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「借金は宝くじを当てて返す」という50代の姉 “ふがいない兄弟姉妹”との向き合い方

2023年06月14日 09:51  弁護士ドットコム

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幼少期はあんなに仲の良かった兄弟姉妹なのに、徐々にスキマ風が吹くようになり、気がつけばそれは暴風雨となっていた。そんな家族の切なくも、頭の痛い問題にエッセイストの吉田潮さんが切り込み、この度『ふがいないきょうだいに困ってる』(光文社)を上梓した。


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『週刊新潮』で10年以上続く連載コラム「TVふうーん録」など、鋭いテレビ、メディア批評で知られる吉田さん。「何故このテーマを?」と聞くと、「私自身、ふがいない姉に困っているから」という。



自分自身の行く末だってわからないのに、経済的に自立せず、生活も不安定な兄弟姉妹がいたら——。「ふがいないきょうだい」を持つ13人、弁護士などの専門家に取材を重ねた吉田さんは、不安の先に希望が見えたのだろうか。



●借金は「宝くじをあてて返す」という姉

本書を書くきっかけとなった実姉について、吉田さんは「ふがいない姉」と評する。海外での就職、離婚を経て、今は日本で暮らす姉(50代)は、イラストレーター・漫画家にして、2カ国語が達者な魅力的な女性だ。ただ、それは他人から見た外形的な評価にすぎないのだろう。



身近な家族である吉田さんは姉について本書でこう書く。



〈先々のことを考えようとせず、計画性も貯金もないことがふがいない。才能があるのに、それをお金に変えようとしないこともふがいない。何よりも、生活の基盤を年金暮らしの親に依存していることがふがいない〉



それを姉に指摘すると、姉はこう切り返した。



「あんた、あたいのテオになってよ」



画家、フィンセント・ファン・ゴッホの弟のテオドルスが、兄が絵に専念できるよう、経済的に支援し続けたことを指しているという。そんな教養豊かな姉だが、それが収入につながっているわけではない。吉田さんはこれまで230万円貸したものの、返済の目処は立っていない。



「世の中には、もっと貸した人もいますけど、私の場合、ひとりで必死に働いて、生活費やローンを支払いながら貯めてきたお金です。この金額はかなり大きいです」





ところが、姉に返済を求めても「宝くじで当てて返す」と、妹の切迫感とは温度差を感じる答えが返ってくる。



次第に、不安をこのまま放置してはいけないと思い始めた吉田さん。吉田さんの父は6年前に特別養護老人ホームに入居し、母も5年前から病気がちで入院や手術を繰り返している。



「20代、30代までなら、きょうだいとも適度な距離を持つことができる。でも、親の老い支度が始まると、話をしないといけない局面が必ず出てきます。その時に働かない、稼ぎもない、頼りないきょうだいがいたら……」



吉田さんと姉は、決して険悪な仲ではない。しかし、「仕事がないのに、焦ることもなく1日中、にんじんを引っこ抜くゲームにハマっていた姉」に対し、吉田さんの不安はどんどん募っていった。



●「私にも明るい何かが見えるかもしれない」と希望



友人らに、姉のことを話すと、意外なことがわかった。



「私だけでなく、兄弟姉妹に不安を抱く人がたくさんいたんです。自分のきょうだいではなくても、友達のお兄ちゃんが、とか。そこで、これは潜在数がいるな、と。その人たちの経験談を集めたら、私にも明るい何かが見えるかもしれないと希望を抱いたんです」



書籍化を目標に取材を始めると、バリエーション豊かな「ふがいないきょうだい」が、たくさん見つかった。「ふがいない」とは、例えばこんなきょうだいたちだ。



・自立しておらず、実家の親に依存した生活を送っている
・生活や将来の見通しに危機感がなく、「なんとかなる」と思ってる
・お金に困ると親に甘えたり、無心をしてくる



ふがいないあまり、実家から離れずにパラサイト、投げ銭で200万円を使い込み金を無心、アラサーになって反抗期を迎えて暴言を吐く、宗教にハマってしまった——。吉田さんのように、困りながらも愛をもって接することができる関係性もあれば、絶縁までのカウントダウンが始まった緊張感漂う関係の兄弟姉妹もいた。



本書には、そんなきょうだいたちの怒り、諦念、葛藤、これまで語られることのなかった思いが赤裸々に綴られている。



『ふがいないきょうだいに困ってる』の醍醐味はまさにその点にある。



「TVドラマでは、ふがいない兄弟を家族がハートフルに包むような設定は多いですよね。でも、困っている側のきょうだいの目線は出てこない。社会で傷ついた人を包み込もうというのは大切。でも、それをケアする人も大変だというのをわかって欲しい。



私のように、なんでも言える人間もいますけど、家族のことは特に誰にも相談できない人もいます。でも、モヤモヤして苦しい人は話した方がいいと思います。その苦しい思いを少しでも捨てられる場所があったら、それで救われる面はあるのではないでしょうか。そんな場ができるといいなと思いますね」



●「ある程度の無関心も必要」



取材を終えて「家族の話は一筋縄ではいかない」と実感しているという。



「背景を聞き出すじゃないですか。親が見えてくる。そこに至るまでのファミリーヒストリーがあるんです。ほんとは仲良くあるべき、という幻想を捨てていいはずなのに、家族の絆、兄弟仲良くと刷り込まれているから、なかなかそうもいかない。家族が力をあわせるのは美談だけれども、そうなれない家族関係もあります」



取材や執筆を通して、吉田さんの未来に希望は見えたのだろうか。



「今回、取材で専門家に話を聞き、なるほどと膝に打ち身ができるほど納得できた」という吉田さんによれば、ふがいないきょうだいに悩む人は次の2つが重要だという。



・できることと、できないことの境界線を引く ・不安を解消するための対策は今から講じておく



これ以外にも「ある程度の無関心も必要かもしれないと思っています」とみる。



「私自身がそうなのですが、“ちゃんとしなきゃ”、“家族だから”と、心配のあまり先回りして、過干渉、過保護になってしまう。でも、相手も大人だから、ほんとは世話をする義務もないし、仲良くしなくてもいい、やらなくてもいい。できることだけやればいいんですよね」



一致団結した家族という幻想を捨てた先に、きょうだい関係の希望は見えてくるのかもしれない。