2023年06月08日 12:01 弁護士ドットコム
競技中のアスリートを写した性的な画像や動画が問題となる中、女子プロレス団体が明確に「NO!」と声を上げた。
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未成年の女子中高生も所属する「ワールド女子プロレス・ディアナ」だ。試合中の選手を撮影し、性的な部分を強調した形でインターネット上に投稿する行為に対して、法的措置をとる姿勢を示した。
一方、団体から注意を受けた投稿者は「布の少ない衣装を着ているのに」などと反論したという。団体幹部は「私たちがいやと感じることはやめてほしい。それだけのことです」と話している。
特にエンターテインメント性が強く、観客に「魅せる」要素を重視してきたプロレスというスポーツにおける団体の発信は反響を呼んだ。ディアナの考えに呼応するように、プロレス業界にも賛同の動きが広がる。(編集部・塚田賢慎)
ディアナは井上京子選手が立ち上げ、ジャガー横田選手ら昭和から活躍する「レジェンド」だけでなく、10代の若い選手も複数所属している。
ディアナのフロント業務を担う経営企画部長の不破大志さんによれば、団体や選手が望まない形で、試合中の選手を撮影し、性的な部位を強調する写真をネットやSNSに投稿する人物が確認されているという。オンライン観戦でも同様の事態が起きているそうだ。
昔から性的な目的で撮影する人はいたというが、SNSの登場によって可視化され、傷つく選手が出てきたという。
試合中の撮影は静止画のみOKとし、公序良俗に配慮するよう呼びかけている。
「多くは良識のある人たちばかりです。会場で向けられるレンズの様子から、おや?と思っても、『消してください』と声をかければ応じてくれます。問題としているのは、本当にごく一部の人です」(不破さん)
コロナ禍が落ち着いて、興行も盛んにおこなわれるようになってから、カメラで性的な部位を集中的に狙うような観客が現れたり、脚を開いた格好や尻にフォーカスをあてた画像の投稿が目立つようになったという。さらに投稿に卑猥なコメントをつける人もいるそうだ。
6月5日に出した声明では、そうした行為が選手の人格権を侵害するものだとして、弁護士に依頼して民事裁判や刑事告訴などの法的措置をとる考えを示した。主催試合の選手全員と、他団体の試合に参加したディアナの選手が保護の対象だ。
今後、撮影のガイドラインもつくる見込みだ。
団体としては、撮影を全面的に禁止することは避けたい。撮影OKにしているのは、プロレスや選手を好きで来てくれた多くのファンのためであり、選手のためでもある。
選手たちは、観客席で撮られた写真から、客観的な自分の見え方を研究し、次の試合に生かそうとする。本来的には、前向きな刺激になるものだ。
ところが、選手が積極的にSNSを活用する中で、見たくない自分を目にしてしまう。
選手から「いやだ」という相談がフロントに寄せられて、対応することになった。問題の投稿者に注意のメッセージを送ったところ、反論が返ってきたという。
不破さんによれば、このような言い分だ。
「投稿しているTwitterから『センシティブな画像』と指摘を受けていない」
「法的に何が問題なのか」
「選手のウェアが薄いし、布地も少ない。リング上で卑猥なポーズをしているのに、こちらを責めるのはお門違いだ」
「自分としては応援している」
こうした意見を「屁理屈だ」と不破さんは喝破する。
「衣装は団体が選手のブランディングを考えて、選手と合意のもとで作られています。布地が少ないからセクシャリティを売りにしているというのは違います。
プロレス技によっては、脚を開いて下半身が露わになるものもあります。だからと言って、そういった技を性的なものとして撮影してよいものではありません。
リングの四方八方にカメラがあるのに、そのレンズを信頼できない状況は恐ろしいです。パフォーマンスの質が低下するし、なにより危ない。レンズが原因で集中を欠いて大ケガしないとも限らないからです」
今回の措置は集客面でマイナスになることはないと考えている。団体では、未成年も選手としてデビューしており、練習生の中には小学生もいるそう。
団体の姿勢を理解してもらったほうが、選手も保護者も安心して任せてくれるはずとの考えだ。
「むしろ、こういう相手に対処することで、新しいお客さんも入団する選手も増える。健全化によって業界も大きくなる。
会社は選手に『お仕事だから、いやと言えない。この仕事をしているんなら受け入れなきゃいけない』と絶対に言わせてはいけないと思います」
ディアナがリリースを出した翌6日には、大手団体の1つ「スターダム」も同様の声明を発表した。不破さんによると、スターダム側とも事前に話し合いを進めていたという。
団体は署名を呼びかけていて、すでに団体9社、29人の選手から賛同してもらっている(6月7日23時59分時点)。男子の団体や、フリーの選手からも届いているという。「男子の選手でも誹謗中傷に悩んでいるようです」
「シンプルに『いやなことはやめて』と言ったときに、やめてくれるようにしてもらいたいだけです。
1人、1団体では届かなくても、みんなが言えば『やめて』の力も強くなる。ディアナは通報窓口を作っていますが、女子プロレス全体の窓口も作りたい。
問題なのは、本当に一部の人です。言えばわかってくれる良識のある方が大半です。こっちだって説教くさいことは本当にいやです。ならず者が自然といなくなっていく状態を作りたい。リング外の問題を解決して、早くプロレスをみんなで楽しみましょう」
今回の取り組みは、団体の選手とスタッフが話し合って動いたものだ。被害の対象となる選手を現時点では表に立たせられないという考えから、団体事務局が取材に応じ、所属選手らのコメントを寄せた。
(1)不愉快な投稿を受けてどう感じていたか会場でお客様が撮ってくださる写真を拝見することは試合後の嬉しいことの1つ。会場の雰囲気がよくわかる素敵なものが多く、今後の励みになります。しかし今回のようなことが起こるようになり、「人前に出る仕事をしている以上、このようなことは少しは目をつむるしかない」と無理矢理自分に言い聞かせてきましたが、同時に怒りと悲しさも湧きました。たまらず団体から行為を止めるようお願いをしても変わらず繰り返されることで、ファンの方も巻き込んで不快な状況がつづくことに、とても苦しい想いでいます。選手が明らかに撮ってほしくないとわかっていて、わざと撮りSNSに投稿する行為は、本当に最低だと思います。(2)この活動を団体が始めたことをどう思っているか自分の家族や友人が今私たちと同じような目に遭ってた場合、我慢することなんて私たちには到底できません。この当たり前のことを今回会社がすぐに対策と処置を行ってくれたことに本当に感謝しています。未成年の選手や練習生も増えてきている中、安心して活動できるように整備をしてくれていることがよくわかります。