2023年06月11日 08:21 弁護士ドットコム
ジャニーズ事務所創業者のジャニー喜多川氏の性加害疑惑をきっかけに、所属タレントたちの言動も注目されている。
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キャスターをつとめる『news zero』(日本テレビ)で沈黙していた櫻井翔さんは6月に入って初めて問題に言及した。現在も事務所に所属しており、被害者側に見られうる立場に置かれていることから、コメントするのが難しいとする内容だった。
報道番組でキャスターが問題を扱えない状況がハッキリと視聴者に可視化された。タレントがキャスターをつとめることの議論もおざなりにされてきたのかもしれない。テレビ局の「報道」をタレントが担うことになった歴史と問題を整理したい。(テレビプロデューサー・鎮目博道)
真偽は定かではないが、「裁判官や検察官は自動車を運転しない」という話を聞いたことがある。自身が捜査や裁判の対象とならないように身を律するべきという趣旨だったと思う。
そういう意味では、ニュースキャスターも同じだ。報道機関であるテレビ局は、公正中立な報道をするからこそ放送局の免許を受けている。キャスターは一般の人よりも自制的な生活を送り、自らが「悪いニュース」になることを避けなければならない。
キャスターの言葉は個人の見解ではない。報道機関として取材した内容を「局の代表者」として視聴者に伝えるものだ。
だからこそ、特定の団体や個人などに偏ることは許されず、中立さが求められる。かつてキャスターは局のアナウンサーがつとめるのが一般的だったのだ。
ジャニー喜多川氏の性加害問題がニュースとして取り上げられるようになって以来、キャスターをつとめるジャニーズ所属のタレントたちの発言に注目が集まっている。
「テレビニュースの根本」としての「ニュースキャスターのあるべき姿」を改めて考えさせてくれるいい機会になっているとも言える。
特定の芸能事務所に所属していたり、特定の企業のCMに出演しているタレントが、キャスターをつとめることは、はたして許容されるのかと疑問に思う人がいても不思議ではない。
「タレントニュースキャスター」は、かなり前から存在する。私がテレビ朝日に入社した1992年には、テレ朝系列の夕方のニュースは当時まだタレントだった蓮舫さん(現参議院議員)がキャスターをつとめていた。その後継番組のキャスターには、石田純一さんや田代まさしさんが就いた。
テレビニュース制作に長年あたってきた私の考えとしては、「タレントキャスター」に問題はないと思う。ただし「タレントがキャスターとしてきちんと活動を制約していた場合」に限る。
あまり公にされないが、実はテレビ局がタレントにニュースキャスターを打診するときには、「キャスターの期間に、タレントとしての活動を一部制限すること」を契約条件とすることが多い。かつてのタレントキャスターたちは、こうした契約に合意して、ニュース番組に出演していたはずだ。
私も契約の文面を目にしたことはない。いろいろなキャスターから聞いた話を総合すると、その内容はケースバイケースのようだ。
「ニュース番組では局の指示に従って原稿をきちんと読み、相談なく自分の見解を勝手に発言しない」とか「仕事上知った秘密はきちんと守り、他言しない」というような基本的なお願いもあるという。
CMやバラエティ番組、他局のニュースへの出演自粛を求めるものがあることも多いようだ。「何か問題を起こせば、降板させることもある」というのも、明文化されるか否かは別として必ず含まれることになるそうだ。
いずれにしろ、ニュースの制作を担当するテレビ局の報道局側の指示に従い、偏りのない立場で「ニュースの内容に疑念を抱かせることがないように」キャスターをつとめることが条件とされる。
こうして、タレントは活動の制約を承知でニュースに出演していた。しかし、いつからかその図式は、まったくあべこべになった。
「ニュース側が番組内容を多少制約しても、高視聴率がとれるように、パワーのあるタレントに局が頭を下げてキャスターに就任してもらう」ようになり、いつしか局とタレントの立場が逆転するようになったのだ。
タレント活動の制約はなかなか難しくなってくる。CMや他局のバラエティへの出演は「OK」で、タレントは自由な立ち位置でニュース番組に出演することが多くなってきた。
私が「大きくニュースが変わった」と記憶しているのは、テレビ朝日では2001年に始まった『SmaSTATION!!』だ。あまりなかった「ニュースを扱う情報バラエティ」ジャンルの番組で、SMAP(当時)の香取慎吾さんが自由な立ち位置で「司会」(実質的にニュースキャスター)として出演した。
特筆すべきは、裏側の事情で言うと、ニュースを扱うのに報道局ではなく、バラエティなどの制作局による制作だった。
ニュース制作の経験をもつ報道局の女性社員1人が「報道局と制作局の兼任」という形で番組に所属し、橋渡し役をつとめることで「報道局ではない部署が制作する実質的なニュース番組」が始まった。それは当時の私には衝撃的だった。
制作局による制作とは、「報道機関としてのニュース制作の都合よりも、タレント側の事情が優先される」ことを象徴的に表しているのではないか。
「やるべきニュースがどれか」ということより「タレント側がやりたいニュース」を、事務所側と話をしながら決める方向にシフトチェンジされたと思う。
今でも「制作局主体のニュース的な番組」は各局で多く作られている。それに引っ張られたのか、報道局制作の純然たるニュース番組でも、「ニュースがタレント側の事情に合わせる」のが当たり前になってしまった感じがして、危機感を感じざるを得ない。
テレビ局の慣習として、ニュース番組のスポンサーのニュースを報じるときには、その日だけスポンサーに降板してもらっている。ニュースの公平性を疑われないためだ。
同じように今回のジャニーズの問題でも、ジャニーズ所属のタレントキャスターはいったん出演自体を見合わせるべきではなかったかと思う。そのほうが局としての真摯な姿勢も伝わるし、タレントも苦しまない。
また、局によっては「事前に事務所側と相談して、タレントに発言してもらった」(テレビ朝日)というが、それは取材先に報道内容を事前に漏らしてしまっているのだから、坂本堤弁護士一家殺害事件のときと同じようなことをしているとも言えるわけで、非常に疑問が残る対応だ。
タレントをキャスターに起用することに疑念を抱く人が増えている今、テレビ局には起用の条件を再考してもらいたい。
少なくとも「ニュース制作の主導権」を局の側がしっかり握り、公正なニュース制作に疑念を抱かせないことと、いざとなったら降板や休演も含めて毅然とした対応を取れることが最低条件なのではないか。