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日本製ミニバンと欧州産MPV、どう違う? 家族にオススメの車種を比べてみた

2023年06月15日 11:41  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
日本は言わずと知れたミニバン大国だ。ここ最近では日産自動車「セレナ」がフルモデルチェンジを実施。トヨタ自動車「ノア/ヴォクシー」、ホンダ「ステップワゴン」と合わせて人気モデルの最新版が出そろった。ただ、そんな日本に増えてきているのが欧州産の「MPV」だ。多人数乗車が可能な箱型のクルマだが、日本製ミニバンのライバルたりうるのか、考えてみた。


○MPVって何?



「MPV」は「マルチ・パーパス・ヴィークル」の略だ。例えばステランティスにはプジョー「リフター」、シトロエン「ベルランゴ」、フィアット「ドブロ」があり、ルノーには「カングー」がある。中でもカングーは熱烈なファンを抱える人気車種で、ルノーの日本事業における中核的存在となっている。その名の通り「多用途車」として、大勢での移動や大荷物の運搬など実用性を重視した車種であるMPVは、商用の配送車と共通の作りである場合が多い。


これに対し日本のミニバンは、乗用専用で作られる。かつての「ワンボックスカー」は商用バンとの共用が多かったが、1990年代にミニバンが登場して人気を博したのは、乗用専用であることにより、多人数乗車という実用性はそのままに快適性が格段に向上したことによる部分が大きかった。



商用車として配送に使うための使い勝手を考慮するか、用途を乗用のみにしぼって開発するかで商品性に違いが出てくる。欧州のMPVは、あくまで実用性が第一。作りも頑丈だ。



ただし、新型カングーは乗用車としての質の向上に力を注いだそうで、試乗した感触も従来型モデルより乗用車的になり、快適性が高まっていた。高速道路を走っても、商用車であることを感じさせる乗り心地の粗さやエンジン音などを含めた騒音は抑えられていて、日本のミニバンと比べても遜色のない性能を身につけていた。


カングーが乗用車としての性能を向上させたことはファンにとって痛しかゆしといったところかもしれない。商用主体でバンのように頑丈な従来のカングーには、ほかにはない独特の魅力があったからだ。



リフター/ベルランゴ/ドブロはブランドこそ異なるものの同じクルマをベースとしている。リフターに試乗したのだが、やはり商用車としての丈夫さを覚えさせる運転感覚は、多人数や重い荷物を積んだとしても、どんなところでも走破できそうなたくましさを感じた。それでいて騒音はそこまで気にならず、乗り心地も悪くない。しっかり走るための操縦性や乗り心地がきちんと作り込まれていて、基本性能にゆるぎがないからだろう。


リフター/ベルランゴ/ドブロはディーゼルターボエンジンしか選べないが、走っていて荒々しかったり騒々しかったりすることはない。カングーはガソリンエンジンも選べるが、ディーゼルターボエンジンの運転しやすさが印象深かった。


日本製ミニバンの走りについては乗用車としての乗り味が作り込まれており、各モデルで選べるハイブリッド車は燃費にも静粛性にも優れる。トヨタ、ホンダ、日産の各社がそれぞれの特徴をいかしたミニバンを作っているので、選ぶ楽しさがある。


○大きな違いはサイズ感



外観は欧州産MPVの優れた特徴だ。日本のミニバンにはない魅力が感じられる。



リフター/ベルランゴ/ドブロの外観で目を引くのはプロテクターだ。ボディサイドを保護するという機能性を満たしつつ、乗用車としての外観にも魅力を添えている。3台は基本的に同じクルマだが、プジョー/シトロエン/フィアットの各メーカーが色使いなどで伝統的特徴を表現しており、好みに応じて選べる嬉しさがある。


カングーはモノトーン外装の「インテンス」のほか、あえて樹脂のバンパーをいかして2トーンに見せる「クレアティフ」という選択肢を用意した。樹脂を配した2トーンは商用車風に見えるが、これこそカングーらしさだ。



後席ドアはいずれもスライドドアだが、車体後ろのバックドアは開け方に違いがある。リフター/ベルランゴ/ドブロは日本のミニバンと同じ跳ね上げ式。リアウインドウのみを開くこともできるので、小物を荷室から取り出すのに便利だ。


カングーは左右に開く観音開き方式。商用の配送車としても便利だが、乗用車として使う場合も片側のみドアを開けて荷物を出し入れできるので便利だし、車両後方にあまり余裕がなくても開けやすいという利点もある。いずれにしても、物を出し入れする際の利便性を考慮した作りといえる。


車体寸法はリフター/ベルランゴ/ドブロの全長が4,405mm、全幅が1,850mm、全高が1,880mm。3列シートとなるロングボディは全長が4,760mmとなる。カングーは同4,490mm/1,860mm/1,810mmでロングボディバージョンは日本に導入されていない。



日産セレナのボディサイズは4,690mm/1,715mm/1,895mm。3列シートなのでリフター/ベルランゴ/ドブロのロングボディと全長を比較するのが適切だろう。車高はいずれも似たような数字だが、車幅に関してはセレナが10cm以上狭い。セレナには5ナンバー車の選択肢もある。


車幅の違いは日常的な運転でかなりの差になってくるだろう。車幅が1.8mを超えると、すれ違いなどで道路左端のゆとりが気になるし、駐車の際には駐車枠や隣のクルマとの間合いにより気を遣わなければならなくなる。欧州も道幅は日本と比べ広いわけではない。しかし、縦列駐車をすることが多い彼らが注視するのは前後長(車体全長)で、車幅はあまり意識しないようだ。



車両価格はセレナを含めた国産ミニバンに比べ、輸入車が全体的に高めの設定だ。400万円前後から上の値段で、セレナと同様に3列シートを希望すると450万円ほどになる。セレナはガソリンエンジン車なら276万円から手に入れることができるし、ハイブリッド車のe-POWERも319万円台から買うことができる。最上級グレード「ルキシオン」は479万円だ。



ルキシオンは合成皮革の内装や「プロパイロット2.0」、カーナビゲーションなどが標準装備で、高級かつ先進的装備で快適な移動ができる。乗用車専用として開発された日本のミニバンの最新仕様を存分に味わえるのだ。ミニバンとしての基本的な実用性だけでなく、セレナにはより上質で先進的な装備を選べる車種構成がある。そこは国内競合ミニバンと比べても、日産らしい商品性の与え方だ。



輸入車は性能の良し悪しというよりも、そのクルマが生まれた国の風土を味わうことが嬉しさだと思う。それは外観や内装、あるいは乗り味や使い勝手に現れる。もちろん日本のミニバンは日本の風土に最適な開発がなされているので、かゆいところに手が届く「おもてなし」の精神にあふれた使い勝手の良さは欧州勢が簡単に追いつけない美点となっている。



御堀直嗣 みほりなおつぐ 1955年東京都出身。玉川大学工学部機械工学科を卒業後、「FL500」「FJ1600」などのレース参戦を経て、モータージャーナリストに。自動車の技術面から社会との関わりまで、幅広く執筆している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。電気自動車の普及を考える市民団体「日本EVクラブ」副代表を務める。著書に「スバル デザイン」「マツダスカイアクティブエンジンの開発」など。 この著者の記事一覧はこちら(御堀直嗣)