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かなり攻めてる? 真っ二つにしたトヨタ「プリウス」を見てわかったこと

2023年05月30日 11:31  マイナビニュース

マイナビニュース

画像提供:マイナビニュース
「人とくるまのテクノロジー展2023」でトヨタ自動車が展示したのは、新型「プリウス」のプラグインハイブリッド車(PHEV)を真っ二つにしたカットモデルだった。普段なかなか見ることのできないクルマの内部をのぞいてみると、開発の「かなり攻めた」部分が見えてきた。


○カットモデルでわかる新型「プリウスPHEV」の進化



トヨタ「プリウス」は、1997年に当時としては世界初となる量産型のハイブリッド車として登場した同社を代表する1台だ。2023年1月に5世代目へと進化した新型「プリウス」は、従来モデルからスタイルを一新し、エコカーのイメージから脱却したかなり攻めたクルマだ。



PHEVは「充電できるプリウス」だといえる。駆動用のバッテリー/モーターとガソリンエンジンを積んでいるので、充電しておけば電気だけで走行可能だし、ガソリンを入れておけばエンジンを使っても走れる。


展示されていたカットモデルを見ると、従来モデルではトランク部分に置かれていたリチウムイオンバッテリーがリアシート下部の床下に移動していることがわかる。つまり、室内搭載を床下搭載に変更したわけだ。これにより、トランク部分の荷室容量が大幅に拡大した。



メリットはこれだけではない。重量のあるリチウムイオンバッテリーをボディ中央に配置することで重量配分が改善して走行性能が向上しているだけでなく、床下に置くことによる低重心化も実現している。走行時の安定性にも寄与し、クルマとしての性能が大幅に進化した。


○バッテリーと後席シートをミリ単位で調整

従来モデルではトランクにリチウムイオンバッテリー、床下に燃料タンクを配置していた。そのリチウムイオンバッテリーを燃料タンクと同じ床下に配置するためには、かなりの苦労があったという。しかも、容量が従来より大きくなったリチウムイオンバッテリーとなれば、その苦労は並大抵のことではない。


床下にさらなるスペースを確保するとなると、後席のシートを薄くせざるを得ない。しかしシートを薄くすれば乗り心地が悪くなり、居住性が損なわれてしまう。そのため、リチウムイオンバッテリーを後席シートのギリギリまで配置し、数ミリ単位での調整を繰り返した。



さらに、後席シートとリチウムイオンバッテリーの間には、板金を挟み込みわずかな空間を確保する必要があった。そうした極限の状態の中で、後席の乗り心地や居住性を十分に確保しつつ、床下のスペースを最大限確保するためには、かなり「攻めた設計」にする必要があったという。



結果として、容量が大きくなったリチウムイオンバッテリーと燃料タンクを床下に搭載でき、従来モデルの「プリウスPHEV」よりも荷室が拡大。後席の乗り心地も犠牲にならずに済んだ。


車体全体を見ても従来モデルより車高が低くなっているが、クルマとしての性能は大幅に向上している。クルマに使われているさまざまなパーツを「攻めた設計」にすることで、新型プリウスPHEVはクルマとしての性能向上を実現した。



19インチタイヤを装着した新型プリウスPHEVはEVモードでの走行距離が87km、17インチタイヤ装着車であれば105kmの走行が可能となる。近所の買い物やドライブなら、ガソリンを使わなくても十分に走行できてしまうだろう。



昨今、ガソリンを一滴も使わない電気自動車(EV)への注目が高まっているが、災害や停電などで充電できない状況下では、ガソリン車が優位となる。そう考えると、電気でもガソリンでも走行できるPHEVは現状、最適解なのではないだろうか。



「いつまでハイブリッド車を作り続けるのだ」といわれがちなプリウスだが、今後のクルマの主流はやっぱりプリウスだといわれる日も、そう遠くはないのかもしれない。



室井大和 むろいやまと 1982年栃木県生まれ。陸上自衛隊退官後に出版社の記者、編集者を務める。クルマ好きが高じて指定自動車教習所指導員として約10年間、クルマとバイクの実技指導を経験。その後、ライターとして独立。自動車メーカーのテキスト監修、バイクメーカーのSNS運用などを手掛ける。 この著者の記事一覧はこちら(室井大和)