2023年06月01日 11:21 弁護士ドットコム
選挙運動をしている候補者や支援者に対するセクハラやパワハラなどの嫌がらせが、2023年4月の統一地方選前後でも発生したようだ。SNSなどで動画付きの投稿によって複数報告されていた。
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渋谷区議会議員選挙で当選したくわずるゆき子区議も被害者の一人だ。選挙の公示前から区内で政治活動をしていたら嫌がらせに遭ったという。
ツイッターに投稿された動画では、中高年の男性がくわずる氏の演説をやめさせようと怒鳴りつけて妨害する姿が映っていた。当時はどんな状況だったのか、くわずる区議に話を聞いた。(ライター・篁 五郎)
「動画を撮影できたのはたまたまです。ボランティアさんがいた時に妨害されたのは珍しいんです。普段は一人のときでしたから」
くわずる区議は現在35歳で2児の母。大学在学中にアプリ制作会社を起業した経験を持ち、前職の外資系コンサルティング会社でもデジタル事業に特化した部署で勤務していた。
選挙前、恵比寿駅を中心に演説をしており、ツイッターで政治活動する場所と時間を告知していた。2023年3月ごろから一人で演説をしていると急に妨害されるようになったという。邪魔をしてくるのはすべて男性で、背格好や年齢はバラバラだったが、同じような行動をしてきた。
「演説を始めた途端、すぐに『うるさい!』『なんでこんなことしているんだ!』と大声で言われました。近くでずっと撮影している人もいました。私が『どうかしましたか?』と話しかけると去っていくんです」
くわずる区議は怖くなり、ツイッターで演説時間と場所の告知をするのをやめた。それでも妨害行為はやまなかったという。
「私の後ろから近づいてきて『消えろ』『死ね』と聞こえるように言ってくるんです」
決定的な言葉をぶつけられたことで警察に相談することを決めた。
「目の前で『消えろ、死ね、7歳』と録音した音声を繰り返し流されたことがありました。私の子どもの年齢と一致する数字で、とても不気味でした。子どものことをにおわされるとやはり怖いですし、渋谷警察署へすぐに相談に行きました」
相談をすると親身になって話を聞いてくれ、防犯対策も教えてくれたという。
「何かあったらすぐに110番してと言われましたし、すぐに駆け込めるように交番の近くで演説していました。また、演説中は録画や録音をした方がいいとアドバイスされたので、ボイスレコーダーを胸に忍ばせ、スマホをスタンドで立てて録画しながら演説していました」
警察のアドバイスが功を奏したのか、録画と録音を開始してから嫌がらせ行為は減ったという。しかも、不思議なことに選挙公示後は一度も妨害行為に遭わなかったそうだ。
「選挙中も妨害されると覚悟していたので、なかったのは不思議でした」
妨害について、心当たりは特段なく、はっきりした理由もわからないというが、「もしかしたら」と切り出したのはSNSでのやり取りだ。
「女性トイレ問題やLGBTQ法案についてツイッターで発信していたんです。反響も大きく、70万インプレッションまでいったこともあります。
女性トイレ問題を演説で話すと『女性が話すな!なまいきだからやめろ』と言われたし、演説中に『ここの場所でやるな』『目障りだからやめろ』と大声で妨害をされました。
一人で演説しているとやはり怖いですし、相手をするのに時間を使いたくないと思って、『わかりました次の場所行きます』と逃げてしまったこともありました」
区議選では1920票を獲得し、無事当選を果たした。
「子どもをはじめ、声を上げたくても上げられないという人はたくさんいます。そうした人々の思いに寄り添った制度を作りたいというのがあります」
くわずる区議が政治家になろうと思ったきっかけは、不適切保育問題だ。
「実は私の子どもを預けていた保育所で不適切保育があったんです。保育士による園児への暴言などがあり、その保育士は解雇されました。
不適切保育は全国各地でも起きています。これだけ起きるということは特別なことではなく、政治で解決しなきゃいけない課題が潜んでいると思うので、ぜひ取り組みたいですね。
保育士の待遇改善や保配置基準数といった以前から変わらず運用されてきた制度の見直しなど、子どもたちの安全のために声をあげていきたいです」
他にも選挙前から掲げていた渋谷区の女性トイレの問題にも取り組みたいという。
「取り組まないといけない課題だと思っています。渋谷区では女性用のトイレが共用に代わっていっています。区は女性トイレを残すと言っていますけど実際は減っていっているんです。「減らすのはおかしい」と言わなければどんどん減ってしまいます。男性用があれば、女性用もあって、その上でみんなのトイレが必要なところにきちんとあるという状況にしたいですね」
今後取り組みたいこととして、「女性議員の増加」を挙げる。女性議員の比率が今なお低い現状、女性の意見が政治に反映されにくいという危機感からだ。今回の妨害行為も女性だから受けたという実感から、自身の体験を伝えていくとともに、女性からの相談に積極的に応じたいという。
「セクハラやパワハラも女性は男性よりも被害に遭いやすいと思います。政治に挑戦すると決めた女性で頼る人がいなかったら、私がどんな相談にも乗りますよ」
【筆者プロフィール】篁 五郎(たかむら ごろう):神奈川県生まれ。接客業、カスタマーサポートなど非正規雇用を転々とした後、フリーライターに転身。現在は取材記事を中心に社会や政治の問題、医療広告、スポーツ、芸能、グルメと雑多なジャンルを執筆している。