2023年06月06日 10:41 弁護士ドットコム
会社法が改正され、委員会設置会社に加え、2021年3月1日からは、上場会社(公開会社かつ大会社)にも社外取締役を設置することが義務付けられました。また、東京証券取引所の「コーポレート・ガバナンスコード(原則4-8 」では、「プライム市場上場会社は・・・独立社外取締役を少なくとも3分の1以上選任すべきである。」と規定しています。
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このように、社外取締役の設置が強く求められるようになったことで、社外取締役のニーズが一気に高まりました。しかし、日本では、残念ながら社外取締役になり得る人材が不足しています。
そのため、およそ経営能力があるとは思えないタレントやフリーアナウンサーなどを社外取締役にするケースが増えています。どうして社外取締役人材がこれほど不足しているのでしょうか。(ライター・岩下爽)
社外取締役の設置が求められるようになった背景には、コーポレート・ガバナンスの強化があります。グローバル化の進展によって、海外投資家が日本の企業にも投資するようになり、「コーポレート・ガバナンス」が強く求められるようになったからです。
従来、日本では、会社の業務に関する決定は主に社長(代表取締役)が行ってきました。しかし、業務に関する決定は、本来取締役会でしっかり議論して行われるべきものです。また、監査役や監査委員会によるチェックを受けて適正な業務運営が行われなければなりません。このことは、会社法で規定されています。
もっとも、会社法にガバナンスのための制度がいくら定められていても、社長の子飼いであるイエスマンばかりの取締役会と名誉職の監査役にチェック機能は期待できません。そこで、注目されるようになったのが「社外取締役」です。社外取締役を取締役会の中に入れて、自由な意見を言ってもらい、牽制を働かせようとしたわけです。
それでは、社外取締役を設置すればガバナンスは機能するのでしょうか。この点については、社外取締役が外部者の視点から適正に意見を述べることができ、場合によっては反対することもできる環境にあれば機能すると言えます。イエスマンばかりの取締役会と同じで、イエスマンの社外取締役では何も変わりません。
では実際どうなのかというと、社外取締役であっても取締役会で反対の意見を言うことは簡単ではないようです。何故なら、業務に精通していない外部者が業務に精通している内部者の決定に異を唱えることは容易ではないからです。
また、社外取締役も会社から依頼されて取締役に就任しているため、会社の方針に逆らいづらいという事情もあるでしょう。そのため、社外取締役は、取締役会では、特に意見を言わず、淡々と議事が進行することがほとんどだと思います。
実際に社外取締役をしている人に聞いた話では、「取締役会に出るだけなので、業務の内容については全くわからず、違法なことをするようなことがない限り、賛成して終わりになる」とのことでした。
会社としては、会社法や東証から社外取締役の選任が求められているため、社外取締役を選任していますが、本音としては面倒だと感じているところも多いと思います。そのため、「厳しい意見」をいう社外取締役が欲しいのではなく、「黙って賛成」してくれる社外取締役が欲しいのです。
そう考えると、「厳しい意見」を言いそうもない、タレントやフリーアナウンサーなどは適任と言えます。タレントやフリーアナウンサーなどを社外取締役に起用すれば宣伝効果が得られるため、むしろその効果を期待しているのかもしれません。
東京証券取引所の資料「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び指名委員会・報酬委員会の設置状況(2022年8月3日)」によると、コーポレート・ガバナンスコードが求める「3分の1以上の独立社外取締役の選任」がなされている割合は、プライム市場で「92.1%」でした。つまり、プライム市場の上場企業でも、まだ100%の実現はできておらず、依然として社外取締役は不足しているということです。
また、プライム市場の1社あたりの取締役会の平均人数は「9.1人」で、独立社外取締役の平均人数は、「3.6人」になっています。経営経験のある社外取締役を3名~4名確保することは非常に難しく、人数合わせをするために弁護士や会計士に社外取締役を引き受けてもらっている企業が多くあります。
経済産業省の2020年の資料「社外取締役の現状について」によると、社外取締役のバックグラウンド(全会社)は、経営経験者が「46.0%」、弁護士が「11.8%」、会計士・税理士が「11.1%」、金融機関が「10.2%」、学者が「7.6%」、その他が「13.3%」となっています。
株式会社識学が行った、20歳~59歳の男女の会社員を対象とする「管理職に関する調査」によると、管理職になりたいと回答したのは、わずか「8.0%」で、中でも女性は「4.0%」しかいませんでした。管理職になりたくない理由としては、①出世欲がないから「50.9%」、②責任を伴うから「50.0%」、③仕事量が増えるから「42.6%」となっています。
管理職になりたい人がこれだけ少ないということは、役員になりたい人も当然少ないわけです。特に日本では、創業家やプロパー社員が役員になることがほとんどだったため、いわゆる「プロ経営者」と呼ばれるような人は極端に不足しています。
アメリカのように、転職市場が発達しており、MBAをとった「プロ経営者」が役員としていくつもの会社を渡り歩くというようなことは、日本でほとんどないと言えます。外部人材に閉鎖的な日本の企業風土が変わらない限り、経営人材は増えないでしょう。
(1)女性の役員が求められている理由
世界経済フォーラムが発表した2022年のジェンダー・ギャップ指数の日本の総合順位は、146か国中116位で、中国や韓国よりも低い水準です 。ジェンダー・ギャップというのは、男女格差のことで、日本は男女格差がある国ということです。
このようなこともあり、東京証券取引所の「コーポレート・ガバナンスコード(原則2-4)」では、「女性の活躍促進を含む多様性の確保を推進すべきである」と規定しています。政府も女性活躍を推進しており、役員についても女性の積極的な登用が求められています。
上場企業の場合、有価証券報告書などで役員構成も公表されるため、女性役員の数が少ないと女性の活用に消極的と評価される可能性があります。そのため、女性役員が少ない会社は女性役員を増やす必要があり、内部で適任者がいない場合、女性の社外取締役を探すことになります。
(2)女性社外取締役の確保は難しい
帝国データバンクの「女性登用に対する企業の意識調査」によると、管理職に占める女性の割合は「平均9.4%」、役員に占める女性の割合は「平均12.7%」です。
政府は2030年までに女性管理職の割合を30%にすることを目標 として掲げていますが、まだ10%にも達していません。女性管理職の数が極端に少ないので、女性社外取締役候補者も絶望的に少ないわけです。
世の中には、成功している女性経営者も当然いますが、そのような人は大抵忙しく、時間があるなら自分で別の事業をした方が儲かるので、簡単には社外取締役にはなってくれません。また、日本企業では、社外取締役に大きな期待はしていないため、優秀な女性経営者は、座っているだけの取締役会に参加したいとは思いません。このようなことから、女性社外取締役を探すことは非常に難しくなっています。
人材確保の問題は、短期的に改善することは難しいため、長期的に取り組んで行く必要があります。まずは、女性の管理職の数を増やし、女性の社外取締役が活躍できるような環境を整備する必要があります。
女性の目線でのマーケティングや女性に配慮した職場環境の改善など、女性でなければできないような仕事はたくさんあります。このような仕事を女性社外取締役の力を借りて実現するようにすれば、自然と女性社外取締役のなり手も増えてくるのではないでしょうか。