2023年06月13日 10:11 弁護士ドットコム
「友人と重複したためチケットのお譲り先を探しています」「チケット余ったので2枚お譲りします!欲しい方はDMよろしくお願いします!」。ツイッターではこうした形で、ライブチケットの譲渡がさかんにおこなわれている。ただ、転売チケットの購入をめぐりトラブルに巻き込まれる事例も相次いでいる。
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国民生活センターによると、20代を中心に転売仲介サイトやSNSを利用してトラブルにあう事例が相次いでいる。相談件数は右肩上がりで毎月増えており、被害額は1万円以上5万円未満が66.7%を占めている。
被害額が数万円と少額で、弁護士に依頼すると費用倒れになることから、泣き寝入りする人も多いという。一体、どのような手口なのか。「チケット譲渡詐欺」の被害者と実態にくわしい弁護士に聞いた。
「率直な気持ちとしては、『やられたなー』『ライブに行けなくて残念だな』と思いました」。都内在住の会社員、サクラさんは、4月にTwitterで知り合った相手にチケットの頭金を振り込んだが、その後、相手と連絡が取れなくなった。
サクラさんが購入しようとしたのは、7月に開催されるアイドルグループのライブチケットだ。ツイッターで「チケットお譲り探しています。定価のみ」などと書いていたアカウントを見つけ、DMでやりとりした。
「ドタキャン防止に4分の1先払い頂きます」と記載があったため、相手の指定するファミリーマートの「Famiポート」で番号を入力し、4000円(チケット2枚分)を支払った。その後、やり取りしたアカウントが急に消えていることに気づき、緊急連絡先として伝えられたアドレスも不通となった。
警察に相談に行ったが、「ライブ当日を迎えるまでは、詐欺として被害届を出せない。転売にあたるので、あなたも運営側から訴えられるリスクがある」と伝えられた。互いに保険証の一部を送りあっていて不安だったため、相談の記録を残した。
サクラさんは過去にも何度かネットでチケットのやり取りをしたことがあったが、今回が初めての被害だった。「万が一詐欺でも4000円ならまだダメージが少ないと納得して払ったので、金額的な負担よりも、ライブに行けないショックのほうが大きかったです」とこぼす。
お金だけ受け取りチケットを送らない行為は、詐欺罪に当たる可能性が高い。2022年9月にも、アイドルグループ「Snow Man」のライブチケットを譲り渡すとウソをついて現金を詐取した男性が、詐欺容疑で逮捕されている。
騙されてしまったお金は、取り戻せるのだろうか。法律の観点から「推し活」を解説する『清く楽しく美しい推し活』の著者である松下真由美弁護士は「相手の名前や住所など、本人を特定できるような手掛かりがあるかどうかがポイントになる」と話す。
「ネット上のやり取りは手掛かりが少ない場合も多いです。警察に捜査してもらうにあたり、この証拠を確保しておけば必ず安心というものはありませんが、アカウント情報ややりとり、振り込み記録、口座情報などのスクリーンショットは取っておいてください」
松下弁護士によると、詐欺かどうか見分けるポイントとして、以下のようなものがあるという。
・支払いを急かしてくる
・アカウントの利用開始時期が最近
・取引中に座席などチケットの内容がコロコロと変わる
・チケットや当選メールの画像を提供しない
相手は個人ではなく詐欺集団の可能性もある。自分の個人情報が別の詐欺に利用されることもあるため、気軽に個人情報を送らないほうが良いという。
「相手から送られた個人情報が、他の被害者のものの可能性もあります。個人情報の提示があっても安心はできませんが、たとえば支払いを急かされたら、支払い方法はこちらから指定するなど、こちらの要求にもきちんと対応してくれるかを確認しましょう。ただ、やはり、チケットリセールサービスなど、公式に管理されている方法を使うほうが安全です」
ネットでチケットを購入する場合、定価でやりとりしたとしても、譲渡禁止規約違反により運営からペナルティが課されたり当日入れなかったりするリスクは残る。トラブルが発生しても自己責任であることを覚えておきたい。
【取材協力弁護士】
松下 真由美(まつした・まゆみ)弁護士
真和総合法律事務所。企業・金融法務、知的財産法務、YouTuberの代理人としての訴訟活動や契約交渉のほか、一般民事、家事事件に取り組む。著書に「清く楽しく美しい推し活~推しから愛される術~」(東京法令出版、2022年)
事務所名:真和総合法律事務所
事務所URL:http://www.shinwa-law.jp/