「そろそろ転職を考えたほうがよさそう……」
「このままこの仕事を続けていいのか……」
「このままでは未来がない感じがする……」
私が開催しているキャリア研修では、30歳前後の中堅からこんな不安が出ることがあります。研修を通して、「未来を考えることができました」とか、「今の組織の中で何をやっていけばいいのか見えてきました」といった言葉も聞かれますが、転職する方も少なからずいます。
ただ、中堅層が抜けると会社としては困るでしょう。今回は、将来を期待していた部下から思いがけないキャリアの相談をもらった際に、どのように対応していけばいいのかについて考えて参りましょう。(文:働きがい創造研究所社長 田岡英明)
将来を見失う中堅層
30歳前後というと、仕事も一人前にこなせるようになり、今後の企業運営を担っていく世代ということで転職市場でもニーズが高いでしょう。一定数が離職してしまうのは仕方ない部分があるかもしれません。
詳しく話を聞くと、今の職場を辞めたいと思う理由は大体、以下のようなパターンであることが多いです。
・昇給や昇格が望めない
・現場の仕事がマンネリ化している
・自身の仕事の将来が見えない
・上司や周囲との人間関係の問題
・家庭と仕事の両立が難しい
・やりたいことが見つかった
やりたいことが明確となり離職していくケースに関しては、喜んで送り出してあげたいものです。しかし、その他のケースでは、しっかり現状を見つめ直していただく必要があるでしょう。では、どのように対応していけばいいのでしょうか。
キャリアの新陳代謝を促す
少し専門的な話になりますが、キャリアカウンセラーが使う言葉に「経験代謝」というものがあります。人は様々な経験を通して、自分なりの職業人生観といったものを作っていきます。現在の状態が自分の職業人生観に合わなくなってくると、人はキャリアの悩みを抱えます。このキャリアの悩みを新陳代謝させて解消していくのが、経験代謝と言われるものになります。経験代謝は、以下の3つのステージで展開されます。
第一ステージ:経験の再現
現在のキャリアに関して、どのような悩みを持っているのかを、明確にしていく段階です。カウンセラーには共感の姿勢が求められます。
第二ステージ:意味の出現
これまでの人生で育んできた強みや大切にしている価値観を振り返っていただきながら、現在の役割を客観視していただく段階です。カウンセラーには、内容を掘り下げていく質問のスキルが求められます。
第三ステージ:意味の実現
第二ステージの客観視によって見えてきたポイントを中心に、これからの行動をシミュレーションさせていく段階です。
上司がキャリアの新陳代謝を促す際の会話例
では、経験代謝の3ステージを、実際の現場でイメージしてみましょう。
部下:「課長、相談があるのですが」
課長:「少し、別室で話そうか」
部下:「今の仕事に面白みを感じられません、このまま続けていいのか……」
課長:「今の仕事の将来に不安を感じているんだね。いつ頃から感じているの?具体的に教えてくれるかな?」
部下:(経緯を述べる)
課長:(経緯を傾聴し、要約して返してあげる)
ここまでが第一ステージです。
部下:(課長の要約を聞き、自身の考えを客観視する)
課長:「これまでの仕事経験の中で楽しかったことや、自身の強みだと思うところはどんなところ?」
部下:(楽しかったことや強みを考え答える)
課長:「楽しかったことは、なぜ楽しかったのかな?」(※過去の経験を傾聴していく)
部下:(過去の経験を振り返りながら、自身の経験を客観視する)
課長:「自身の強みを活かしながら、楽しく仕事をしていきたいけど、将来が不安なんだね。」
部下:「おっしゃる通りです。」
課長:(部下に対する期待や要望をIメッセージで伝える。)
ここまでが第二ステージです。次が最後の段階です。
部下:(課長の思いを聞いた感想等を述べる)
課長:「これまで培ってきた拘りや強みを、これからの仕事で活かしていく方法を考えてみようか。」
部下:「はい、少し考えてみます。」
課長:「では、2週間後に、また話をしよう!」
以上のような流れで、部下の思いを新陳代謝させていきます。うまくいく場合ばかりではありませんが、一つの型として活用してみてください。人的資本経営が謳われる中、部下のキャリア支援は上司の大切な役割です。それが、組織成果につながると信じて、頑張って参りましょう!