世の中には「ヤバい女=ヤバ女(ヤバジョ)」だけでなく、「ヤバい男=ヤバ男(ヤバダン)」も存在する。問題は「よいヤバさ」か「悪いヤバさ」か。この連載では、芸能人や有名人の言動を鋭くぶった斬るライターの仁科友里さんが、さまざまなタイプの「ヤバ男」を分析していきます。
第27回 キャンドル・ジュン氏
おめでたいこと、もしくは不祥事が起きたとき、芸能人が会見を開くことがよくあります。芸能人はイメージ商売ですから、いいイメージの人はさらによく、悪いイメージの人は自分の言葉で説明することで、挽回をはかりたいからでしょう。
このルールで言うのなら、女優・広末涼子の夫、キャンドル・ジュン氏は芸能人ではないので、会見をする必要はないはず。しかし、キャンドル氏が事務所にも所属していない、後ろ盾のない一般人ということで、言われたい放題、書かれたい放題になってしまう可能性は否めません。そのような流れを止めるべく、キャンドル氏は、広末とその所属事務所に知らせることなく、自分で記者会見を開いたのでした。
ヤフコメに溢れたキャンドル氏の人柄を称賛する声
キャンドル氏が、自分の言葉で思いの丈を語れたという意味でよかったことなのだと思いますし、広末を「良き妻、子どもたちにとって最高の母」とし、彼女が不倫しても「自分にも責任がある」と妻を責めない姿勢にヤフーコメントではキャンドル氏の人柄を称賛するコメントが多数ついていました。心のきれいな人はそう感じるのでしょうが、私はキャンドル氏の決死の覚悟のようなものを感じたのでした。
キャンドル氏は今回の会見に踏み切った理由の一つに、キャンドル氏のお子さんと、妻の不倫相手のお子さんの存在を挙げています。広末夫妻の間には三人お子さんがいます。一番上のお子さんは広末と前夫の間のお子さんで、二番目、三番目のお子さんは広末とキャンドル氏との子ですが、今回の報道で、父親が違うことを知ってしまったそうなのです。
キャンドル氏は「次男や長女は、長男と自分が血がつながっていないということは、まだ知りませんでした。一生懸命、次男の心の成長を見て、折を見て話そうと思っていました。長女も多感な時期を越えて、その時がくれば話そうと思っていました。こんな形で下の子たちがうちの事情を知り、本当かどうかもわからないことを多数目にして、何も悪いことをしていないうちの子どもたちはどうやって外を歩けばいいんでしょうか」「ものを言えない子どもたちの今を、相手方の家族や関係者の今を、これ以上追及しないでください。お願いします」とマスコミの報道の仕方に疑問を呈しています。
が、その一方で、妻の不倫相手の鳥羽氏や広末本人ついての言及は、マスコミ以上に手厳しいと言えるのではないでしょうか。広末が結婚生活の中で、定期的にメンタルのバランスを崩すことがあり、「過度のプレッシャーや不条理なことに出会ってしまった時は、濃い化粧をして派手な化粧をして、眠ることができず、常に何かを書いていないと心が収まらず、誰かに連絡したり、と豹変してしまう」「自分も彼女のそういうLINEを見て、相手に確認して、彼女に分からないように相手のところに言って、決着をつけた」「示談した」と話しています。キャンドル氏は夫ですからプライドを傷つけられたことでしょうし、不貞行為をとがめる権利はあるはずですが、スター広末を守るため、まるでマネージャーのように率先して泥をかぶってきたのでしょう。
暴露をした夫と「やりなおしたい」と思う妻はかなり少数派
しかし、実の父が示談にしたことを会見で明らかにしてしまったら、お子さんたちは過去にも同じようなことがあったことを知ってしまう。それこそ、お子さんはもっと外を歩きづらくなるのではないでしょうか。キャンドル氏は、離婚する意志はないと話していましたが、一般論で言えば、妻の更なるイメージダウンにつながる暴露をした夫と「私が悪かった、やりなおしたい」と思う妻はかなり少数派だと思います。
だからといって、私はキャンドル氏を責めたいわけではないのです。巷間、「愛と憎しみはお友達」と言いますが、今のキャンドル氏は愛と憎しみの間で揺れ動いているのではないでしょうか。
広末をとても愛していたから、なさぬ仲のお子さんを受け入れ、広末の不倫が表沙汰にならないようにずっと尻拭いをしてきたし、それで家族の幸せが保てるならと耐えてもきた。奔放な妻と家族を支えられるのは、自分だけという自負もあったことでしょう。ですから、広末の不倫自体は、ある意味「いつものこと」だったのかもしれません。
唯一違ったのは、最近の広末に離婚の意志があったことではないでしょうか。会見によると、「週刊文春」に不倫を報じられる前から、キャンドル氏は鳥羽氏との関係をある程度察しており、広末もキャンドル氏に離婚したいと話していたそうです。このような場合、広末にとって「文春」報道は離婚のチャンスになりますから、ある意味追い風となりますが、離婚したくないキャンドル氏にとっては、これまでの忍耐が水の泡になってしまいます。
ですから、「あそこまでやってやったのに」と愛が憎しみに変わり、芸能人である妻のイメージダウンに響くようなことをバラしてしまったり、不倫の怒りを妻ではなく、不倫相手に向けてしまっても無理からぬことだと思うのです。ハチは一度人を刺すと死んでしまうと言われています。そのため、弱い者が強い者にする決死の覚悟、自滅覚悟の攻撃を「ハチの一刺し」と表現することがあります。愛と憎しみの混在したキャンドル氏が、自爆覚悟でかつて死ぬほど愛した人気女優の妻を刺した会見のように感じられました。
もう一つ、会見を見て思ったのは、「自分は違う」という男たちの意識なのでした。キャンドル氏が広末と出会った頃について、こう語っています。
二人の出会い方は今回の不倫と似通っている?
「自分が妻と出会った頃、その時の彼女は心が不安定で、その後の結婚してからの良き妻であり、良き母である彼女とは180度違う人物でした。出会ってからは毎晩のように連絡をしてくれたり手紙を送ってくれたり、ありがたいなと思う反面、まだ小さい長男がいることも知っていたので、『長男も一緒に連れてきたらどうだ』って言いました」
手紙の内容がどんなものかはわかりませんが、子どもを置いて男性にのめりこんでしまうというのは、今回の不倫と似通っていないでしょうか。男性は自分なら広末を支えてあげられる、自分が広末を真人間に変えられると思うのかもしれませんが、こういうのは本人の問題なので、本人が変わろうと思わない限り、他人にはどうすることもできない。変わらない、もしくは変わるつもりはない広末と、自分なら広末を変えられると信じている男たちがくっついて、やがて別れるという同じことを繰り返しているように思えるのです。
キャンドル氏は広末を「最高の母」と話していましたが、不倫したという事実があるために広末は「母親のくせに」というバッシングからは免れないでしょう。けれど、もし本当に彼女が母親に向いていないのなら、子どもを置いて男のもとに走るのではないでしょうか。
結局、彼女が向いていないのは、母親ではなく、妻なのだと思うのです。民法は夫婦に貞操権を定めており、配偶者以外との肉体関係を禁止しています。彼女にとってそれを守るのが難しいのなら、結婚しなければいいだけ。広末は結婚しなければよいし、キャンドル氏は無理して、妻の不貞を許す理解ある夫にならなくてもいいのです。今回の件、誰が悪いというより「自分に向かないことは、しないほうがいい」というシンプルな話にも思えてくるのでした。
<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に応えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」