めることができる子と、どんどん使いたくなる子の2つのタイプがあると感じますが、後者こそおこづかい契約が非常に有効です」
子どもがお金をねだってきたそのときがチャンスかも!?
お話を伺ったのは……藍 ひろ子さん●長年、出版社で雑誌および書籍の編集者として、育児・教育分野の仕事に携わったのち独立。公認心理師でもある。著書に『誰も教えてくれなかった正しい子どもの育て方』(主婦の友社)がある。