「人々が本当に欲しかったものをつくる」という原点を大切に、Visaプリペイドカードと家計簿アプリがセットになった新しい家計管理サービス「B/43(ビーヨンサン) 」の運営・開発を行う株式会社スマートバンク。
今回は、株式会社スマートバンク 代表取締役CEO 堀井翔太氏に、
toCの新しいサービスを、使われるサービスに育てる秘訣について、B/43のサービス内容や今後の展望とあわせて解説していただきました。
決済サービスで異例の10%成長を続けるB/43(ビーヨンサン)
——B/43(ビーヨンサン)の仕組みを教えてください。「B/43(ビーヨンサン)」は、
家計簿アプリとVisaカードがセットになった新しい家計管理サービスです。
毎月の生活費をB/43のプリペイドカードに入金して支払うことで、リアルタイムで支払い履歴を閲覧できて、それが自動で家計簿になります。チャージした予算の中で生活費をやりくりできるような仕組みになっています。
夫婦や同棲カップルなどの世帯向けの「B/43ペアカード」は、共同口座に2枚のカードが紐づいていて、それぞれ支払いした内容が共同家計簿になり、2人でリアルタイムで同じ情報を見て家計を管理できます。
従来の家計簿アプリは、銀行口座や証券口座、クレジットカードなどの「情報」を集約して見せることで資産をマネジメントするものでした。
B/43はユーザーの実際の「決済データ」を持つことで、
毎月いくら使っているかをリアルタイムで把握し、日々の生活費をマネジメントすることができます。カード発行や決済の仕組みも、家計簿のアプリも、両方自分たちで作っていることが特徴です。
——実際に、どれくらい使われているのでしょうか?2021年4月にサービスをリリースしてから、2年で月間取扱高(GMV)が二桁億まで成長しています。月次でも約10%の成長を続けています。
カード決済はコモディティの産業と言われており、利用者を増やすためにポイント還元などをすることが多い中、プロダクトの便利さのみで、割とよいペースで成長できているかなと思っています。
——toCの新しいサービスを、使われるサービスに育てる秘訣を教えてください。ユーザーの課題の深掘りから新しい市場を作ることと、その市場が社会構造上伸びていくことが大事だと思っています。
例えば、B/43ペアカードは2人で家計管理をするという新しい市場を作っていて、この10年20年で共働き世帯が増えているというトレンドが成長を後押ししています。
昔は旦那さんが働いて奥さんが家計管理をするのが一般的でしたが、今は共働きをして2人でお金を管理するニーズが高まっているでしょう。
これまでのFintechはリテラシーの高い人の課題しか解決していない
——新しい家計管理サービスとしてFintechに参入されましたが、これまでのFintechサービスで解決されていない課題はあるのでしょうか?これまでのFintechサービスで、当たり前のようにクレジットカードを発行したり、株や投資の商品を買ったりすることはできるようになっています。
ただ、それらのサービスも浸透し切ってはいないでしょう。ITリテラシーが高い人や金融の知識を持っている人でないと、まだまだFintechサービスのメリットを享受できていないのではと考えています。例えば、銀行のオンラインバンクも、日本人の全員が日々使えている訳ではないですよね。
特別な知識やスキルを持っていない人も簡単に使えるプロダクトを作ることで、もっと裾野が広い人に届けられる。そのようにして
新しい市場が生まれる構造のビジネスについて、ジョブ理論では“無消費”の市場と呼んでいます。
——“無消費”の市場を作るためには、何が必要なのでしょうか?世の中にすでに存在する分かりやすい課題はほとんどが解決されています。なので、
ユーザー本人ですら気づいていないような課題を汲み取って、既存の代替製品より優れたプロダクトを作れるかが重要です。
そうでないとtoC向けのプロダクトは生き残れないというか、そもそも使われる段階までいかないのではと思っています。
——そこから事業として成長させるためにはどうすればよいのでしょうか?ユーザーの本当の課題からプロダクトを作ることと、継続的に利益を生み出して規模を追求することを掛け算することが鍵になります。
「その事業が上りのエスカレーターに乗っているか?」を考えます。社会にある変化が起きていて、その変化によって事業が自動に伸びていく構造が作れるかどうか。
例えば、政策によってキャッシュレス比率が上がることや共働きが増えることがB/43が伸びる社会背景になります。そのように、ユーザーの変化によって押し上げられていることが大事だと思います。
もちろん最初から全て見極められるものでもないので、仮説を持ってリリースした後にピボットするような判断も必要です。
——上りのエスカレーターでは競争も激しいのではと思いますが、その中で勝ち切る方法を教えてください。その市場に賭ける時の参入時期を見極めることを意識しています。そして、参入した後に勝つために大切なのは、その事業のゲームの構造を解像度高く把握すること。
新しい市場を作る中で答えはないとしても、近しい事業や海外のモデルなどをリサーチする中で類推してゲームを理解することが勝ってキャズムを超えることにつながります。
10倍よいものを作ったら、ユーザーは新しい方法へ乗り換える
——実際に、B/43はどんなN1の課題から市場を作っているのでしょうか?無印のパスポートケースに現金を入れて管理している人や紙の家計簿をつけている人が、デジタルの家計管理に移行した時に使ってくれるのではという仮説から始めています。
実際に一定数使ってくれていて、さらにクレジットカードの使いすぎ防止の目的で使ってくれる人も増えています。
また決済履歴を特定のパートナーとリアルタイムで共有したいニーズがあることも分かったので、そのイシューを解決するためにB/43ペアカードをリリースして、顧客の幅を広げています。
いきなり誰もが満足するものを作ることは難しいので、ニッチから始めることはよしとしつつ、手に取ってもらう理由や使ってもらえる幅を増やしています。
——とはいえ、全く新しいサービスを使ってもらうまでのハードルがあると思いますが、どう乗り越えるのでしょうか?ユーザーインタビューをする中でも、ユーザーは何かの課題解決をするために何かのサービスや方法を採用しています。
よく使われる比喩として
「その採用されている方法よりも10倍よいものを提供したら、今使っているものを手放して乗り換えてくれる」が挙げられます。
なので、既存の問題解決方法よりも遥かによいものを作れるかが重要だと思っています。
そのためには、今の体験がどういう状況で生まれていてどういう工数が発生するか、
そのユーザーになり切って想像して、自分だったら乗り換えると思える体験を追求すること。そして、やはりメリットを享受できるまでのスピードをいかに短くできるか、簡単にできるか。
B/43でいうと、カード発行から決済してリアルタイム決済を体感できるまでの期間をできる限り短くするために、本人確認も全て自前でこだわって作り込んでいます。
——10倍よいものを作ることが大事ということですが、実際作るのは相当大変ではないでしょうか?実際にユーザーのあらゆる数値を見て、体験のファネルの数値についても改善のサイクルを回しています。継続的にユーザーインタビューを通して、プロダクトを採用することで、習慣がどう変わったか、どうよくなったかを見ています。
そうやって定量と定性で突き詰めてユーザー体験にこだわっていますし、もっと重要なのはそれを一過性ではなく継続し続けることだと思っています。
創業者が手を動かしてユーザー体験を磨き込むことはできますが、それだけではなく、
組織の文化として数値を見て、ユーザーインタビューを当たり前のように行い続けて、プロダクトを改善していくこと。スマートバンクには専任のUXリサーチャーもいますが、組織で文化として型化していくことこそが大事だと思っています。
——改めて、難易度の高い挑戦かと思いますが、なぜtoCスタートアップにこだわるのでしょうか?今回は、フリマアプリのFRIL(現ラクマ)を創業して売却してから2度目の起業になります。フリマアプリを作ったことは、自分が作ったプロダクトを通して社会が少しよくなることを実感できた経験でした。
当時、パソコンを使いこなせる人しか中古でモノを売れなかったところから、スマホがあれば誰でも写真を撮ってモノを売れる世の中になりました。
それによって、フリマで売れるかを考えてからモノを買うような習慣ができましたし、捨てられていたはずのものが誰かの手に渡ってよい循環を社会にもたらすことにもつながりました。
そうやって個人の習慣が変わり、文化が変わり、社会が変わるようなプロダクトをまた作りたいという思いがあります。
toCプロダクトを作るのは難しくもありますが、キャズムを超えられたら、
大きな新しい産業を生み出せる可能性を秘めていると思っています。
これからの将来、1️人で現金で家計を管理することはなくなるだろう
——これからのB/43の展望を教えてください。一つは家計管理を軸に、いかに手に取ってもらえるユーザーを増やせるか。個人のマイカードから、ペアカード、ジュニアカードを出していますが、そういう風にユーザーを横に広げていくことを考えています。
もう一つは、縦にプロダクトを伸ばすこと。機能を追加して利便性を増やすことで、使ってくれる期間や金額、回数を増やせるかを検討しています。
そして、究極は、世帯のお金の心配事がなくなっている状態を作ることを目指しています。
——B/43には、どれくらいのポテンシャルがあるのでしょうか?“無消費”という新しい市場を作るという話をしました。まず2人でシェアできる共同口座のペアカードは他にないサービスですが、これから共働き世帯が当たり前になる中で、大きなポテンシャルを秘めているのではないかなと思っています。
また、現金を使う世代がどんどん減る中で、18歳以下の子どもがキャッシュレスで決済するサービスがない領域なので、ジュニアカードも巨大なマーケットが存在すると思っています。
これまでのように、
銀行からお金を引き出して、現金で家計管理して、紙で記録を残す習慣はなくなっていくでしょう。日本の銀行のオンラインバンキングを塗り替えて、世帯での支出管理・資産形成ができる新しいオンラインバンクを作りたい。
単に残高を見るだけではなく、日々の支出を管理できたり、資産形成ができたりする機能をつけて提供したいと思っています。これからも裾野の広い人に、誰でも簡単にお金の管理ができるようなプロダクトを作り続けることを追求していきます。
<インタビュイープロフィール>堀井翔太
株式会社スマートバンク
代表取締役CEO
VOYAGE GROUP (現CARTA HOLDINGS / 東証プライム)へ新卒入社し、最年少で子会社社長に就任。2012年に日本初のフリマアプリ「FRIL」を創るためにFablicを起業。2016年に同社を数十億円で楽天株式会社に売却。2018年の退任まで代表取締役CEOを経験。2019年にスマートバンクを設立し2度目の起業。2021年から家計簿アプリ「B/43」を提供している。