2023年06月23日 15:41 弁護士ドットコム
次亜塩素酸水のコロナへの消毒効果について誤った情報が広められ事業に支障が出たなどとして、製造・販売事業者らが6月23日までに、NHKや国などを相手取り、それぞれ1億円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。次亜塩素酸水は、コロナ禍初期の2020年5~6月に、不足するアルコールの代替資材として期待されていた。
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消毒の有効性評価は、国の要請を受け製品評価技術基盤機構(NITE)が設置した委員会(委員長・松本哲哉国際医療福祉大教授)が実施。事業者側は、松本教授がテレビ番組で誤解を招く虚偽の発言をしたとして、同教授個人も提訴。NHKに対しては謝罪訂正放送などを求めている。
あかりみらい代表取締役の越智文雄さんは会見で「次亜塩素酸水が『危険だ』と思ってしまった方々の誤解を解きたい」と話した。
訴状などによると、コロナ感染防止対策でマスクや消毒用アルコールが市場で不足していた2020年4月15日、経済産業省が次亜塩素酸水などの有効性を試験すると発表。NITEは、同年5月29日の発表で「判定に至らず、引き続き検証試験を実施する」としていた。
NHKは5月30日、ニュース番組で「次亜塩素酸水の効果はなかった」「空間噴霧は危険」などと報じた。思わぬ報道に驚いた事業者側がNITEに問い合わせたところ、「そのようなリリースは行っていない」と否定したという。
6月26日のNITE最終報告では「一定の濃度以上の次亜塩素酸水が、新型コロナウイルスの消毒に対して有効であることが確認された」旨が公表された。
しかし、NITE評価委員会事務局の事務方トップを務めていた経産省参事官が同日開かれた記者会見で「空間噴霧には吸い込むと危険性がある」旨の発言をおこない、厚労省ホームページに掲載される注意啓発ポスターを発表。
ポスターには、「次亜塩素酸水はアルコールのようにシュッとひと吹きでは効かない」「テーブルに使うにはテーブル一面にヒタヒタになるまで撒き、20秒以上放置してから拭き取らねばならない」などと記載されていた。
また、委員長を務めた松本教授は、6月28日に出演した全国放送のテレビ番組で、「次亜塩素酸水を噴霧すると、塩素ガスが発生する。目の粘膜に入ると結膜炎を起こしたり吸い込んでしまうと気道の障害を起こしたりする」などと説明し、最終報告では言及のなかった空間噴霧による人体への悪影響について発言したという。
事業者側は、報道や公表内容、発言などによって、次亜塩素酸水を使用した各種商品の売り上げが激減し損害を被ったとしている。
越智さんは、誤った情報が拡散されてしまったことで、「次亜塩素酸水がまったく売れなくなった」とし、その結果「国民の健康が脅かされた」と憤りを隠さない。
「次亜塩素酸水が本当に活用されていたならば、感染はもっと縮小できたはずです。(活用されなかったため)感染せずに済むはずだった人が感染し、亡くならずに済むはずだった人が亡くなってしまった」
裁判を通じて「次亜塩素酸水の効果と安全性を社会に認識してもらいたい」と強調。現在、感染の再拡大が懸念されていることに触れ「今後の日本の感染対策で、有効に使っていただくことの準備を始めてほしい。事業者としてお役に立ちたい」と訴えた。
業界全体ではなく各事業者の判断で提訴したことについて、日本トラスト化学代表取締役の川邊日出海さんは「本来はみんな協力したいが、お金もかかりますし、すでに倒産した会社もある」と話し、各社が苦境に立たされていることを明かした。
原告代理人を務める倉持麟太郎弁護士は、NHKに謝罪訂正放送を求めていることや国家賠償請求であることを挙げ、「ハードルは決して低くない」との認識を示した。提訴は「最後の手段」であり、約3年経過してからの提訴となったのは「(不法行為に基づく損害賠償請求権の)時効直前のため」と話した。NHKへの提訴は5月29日付、国と松本教授への提訴は6月23日付。
NHK広報局は、取材に対し、「正式に訴状が届いたところで内容を精査し、対応を検討してまいります」と回答した。
弁護士ドットコムニュースは、松本教授にコメントを求めている。回答があれば、追って掲載する。
(6月23日16時00分、NHKの回答を追記しました)