2023年06月18日 08:31 弁護士ドットコム
禁煙ルールを破った宿泊客に反論し、宿泊施設と客との〝歪んだ関係〟を社会に問題提起した山形の老舗旅館が、対策に乗り出した。
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弁護士ドットコムニュースは2023年2月に「迷惑客の口コミに反論 客と対等な『おもてなし』、老舗旅館の女将の思い」として、山形の老舗旅館「西屋」の女将の考えを記事にした。
西屋は今、宿泊約款の改定などトラブル防止策を進める。どんな変化があったのか。女将の遠藤央子さんに聞いた。(ライター・国分瑠衣子)
ことの発端は2022年12月。禁煙ルールを破り、西屋の客室で喫煙した客に対し、遠藤さんはツイッターで「凍える空気の中、掃除してくれたスタッフに心の中で詫びなされ!!」などと発信し、大きな反響があった。
このツイートへの報復かは不明だが、客は旅行予約サイトの口コミで西屋に低評価をつけ、旅館とは関係のない天候についてもクレームともとれるコメントを投稿した。遠藤さんはこの口コミにも反論し、再び注目を集めた。
西屋がある地域は、過去に大きな火災があり、西屋以外は全焼した。こうしたことから旅館は敷地内を含め全面禁煙にしている。
日本ではサービス業を中心に「顧客第一主義」の考えが根強い。きつく注意することや、被害を公にすることは難しい中、遠藤さんは現状を変えたいという考えから思い切って発信した。
周囲からは喫煙客に損害賠償請求することを勧められたが、遠藤さんは弁護士に相談し、時間や費用がかかることなどから今回は請求しなかった。
ただ、今後同じことが起こらないように2023年4月から宿泊約款を大幅に変更し、新たに宿泊規則を作った。
約款の改定ポイントは2つある。1つは過去に約款に違反し、宿に損害を与え、賠償しない客は宿泊を拒否することを明記した点。もう1つは西屋に滞在中に喫煙などの禁止行為や、物を壊したり盗んだりした時は、宿泊契約を解除する場合があることを入れた点だ。
最近、国も迷惑客の対応に乗り出している。6月7日に成立した改正旅館業法では、カスハラ防止策として「宿泊しようとする者が営業者に対し、その実施に伴う負担が過重であって他の宿泊者に対する宿泊に関するサービスの提供を著しく阻害するおそれのある要求を繰り返したときは、宿泊を拒むことができる」ことが盛り込まれた。
西屋の約款は、予約の際に確認しやすいように、宿のホームページの目立つ場所に載せた。
約款に基づいた利用規則では、今回のトラブルとなった喫煙について盛り込んだ。客が喫煙した場合は清掃代や客室をクローズした分の基本宿泊料など実費請求することを定めている。
約款や利用規則の狙いについて遠藤さんはこう話す。「今回の経験から、トラブルを防ぐためには予約の前に旅館の方針やできること、できないことの線引きを、お客さんに明確に伝えることが大事だと分かりました。『ゆっくりくつろげる宿』などふわっとした内容ではなく、はっきりと宿の姿勢を示すことがトラブル防止につながると考えています」
チェックインの時に宿側が、規則が書かれた紙を提示しながら説明し、客が合意した場合は宿帳にチェックを入れてもらう。過去にトラブルがあった喫煙や備品損壊の項目は、目立つように線を引いた。5月の大型連休明けから運用を始めたが、今のところ順調だ。同業のホテルや旅館からも「参考にさせてほしい」という問い合わせが入っている。
遠藤さんは「自分たちの宿に合う約款や規則をつくることは、宿やスタッフを守ることにつながります。結果としてお客さんが安心して泊まれる宿になると思います」と話している。