トップへ

BiSHが来週、解散。人生を捧げた約8年3か月の活動は、彼女たちにとってどんな時間だったか

2023年06月22日 12:10  CINRA.NET

CINRA.NET

写真
Text by 柴那典
Text by 川浦慧

BiSHの解散ライブ『Bye-Bye Show for Never』が、2023年6月29日(木)に東京ドームで開催される。

2015年3月の結成から8年3か月。「楽器を持たないパンクバンド」として破天荒な活動を繰り広げた初期から、ブレイクを果たし『紅白歌合戦』への出場も実現するなど大きく世に羽ばたいていった時期を経て、結成当初からの夢だったという東京ドームでその活動に幕を下ろす。

2021年、解散発表のビジュアル

2021年末に解散を発表してからも、グループは残された日々を全力で駆け抜けてきた。2022年には12か月連続で楽曲をリリースし、全国32都道府県61店舗を回るライブハウスツアー『FOR LiVE TOUR』を完遂。12月には東京・国立代々木競技場第一体育館でフェスティバル『BiSH FES』と大所帯のオーケストラを従えたワンマンライブ『世界で一番綺麗なBiSH』を開催した。

2023年に入ってもその疾走が止まることはなかった。3月から5月にかけては全国27都市29公演を行なうラストホールツアー『PUNK SWiNDLE TOUR』を開催。その途中の3月下旬から4月初旬にかけてはアイナ・ジ・エンドが撮影中の事故で頭部を負傷、30針縫う怪我となり、療養のため約2週間グループが活動休止することもあった。

その間のライブは延期となったが、振替公演も5月から6月までのスケジュールに決定。3月に予定されていたKDDIプレゼンツ有料配信ライブ「音楽と行こう」at 福岡県宮地嶽神社も6月22日に開催されることが決定し、解散ライブ直前の最後の生配信ライブとなった。

まさに6月29日の東京ドーム公演、その最後の一日まで、グループは休みなく動き続けている。筆者も当メディアでたびたびBiSHへのインタビュー取材を行ない、記事を執筆してきた。解散発表を報じた記事には「『有終の美』という言葉がある。ずっと続いていくものではなく、いつか終わりが訪れるからこそ、輝くものがある」と書いた(記事はこちら)。

その時に感じた「有終の美」という言葉が、単なる決まり文句ではなく、最良のかたちで具現化しそうな予感がしている。

撮影:垂水佳菜(2021年)

3月21日にリリースされた解散前ラストCDシングル『Bye-Bye Show』はTHE YELLOW MONKEYの吉井和哉が作詞作曲およびプロデュースをつとめ、演奏を菊地英昭(G)、廣瀬洋一(Ba)、菊地英二(Dr)が担当している。カップリングにはTHE YELLOW MONKEY“SPARK”のカバーも収録された。

2015年5月にリリースされたBiSHの1stアルバム『Brand-new idol SHiT』の1曲目に収録された“スパーク”の歌い出しの<新しい 何かが俺の中で目覚めた 時代が回る>という歌詞は、THE YELLOW MONKEY“SPARK”の<新しい何かが俺の中で目覚める 世界は回る>というフレーズからの引用だ。「Bye-Bye Show」という曲名も、当然、<散らない花はないけれども 花は咲き続けるだろう/それじゃさよならお元気で>と歌うTHE YELLOW MONKEYの“LOVE LOVE SHOW”へのオマージュだろう。

BiSHが活動をスタートした時の原点にあった「憧れ」の伏線を回収するような曲が、最後の楽曲になった。東京ドームでこの曲を披露する時は、きっと、感動的な光景になるだろう。

2023年6月9日には、『週刊文春』がBiSHを徹底特集したムック本『週刊BiSH春』が発売された。

『週刊BiSH春』(文藝春秋)

筆者も一部制作に参加した本書では、メンバー6人、そしてプロデューサー渡辺淳之介への取材が実現。グループ解散に際してのそれぞれの思い、これからの展望を明かす一冊となっている。

特に渡辺淳之介へのインタビューでは、自らが「文春砲」の直撃を受けた時のエピソードや、お金の話など、かなり赤裸々な話が繰り広げられる。

「とにかく落ちぶれたときに何かをするのが一番ダサい。だから時期も含めて一番きれいな形で解散したい」(渡辺淳之介)

という言葉は嘘偽りないものなのだろう。また、大手芸能事務所に所属するグループではないBiSHが東京ドーム公演を実現させたことについても、こんな風に語っていた。

「夢、ありますよね。インディーズ界の星というか、そうなろうと思ってやってきたし。『紅白』も東京ドームも含めて、僕みたいなポッと出のインディーズがやるってなかなかないと思う。しかもシンガー・ソングライターとかじゃない、いわゆるプロデュース・ワークありきのものだとホントに稀有な例で、みんなそこを目指して頑張ってほしいなって感じはありますね。僕もそれが目標だったんで」(渡辺淳之介) - メンバーそれぞれの解散を前にした心境も、とてもリアルなものだった。6人の中で解散に大きく反対したのはセントチヒロ・チッチだったという。

「もう何度も『解散をどう思いますか』って聞かれているんですけど、『別に納得はしてないんで』って言い続けてます。私、一番良いときに散るカッコよさみたいな、伝説になるような選択肢と、続けるカッコよさ、両方あると思っているんです。そして、アイドルは儚いもので、バンドは続けるカッコよさが似合うものって勝手に思ってる」(セントチヒロ・チッチ) -  一方で、他のメンバーは解散をすんなりと受け入れた。リンリンやハシヤスメ・アツコは、グループの活動がどんどん大きくなるなかで、BiSHの「終わり」について考えることもあったという。

「解散を告げられるちょっと前から、『何歳まで続けようかな』とか、そういうことが頭をよぎってました」(ハシヤスメ・アツコ) -  「解散が決まったときもそんなにショックはなく、むしろ渡辺さんの優しさをすごく感じました」(リンリン) -  解散が決まってからは、メンバーそれぞれの個人活動も活発になっていった。特にモモコグミカンパニーはエッセイや小説を次々と発表。メンバー最多17曲の作詞を担った文才をグループの外でも発揮するようになった。

グループで最後に作詞した“WiTH YOU”には、BiSHとして活動した日々への思いを綴ったという。

「サビ頭の“泡のような日々”という言葉は、BiSHとして過ごしてきた日々は弾けてなくなっちゃうように見えるけど、この思い出があるからこそ、これから見る景色が全部輝いて見えるし、愛おしく思えるんだな、と思って書いた言葉で」(モモコグミカンパニー) -  BiSHの活動にはキツいこと、シビアなことも多々あり、「辞めたい」と思ったメンバーも少なくなかったという。メンバー同士のすれ違いやぶつかり合いもあったそうだ。それでもグループの結束は徐々に強まっていった。アユニ・Dはこんな風に振り返っている。

「学校で一番キラキラ輝いているタイプじゃないし、アイドルっぽくもないんですよね。でも『BiSHが自分の人生だ』ということは6人全員が共通してあるんですよ。だから6人になってから誰も辞めずにいられたんだと思うんです。あと、全員人間として欠落している部分がたまたま合致していて、支え合っているんですよ。そこも計算で作られたグループでは絶対にできない。本当に奇跡のバランスだと思います」(アユニ・D) -  BiSHというグループは「ぶつかりあう個性の塊」だった。だからこそいびつで、けれど、それがパンキッシュなカッコよさの源になってきた。メンバー自身が、関わり合ってきたスタッフや関係者が、そして何より清掃員(=ファン)が、そのことをちゃんと知っている。だからこそ、唯一無二のグループとして約8年3か月を駆け抜けてきたのだろう。アイナ・ジ・エンドはこんな風に語っていた。

「女子同士の馴れ合いみたいなものが一瞬でもあれば、続けられていなかったと思います。それぞれが自分のルールにまっしぐらなところとか、自分の気持ちに正直なところが常にカッコいいんですよ。ここまで赤裸々に生きられる人たち、あまりいないですもん」(アイナ・ジ・エンド) -  そして、これは単なる「終わり」ではない。6人のメンバーは、すでにそれぞれ次の活動への準備を進めている。

さらに今年4月にはBiSH現メンバーが「第2のBiSH」をつくるオーディション番組『BiSH THE NEXT 』(日本テレビ系)の放送もスタートした。このオーディションを企画、実施するのはBiSHメンバーが私財を投じて立ち上げた株式会社BiSHとのことだ。

『BiSH THE NEXT 』では、7月1日(土)に生放送にて最終審査が行われ、新グループは同日に放送される日テレ系音楽の祭典『THE MUSIC DAY』への出演が決まっている。

オーディション対象者は「日本語を話せれば、全人類応募可」とのことで、現時点での候補者を見る限りでも、BiSHとはまったく違うグループになることが予想される。常識外れの展開はまだまだ続きそうだ。