6月10日にスタートした、2023年WEC世界耐久選手権第4戦ル・マン24時間レース決勝。夜に入って小林可夢偉がドライブするトヨタ7号車GR010ハイブリッドが不運なクラッシュからリタイアした。
トヨタGAZOO Racing・ヨーロッパ(TGR-E)広報から発表された可夢偉のコメントとともに、このアクシデントが起きた“背景”を確認してみよう。
■「勝負どころにいく前に、ゲームが終わってしまった」
カギとなるのは、当時レースコントロールにより導入されていた『スローゾーン』だ。このスローゾーンは、アクシデント等が発生した一定の区間においてのみ80km/hの制限を設けるもの。ル・マン以外のコースであればフルコースイエロー(FCY)としてコース全周を80km/h制限にするところだが、1周13km以上と長大なサルト・サーキットにおいては、より細分化して当該区間のみ非競技化することで、その他のゾーンにおける競技続行を可能としている(ただし、ル・マンにおいてもFCYは運用されることがある)。
具体的には、ル・マンでは以下の図のように9つのゾーン分けがなされている。
事故当時は『ゾーン3』で、スローゾーンが導入されていた。ポイントとなるのは、このスローゾーンが開始されるひとつ前のマーシャルポスト(MP)で、『ネクスト・スロー』ボードが提示されることである。このボードから先、スローゾーンに入るまでは80km/h制限へ向けて減速し、準備を整える区間として設定されており、ここでの追い越しは禁止と規定されている。
ゾーン3でスローゾーンが導入されている際は、MP5(森のエス入口)でこのネクスト・スローが表示されており、可夢偉の事故はまさしくこのMP5の先、MP6(ゾーン3入口)の直前で起きたものだった。この区間が追い越し禁止であることが、事故の背景にはあったのだ。
TGR-E広報を通じ、可夢偉は以下のコメントを発表している。
「明らかに、僕はスローゾーンの前に設けられた準備エリアである、『ネクスト・スロー』のゾーンにいました」
「前にいたLMP2車両が何らかの理由によりブレーキをかけました。そこでオーバーテイクしてしまうとペナルティを受けるので、僕もブレーキをかけたのですが、後続の右にいたLMP2、左にいたGTカーが、ぶつかってきたのです」
「僕のリヤタイヤは2本ともパンクし、左リヤのドライブシャフトも折れてしまい、ピットへと戻る動力を失いました。とてもフラストレーションが溜まります」
「それでもまだ1台のマシン(8号車)が戦っています。僕はドライバーでありながら、チーム代表でもあるので、彼らをサポートしたいと思います。 僕らは最善を尽くします。 これが、過酷なル・マン24時間レースなのです」
可夢偉の身体が無事だったことがせめてもの救いだが、まさかのリタイアに「勝負どころにいく前に、ゲームが終わってしまった」と悲運に肩を落とした。