“マンガ原作者の仕事”にスポットを当て、なぜマンガ原作者という仕事を選んだのか、どんな理由でマンガの原作を手がけることになったのか、実際どのようにマンガ制作に関わっているのかといった疑問に、現在活躍中のマンガ原作者に答えてもらう当コラム。原作者として彼らが手がけたプロット・ネームと完成原稿を比較し、“マンガ原作者の仕事”の奥深さに迫る。
【大きな画像をもっと見る】第8回には「マイルノビッチ」「モジコイネネコイ」などで知られる佐藤ざくりが登場。これまでさまざまな少女マンガを発表してきた佐藤が、「彼女が可愛すぎて奪えない」の吉田夢美とタッグを組んでスタートさせたのがマーガレット(集英社)で連載中の「四畳半のいばら姫」だ。初めてマンガ原作に挑む佐藤の制作の裏側と、そこから感じたことに迫った。
構成 / 増田桃子
■ 「四畳半のいばら姫」のネームについて
1話目。ここは、貧乏で親もいたりいなかったりする人生どん底な主人公のしんらが、人生を生き直す物語の始まりのシーンなので、私としてはちょうど起き上がっている最中の絵のイメージだったんです。でも作画の夢美さんから上がってきた下描きは、しんらが布団で寝ている状態になっていたので、「起き上がるところです」とお伝えして直してもらいました。正直、そういうお互いの解釈違いはこの1回のみで、その後に直してもらったことはまったくないです。夢美さんの下絵を見て私が私の書いたセリフを微調整するくらいです。
2話目。しんらの暮らすボロアパートに、お金持ちで学校の人気者の雷がやって来たシーンですが、立っているしんら視点での雷なので俯瞰に描いてくれているんですよね(4コマ目)。夢美さんはダイナミックな構図が本当に見事で、私が自分で描く想像の上を行ってくれるので毎回感謝しかないです。
6話目。この辺からはもうけっこうかなりの丸投げで(笑)。ボールとボールが抱き合ってますって感じのネームでも、夢美さんなら素敵に描いてくれるだろうと投げたら本当にドラマティックに抱き合うしんらと雷を描いてくれました。作品の方向性や空気感など、擦り合わせとかをせずにビタっとそうそうそれです!って絵を描いてくれるので、本当にストレスフリーです。お互いの感性が近いのか、もしくは夢美さんの勘がすこぶるいいのか……とにかくありがたいです。
■ マンガ原作者として仕事を始めるに至った経緯
長期で仕事をお休みしようかなと思っていたところ、原作ならどうですか?というお話をいただきチャレンジすることになりました。実際に全部自分で描くとなるとほとんど休みなしになるのですが原作(私の場合ネームまで)だけだとびっくりするくらいお休みが増えました。
■ 原作担当として最もこだわっている作業
絵を描いてくださる作画担当の方にわかりやすくネームを描くようにしています。ネームに赤色で注釈を必ず入れるようにしています。作中に魚みたいな顔のおじさんが出てくるのですが、人物像をつかみやすいように正面、横顔もイラストで描いたり……、女の子キャラのときはsnidel着てそう!とか、イメージしやすい情報を書きました。ただしそこから脚色してどんどん広げていってください……!と思っているので、見せ場とかはあまり書き込まないようにしています。夢美さんのことを完全に信頼しているのでお任せしています。
■ マンガ原作者という仕事の魅力
やっぱり自分が想像したものを肉付けしてもらえてキャラが勝手に動き出してる瞬間を見せてもらえたときに感動します! 今連載中の「四畳半のいばら姫」の2話目で、男の子キャラが膝立ててしゃがんでたんですよ。私のネームでは座ってますーくらいの描き方だったんですが、夢美さんが作画でそう描いてくれて……。見た瞬間、「きゃああ! 膝立ててる! 膝立ててしゃがみそうこの子~♡」と爆上がりしました。私では思い付かないことをやってくれて……私よりキャラを理解してくれてる気がしてうれしかったです。
■ マンガ原作者を目指す人へのメッセージ
今はけっこう分業化していっているらしいですね。原作書く人、ネームに起こす人、作画する人みたいに。私はたまたまマンガ家で原作をやってみたパターンの人間なのでよくわからないんですが、やっぱり絵を描いてくれる人が一番偉いような気がしているので(作業時間や肉体労働的にも過酷だし)作画担当へ感謝してなるべく早くにネーム仕上げて渡す、下絵チェックは即返す、よいと思ったところはきちんと褒める!ってことが基本で大事かなあと思います。原作者としてできる努力は映画、小説、ドラマいろいろ観たほうが絶対役に立つかなーくらいです。
■ 佐藤ざくり(サトウザクリ)
9月20日生まれ。大阪市出身、京都市在住。2001年、マーガレット(集英社)に掲載されたNEWまんがゼミナール入選作「同じ星に生まれて」でデビュー。同誌にて2011年から2014年まで連載された「マイルノビッチ」は、2021年に実写ドラマ化も果たしている。2023年2月より「四畳半のいばら姫」を連載開始。単行本1巻が5月25日に発売された。