“マンガ原作者の仕事”にスポットを当て、なぜマンガ原作者という仕事を選んだのか、どんな理由でマンガの原作を手がけることになったのか、実際どのようにマンガ制作に関わっているのかといった疑問に、現在活躍中のマンガ原作者に答えてもらう当コラム。原作者として彼らが手がけたプロット・ネームと完成原稿を比較し、“マンガ原作者の仕事”の奥深さに迫る。
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第9回には「バッカーノ!」「デュラララ!!」シリーズなどを手がけた小説家として知られる成田良悟が登場。成田が原作を務める「デッドマウント・デスプレイ」は4月にTVアニメ化され、第2クールは10月から放送予定だ。普段は小説家として活躍する成田は、“マンガ原作者”としてどのように作品と向き合っているのか。その創作の裏側を聞いた。
構成 / 増田桃子
■ 「デッドマウント・デスプレイ」第1話のシナリオと、完成原稿を見たときの感想
「藤本新太さん、凄いな……」というのが正直な感想でした……!
私は基本的に文章で書いていて、1話製作時は冒頭部分3~4ページだけセリフ配置などしてみましたが、それ以降は「あ、下手になんかやらないほうがいいな」と全部お任せしている感じです!
こちらの意図を読んでくださるというか、こちらの意図以上にシーンの中身を理解してガッツリとマンガの形にしてくださっている感じがあり、ネームではなく脚本オンリーの私としては正しくマンガ家の皆さんは魔法使いです。私が投入した素材から、こちらの心を躍らせてくれる魔法を生み出してくださいます。
藤本さんは1話の時点で「これは凄い魔導師だぞ」と確信しましたね……。それほどに素晴らしい第1話を描いてくださいました……!!
■ 「デッドマウント・デスプレイ」の原作を担当することになった経緯
もともとスクウェア・エニックスさんでは拙作「デュラララ!!」と「バッカーノ!」のコミカライズをしていただいていたのですが、「バッカーノ!」の担当だった清水さんから「『バッカーノ!』のコミカライズを担当した藤本さんの作画で、完全新作をやりませんか」という打診をいただきました。余所様で1つマンガ原作作品が打ち切られて「自分はマンガ原作者に向いてないのかもしれないなー」と思っていた矢先に声がけをいただきまして……少し迷いつつも「自分がマンガ原作者もやれるのか、まだ確かめてみたい」という思いもあり、引き受けさせていただきました。
そこからこうしてアニメ化まで作品を押し上げていただいたことには、藤本さんにも担当さんにもヤングガンガンさんにも感謝するばかりです……!!
■ 原作担当として最もこだわっている作業
キャラクターが読者の皆さんに好かれるかどうか──あるいは逆に、悪役の場合は如何に「こいつはヤバい奴だぞ」と読者に伝えられるかどうか、ということです。
まずは藤本さんにそれをお伝えしなければいけないので、セリフや佇まい、一挙一動の動きで「どんなキャラクターなのか」ということを解りやすく伝えられるようにしよう、というのを念頭に置いています。
あとは、こちらが想定しているシーンの雰囲気そのものをどれだけ作画のマンガ家さんに伝えられるか、ということでしょうか。
このコーナーの
三条陸さんの回(バックナンバー第7回)で、原稿用紙で2行使って大文字で書くという手法があったと思いますが、アレは凄く効果的だなと思います……!! 私はパソコンでのデータでシナリオを送っている形ですが、ここ数十話は雰囲気を強調するときはもう文章で、
【そこで大ゴマで明かされる○○の正体! ザ・サプライズ! 驚天動地! これには読者の皆さんもきっとビックリだし(ビックリして欲しい)、作者の私もビックリですよヒュー!】
【ここで背後に大量の霊が! ホラー! こ、怖い! OH,テリブル!!】
【レミングスは全身のフィジカルだけでその攻撃を耐え凌ぐ! パワフル一番星!】
【しかし小幽は迷わず相手の顔面に爪を伸ばす! ショッキング! そういう所は実に黒雷!!】というようなノリで、ナレーションでもセリフでも情景描写でもない、単なる私の感情の叫びを付け足すこともしばしばあります。……まあ、それが効果的なのかはわからないですし、どう思っているのか藤本さんに聞いたことはないので、逆に邪魔だと思われていたら申し訳ないのですが……!!(笑)
■ マンガ原作者という仕事の魅力
自分の提出した素材が完成品となって出てくることで、自分が制作者であると同時に読者の1人として改めて楽しめることだと思います。小説の場合でも素敵なイラストレーターさんやデザイナーさんが手がけてくださる挿絵や表紙でそれを味わうことができるのですが、マンガの場合は本編そのものに変化が現れるので、また違ったワクワク感があります。
今でもネームが来るたびに「2番目の読者(最初の読者は担当編集さん)」としてドキドキしながら読み進めています。このドキドキ感は10年ぐらいマンガ原作をやっても、いまだに最初の頃と変わらないですね……!!(笑)
■ マンガ原作者を目指す人へのメッセージ
そもそもアドバイスができるほど熟達した理論などを持っているわけではないのですが……。
敢えて言うとするなら、私のこのインタビューも含めて、周りの声に囚われすぎないほうがいいですよ、と。
最近は「作品はこうじゃなければダメだ、こうじゃなければ売れない」という物言いでいろいろとSNSなどで語っている人も多いですし、私も時々創作について呟くこともありますが、どの意見にも正しさと間違いがあると言いますか……一見正しそうに見える意見の中にも「例外」はあって、その例外でこそ輝く人もいるかと思います。
なので、頭には一応入れておいて、自分で描くときに迷ったときに「こんな意見が前あったけど……それに従って直す!」でもいいですし「いや、敢えて無視する!」でもいいと思います。選択したことで自分の話に自信と勢いがつくなら万々歳ですよ。
勢いで思い出しましたが……私個人としては、資料はある程度まで調べるほうです。それは昔、ある御方の本の中で「資料をきちんと調べると、嘘を書くときに堂々と嘘をつける」という話を見たことがありまして。確かに「この時代に銃ってもう在ったっけ……なかったっけ……」と不安げに銃を登場させるよりは、「現実ではこの時代のこの国に銃などない! でも、それを分かった上で敢えて出す! いや、だからこそ出すのだ!」としたほうがスッキリ書けるし、そこから話をさらに拡げられるなと実感しています。「DMDP」で言うなら小幽のサイボーグギミックとかですね。
この話も、ぶっちゃけてしまえば「史実など調べなくても堂々と出す」ことができて、なおかつ傑作を書ける人もいるでしょうし、絶対ということはないです。
時代とともにマンガ業界もいろいろと変わっていくので、1年前まで有効だったアドバイスが今はもう通用しないというケースもこの先どんどん出てくるのではないでしょうか。デバイスに合わせて、縦読みマンガのWebtoonなど、新しいマンガの形や話の流行も変わっていく昨今です。スマートフォンに変わる新しいデバイスが生まれたら、また縦読みとも横読みとも違う新しいマンガが生まれるかもしれません。
日々変わる情勢を自分で調べるもよし、マンガ家さんや担当さんに相談するもよし、あるいは流行も形式も知るかと自分のスタイルを押し通すのもよいでしょう。そうやって、自分が楽しんで面白くマンガを描ける方法を見つけるのも一興じゃないかなと思っています。
私のこのインタビューも含めて誰かのアドバイスを盲信するのもいいのですが、「それ以外の方法に敢えてチャレンジしている人」を頭ごなしに否定することだけはしないでほしいなというのが、アドバイスではなく私の個人的なお願いですね……!
■ 成田良悟(ナリタリョウゴ)
2003年に「バッカーノ!」でデビュー。その後「越佐大橋シリーズ」「デュラララ!!」シリーズ、「ヴぁんぷ!」など代表作は多岐にわたる。2017年10月にヤングガンガン(スクウェア・エニックス)でスタートした「デッドマウント・デスプレイ」は単行本11巻まで発売中。2023年4月にはTVアニメ化を果たした。同年10月からの第2クールも控える。