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法人登記で社長の自宅住所がバレちゃう? 業界団体が改善求める「原則非公開化を」

2023年06月02日 10:01  弁護士ドットコム

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法人登記に記載される代表の自宅住所を原則非公開にして——。6つの業界団体が共同で提言書を出している。現在の制度では、登記情報をオンラインで閲覧できる「登記情報提供サービス」で332円払えば、どこでも簡単に住所情報を入手できる状態だ。


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代表取締役の住所は、金融機関の与信審査や反社会的勢力かどうかのチェックなどで一定のニーズがある一方、見知らぬ人間による自宅への嫌がらせなどのリスクが以前から懸念されていた。



提言書は5月上旬に自民党のスタートアップ小委員会に提出された。その後、岸田文雄首相への提言にも「個人情報の取り扱いの見直し」として盛り込まれたという。



その一方で、非公開にすることの問題点を指摘する声もあり、慎重な議論は必要不可欠。今後の動向が注目される。6団体の一つ「一般社団法人クリエイターエコノミー協会」事務局長を務める淺井健人弁護士に、経緯などを聞いた。(ライター・望月悠木)



●リスク恐れ「働き方が制限される」



淺井弁護士によると、経済界でも度々非公開化を求めるアクションを起こしていたものの、なかなか改正にまでは進まなかったという。



「フリーランスとして働く人が増え、法人化できるくらいに事業が拡大しても、住所を知られることがネックとなり、法人化に踏み切れないこともあった。協会としても、フリーランスが自分らしく働けない状況を是正しなければいけないと感じていました。



スタートアップ企業を立ち上げようにも、同様の壁で、意欲ある人が起業できないケースもありました。



フリーランスやスタートアップ起業家が住所公開による弊害を被っており、『声を上げる人が増えれば現状を打開できるのでは』と考え、政治家に声を届けるウェブサイト“PoliPoli”の関係者からアドバイスをいただきつつ、各団体に協力してもらい提言書を出すことになりました」



郵送物を送るといった嫌がらせ、自宅に押し掛けられるなど、公開によるトラブルは実際に頻出しているのだろうか。



「『住所を調べられ、ネットに晒され、さらには殺人予告までされた』という代表取締役の声もSNS上で見られます。身の危険を感じながら生活している人もいます」



「脅迫状を送られたというケースや見知らぬ人から郵送物が届いたというケースも聞いています。法人化できなかったり代表取締役になれなかったり働き方を制限される人は多いと感じています」



●完全非公開化ではなく「公開対象を限定すれば良い」

今回の提言に対しては批判的な意見もある。



たとえば、住所を非公開にした場合、反社と関係のある企業と知らずに取引するリスクがある。マネーロンダリングおよびテロ資金供与対策などの観点からも住所の公開を望む声も聞かれる。



「私たちはあくまで『誰でも見えるようにする必要はない』と考えています。



マネロン対策などの観点からも同様で、全員が住所を閲覧する必要はなく、法律職や資金移動業者、金融機関などの利害関係のある個人、法人には公開するようにすれば良い。また、トラブルを起こした場合、もしくは発覚した場合、代表取締役の住所がわからないために、事情を確認することができずに逃げられる事態を懸念する人もいます。その場合は『弁護士に依頼して開示請求してもらう』などケースごとの対応策を用意しておけばそのリスクを潰せます」



他にも「反社が起業しやすくなる」という意見もあるが、淺井弁護士は「原則非公開でも住所を登記すること自体は必要で、反社も例外ではありません。仮に反社が起業に際して口座開設しようとしても、金融機関は利害関係者ですので登記の住所情報は確認できます」と反論する。



「『利害関係者』といっても範囲はとても曖昧です。範囲を広げ過ぎると結局は誰でも住所を知ることができてしまうため、落としどころをどこに据えるかの議論は重ねなければいけません」



先進国のケースを引き合いに出して反対する声に対しては、「代表取締役の住所を公開=先進国のスタンダードというわけではありません。イタリアやフランスは公開ですが、アメリカではデラウェア州、ニューヨーク州、カリフォルニア州、カナダでは公開は不要とされています。また、ドイツでは『東京都渋谷区』みたいに、ある程度のエリアまでわかるように求めており、住んでいる建物の記載までは求められません」と説明した。



●「内閣がスタートアップ育成に積極的なのが追い風」

淺井弁護士は、今回の提言内容が岸田首相への提言に反映されたことについて、「岸田内閣ではフリーランスの活躍、またスタートアップ企業の支援などを積極的に進めていることが追い風になっている」と話す。



「これまでも非公開化に向け、経団連をはじめとした様々な団体や国会議員が動いてくれていた。その延長線上に今回の私たち6団体の提言があります。そういった思いも背負いながら今後も声を上げていきたいです」



なかなか動く気配がなかった非公開化に向けた議論が加速する可能性がある。もし非公開化されるとしても詳細な制度設計が必要であり、実現までの道のりは容易ではないが、今後の動向に注目したい。



クリエイターエコノミー協会のほか、5団体は以下の通り(いずれも一般社団法人)。「シェアリングエコノミー協会」「スタートアップ協会」「スタートアップデータ標準化協会」「Fintech協会」「プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会」



【筆者プロフィール】望月悠木:主に政治経済、社会問題に関する記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。Twitter:@mochizukiyuuki