2023年06月16日 17:11 弁護士ドットコム
女優の広末涼子さんが、レストラン「sio」のオーナーシェフ・鳥羽周作さんとW不倫関係にあることを認め、謝罪しました。週刊文春(6月22日号)では、その2人が交わしていたという手紙や交換日記が報じられたことで、大きな話題となっています。
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ただ、ネット上では、交換日記の暴露について「流石にかわいそう」だとか、「そもそも誰が流したのか」などの反応も多くみられます。
こうした2人のやりとりを暴露した場合、法的に問題はないのでしょうか。男女・離婚問題にくわしい中村剛弁護士は「不法行為であることには変わりがなく、違法になる可能性は十分にある」と話します。解説してもらいました。
ここでは、広末さん側ではなく、交換日記を暴露したメディア(最初の週刊誌だけでなく、後追いのメディアも含みます)や、メディアに交換日記を提供した人の法的責任について考えてみましょう。
基本的には、メディアの責任も、メディアに交換日記を提供した人も、同じような責任を負うものと考えられます。
名誉毀損該当性
不倫関係について暴露する場合、まず考えられるのが、名誉毀損にあたりうることです。 名誉毀損は、相手の「社会的評価」(他の言葉でいえば「評判」)が低下した場合に、成立しうるものです。
この「社会的評価の低下」は、比較的緩やかに認められるので、不倫関係があったことは、通常、相手の社会的評価を低下させるといえ、名誉毀損にあたる可能性が高いといえます。
違法性阻却
ただ、名誉毀損の場合、暴露した行為が、以下の要件を満たす場合、違法ではなくなります。
<1>公共の利害に関する事実であって(公共性) <2>その目的がもっぱら公益を図る目的でなされており(公益性) <3>暴露した内容が真実であること、または真実であると信じるについて相当の理由がある場合(真実性または真実相当性)
よく「暴露した内容が真実であればよい」と誤解されていますが、上記のとおり、違法性が否定されるためには、暴露した内容が真実であるだけでは足りず、<1><2>の要件も満たす必要があります。<1><2>の要件を満たさなければ、内容が真実であったとしても、名誉毀損は成立します。
広末さんのケースでは、少なくとも本人たちが不倫関係を認めたということですから、<3>真実性は認められると思われます。
そこで、主に問題となるのは、<1>公共性と<2>公益性の要件ですが、<2>公益性の要件は、<1>公共性と大部分重なることが多いので、以下では、主に<1>公共性の要件について検討したいと思います。
公共性の要件
<1>公共性の要件については、そこまで厳格に要求されるものではありませんが、一般的には、多数人の単なる好奇心の対象となる事実では足りず、社会一般の正当な関心事であるといえることが必要です。
政治家などの公人のほか、一定の社会的影響力を有する人であれば、公共性が認められやすいですが、著名人であるからといって、ただちに公共性が認められるわけではなく、その著名人の活動とまったく無関係な私的な言動の場合は、公共性が否定されることもあります。
具体的に見てみましょう。
公共性が肯定された事例としては、政務次官に就任した衆議院議員が、破産申立てを受ける等の経済的紛争の渦中にあるという事実摘示に対しては、議員・政務次官としての人格・識見を窺わせる行状であるとして、公共性の要件を満たすとされました(東京地裁判決平成8年7月30日)。
また、元横浜市長の合コンやキャバクラにおける言動を記事にした事案についても、私生活上のものを含め、国民が関心を寄せるものであるとして、公共性の要件を満たすとされました(東京地裁判決平成22年10月29日)。
一方、公共性が否定されたケースは、以下のようなものがあります。
まず、ロス疑惑渦中の男性について、「女漁り」をしていたという記事に関しては、もっぱら私生活上のものであり、容疑とは何らの関係もないとして、公共性が否定されました。
また、女優の大原麗子さんが近所とトラブルを起こしているという事実摘示について、裁判所は、公共性について、「多数人の単なる好奇心の対象となる事実をいうのではない」と判示した上で、公共性が否定されました(東京地裁判決平成13年2月26日。東京高裁判決平成13年7月5日も原審維持)。
さらに、テレビ局のアナウンサーが、学生時代にランジェリーパブで働いていたという事実摘示についても、「読者の単なる興味あるいは好奇心の対象となる事柄ではあっても、不特定多数人が関心を寄せてしかるべき公共の利害に関する事実とはおよそかけ離れたものであることは明らかである」と判示して、公共性を否定しています。
広末さんのケースは、上記各事件で示されているような「多数人の単なる好奇心の対象」である可能性が高いでしょう。
もちろん、広末さんは、ベストマザー賞も受賞しており、それを前提としたイメージを持たれている方で、多数のCMなどにも起用されていた方ですから、単なる多数人の好奇心の対象を超えて、公共性を帯びるという考え方もないではありません。
しかし、その場合であっても、最初の第一報はともかく、その後の交換日記の暴露までおこなう必要があったかというと疑問がありますし、ましてや、後追いのメディアの報道において、交換日記の暴露などをする必要性などほとんどないでしょう。
交換日記の暴露が、名誉毀損になるのか、後に述べるプライバシー侵害になるのかは若干議論がありえますが、いずれにせよ不法行為(民法709条)であることには変わりがなく、違法になる可能性は十分にあります。
次に、特に交換日記を暴露したことは、プライバシー権侵害にもなりえます。この場合、その事実を公表されない法的利益と、これを公表する理由とを比較衡量し、前者が後者に優越する場合に不法行為が成立するとされています。
仮に、上記のとおり、不倫自体の報道は、公共性があるといえたとしても、赤裸々な交換日記の暴露まで必要であったかというと、大きな疑問があります。
まるで、クラスの中で自分がこっそり書いていたラブレターを前の黒板に貼りだしているかのような行為であり、学校で起きればいじめとして問題となりうるものだと思います。そのような行為を、各メディアがこぞっておこなうことに対して、気持ちの悪さを感じる方も少なくないのでしょうか。
そのため、交換日記を公表する理由よりも、交換日記を公表されない利益の方が上回るといえ、不法行為が成立する可能性は十分にあります。
名誉毀損訴訟において、真実性立証のために交換日記を提出するなどの場合であればともかく、今回の広末さんのように、意味もなくメディアがどんどん暴露している状況は、異常といっていいと思います。これは、少なくともプライバシー侵害で違法になる可能性が相当程度あると思います。
法的に請求できることと、実際に裁判手続を取ることができるかということは、まったく別問題です。
広末さんは女優であり、イメージが重要ですから、自ら不倫という責められるべきことをしておきながら、メディアに対して訴訟を提起することは、かなりのイメージダウンが避けられないでしょう。
また、広末さんは、メディア関係者と仕事を一緒にされていますから、テレビや出版社に対して提訴すれば、その後、仕事がしづらくなる可能性もあり、あまり得策とは思えません。
しかも、仮に違法が認められたとしても、損害賠償額は数十万円~せいぜい200~300万円くらいが多いと思われます。イメージダウンを伴ってこの金額では、割に合いません。そのため、少なくとも近い時期に提訴する可能性は高くないように思います。
逆に、メディア側としては、仮に負けたとしてもそれくらいで、それ以上に部数が伸びたり、視聴率が上がればよい、と考えているメディア関係者もいるでしょう。その点が大きな問題だと思います。
なお、不法行為の時効は3年です。3年間の間に、空気が変わるかもしれません。そうなったときには、広末さんから提訴することも選択肢に入ってくるかと思います。
今回の事件においては、単なる不倫事件にとどまらず、交換日記の暴露という違法性が相当程度ある問題に発展しうるものだと思います。
個人的には、広末さんが反論しづらいことを良いことに、メディアの報道がやや過熱気味になっている状況ではないかと感じています。大手メディアは、積極的にプライバシー侵害にあたるような報道で煽るのではなく、冷静な報道を心掛けていただきたいと思います。
【取材協力弁護士】
中村 剛(なかむら・たけし)弁護士
立教大学卒、慶應義塾大学法科大学院修了。テレビ番組の選曲・効果の仕事を経て、弁護士へ。「クライアントに勇気を与える事務所」を事務所理念とする。依頼者にとことん向き合い、納得のいく解決を目指して日々奮闘中。
事務所名:中村総合法律事務所
事務所URL:https://rikon.naka-lo.com/