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IRジャパン元副社長の逮捕容疑「取引推奨罪」とは?  金融法務に詳しい弁護士が解説

2023年06月07日 09:51  弁護士ドットコム

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企業向けコンサルティング会社「アイ・アールジャパンホールディングス」(IRジャパン)が業績予想の下方修正を社内決定した直後に同社株の売却を知人に勧めたとして、同社元副社長の男性が5月、金融商品取引法違反(取引推奨)の疑いで逮捕された。


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報道などによると、同社は2021年3月30日の幹部会議で下方修正を決定した。元副社長は出席していなかったが直後に情報を把握。公表前の4月上旬~中旬に、知人女性2人にLINEで連絡するなどして、株の売却を勧めたという。



同社は4月16日午後、2021年3月期の業績予想を公表。翌営業日の終値は、前日比15%以上下落した。



逮捕容疑となった「取引推奨」とはどのようなものか。インサイダー取引とは違うのだろうか。澤井康生弁護士に聞いた。



●インサイダー取引とは

インサイダー取引の典型例は、会社内部の重要事実を知った関係者が公表前に株式を売買してボロ儲けするケースです。



実際のインサイダー取引では、重要事実を知った役員からその事実を教えてもらった部外者が事実公表前に株式売買するなど、複数の人物が関係する複雑なケースがほとんどです。



情報をもらって実際に株式売買した部外者はインサイダー取引違反となります(金融商品取引法166条3項)。



また、自分自身で株式売買をせず部外者に情報を教えただけの役員も、インサイダー取引違反となります。会社関係者が他人に対して公表前に取引させることにより利益を得させるか損失を回避させる目的をもって、情報の伝達を行うこと自体を禁止しているからです(金融商品取引法167条の2)。



●取引推奨罪の処罰対象は「実際に株式売買した場合のみ」

会社内部の重要事実を伝えずに、株式売買を推奨するだけの場合はどうでしょうか。



金商法は「情報の伝達」だけでなく「取引の推奨」も禁止しています(167条の2)。これが2014年の金融商品取引法の改正で導入された「取引推奨罪」です。「重要事実を漏らしていないからセーフ」というわけではないのです。



法定刑は5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金または併科刑で(同法197条の2第14号・15号)、課徴金の対象にもなります(同法175条の2)。ただし、刑事罰や課徴金の対象となるのは、取引推奨を受けた人が、情報の公表前に実際に株式売買した場合だけです。



たとえ刑事罰や課徴金の対象にならなくても、金融商品取引業者の場合には行政処分の対象になりますし、上場会社の役員の場合は社内規則に違反することになります。




【取材協力弁護士】
澤井 康生(さわい・やすお)弁護士
警察官僚出身で警視庁刑事としての経験も有する。ファイナンスMBAを取得し、企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所の非常勤裁判官、東京税理士会のインハウスロイヤー(非常勤)も歴任、公認不正検査士試験や金融コンプライアンスオフィサー1級試験にも合格、企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他各新聞での有識者コメント、テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。陸上自衛隊予備自衛官(3等陸佐、少佐相当官)の資格も有する。現在、朝日新聞社ウェブサイトtelling「HELP ME 弁護士センセイ」連載。楽天証券ウェブサイト「トウシル」連載。毎月ラジオNIKKEIにもゲスト出演中。新宿区西早稲田の秋法律事務所のパートナー弁護士。代表著書「捜査本部というすごい仕組み」(マイナビ新書)など。
事務所名:秋法律事務所
事務所URL:https://www.bengo4.com/tokyo/a_13104/l_127519/