フジテレビが10月期の番組改編で、金曜21時台に新たなドラマ枠を設ける。今春にはテレビ朝日が日曜21時台に、フジテレビ系列・関西テレビ放送が火曜23時台に、ドラマ枠の新設が続く。各局のドラマ枠はテレビ朝日7枠、日本テレビ7枠、TBS6枠で、フジテレビのドラマ枠は10月期より8枠で民放最多となる。
ドラマ枠は増加傾向だが「決して多すぎるわけではない」と、コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんは言う。
「民放で同時間にドラマがあるのは日本テレビとフジテレビがかぶる水曜22時枠くらい。現状では金曜21時にドラマはないので、フジテレビはその空白の時間帯を狙ったのでしょう」
ドラマ枠が増加したのは、各局の見逃し配信をするTVerの普及が大きく影響している。
背景に「世界進出の狙い」
「決められた曜日と時間で連続して放送されるドラマの性質上、リアルタイムで見続けるのはハードルが高い。TVerなどで見逃し視聴されるようになり、番組評価の指標に、視聴率だけではなく再生回数も加味されるようになりました」(前出・木村さん、以下同)
そのため、TVerにも広告が入りやすくなったが、各局が積極的にドラマを制作する理由はそれだけではない。
「TVerの配信だけでなく、FODなど各局独自の配信サービスの有料会員を増やす狙いでもあります。オリジナルのスピンオフなども増えましたが、ドラマは寿命の長いストックコンテンツとして重視されています。さらに、Netflixなど外部の配信サービスと提携すれば、海外を含む配信収益も見込めます。日本のドラマは海外、特に台湾や中国などのアジアで需要があり、番組数を増やすだけ収益が見込める。テレビ局側も世界進出を戦略的に狙っています」
放送と配信、それぞれの強み
ドラマはもともと需要があり、適正な数になったと考察。
「'80年代から'90年代、ドラマの数はもっと多くありました。ところが、目先の視聴率にとらわれて減らされ、バラエティーを量産。フジテレビでも自社制作のドラマはプライム、ゴールデン帯で週に2本だけという時代が長く続きました。今の状況は増えすぎのようにも言われがちですが、あるべき数に戻ったのだと思います」
視聴率がすベてではなくなり、現場の制作サイドも活気づいている印象だという。
「特にフジテレビは昨年のトップ交代が影響してか、制作現場の風通しがよくなっています。『silent』『ミステリと言う勿れ』などのヒットドラマも出てきました。TBSも放送局というより、コンテンツメーカーであることを前面に押し出していて、クリエイターを尊重しています。若手の起用も増えていますし、各局に楽しそうな作り手が増えたように感じます」
ネット配信の普及でドラマを取り巻く環境が変化する一方で、木村さんは定時放送のよさも指摘する。
「配信で自分の好きな時間に見る人も増えましたが、地上波のリアルタイムで見る人はまだまだ多い。同じ時間に見てもらえることもテレビの強みです。例えば、『水曜日のダウンタウン』など、ツイッターではほぼ毎週トレンド入りしますし、リアルタイムで視聴することで番組内容についての反響がよりありありと感じられる。テレビ局は放送と配信の強みを両方活用できるようになってきたということでしょう」
楽しくなければテレビじゃない─'80年代に生まれたフジテレビのスローガンのように、配信とリアルタイムの特徴を踏まえ、これからもわれわれを楽しませてほしい。