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既婚者が「風俗店」に行くことは「不貞行為」になります! 慰謝料も発生、裁判例を解説

2023年05月30日 10:11  弁護士ドットコム

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夫婦円満な生活を送るためにも、できれば事前にトラブルの芽は摘んでおきたいものです。そこで、年間100件以上離婚・男女問題の相談を受けている中村剛弁護士による「弁護士が教える!幸せな結婚&離婚」をお届けします。


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連載の第25回は「既婚者の性風俗店の利用は不貞行為になる」です。中村弁護士は「たまに誤解している方がいますが、性風俗店で性的サービスを受けることも原則として不貞行為になります」と話します。



とはいえ、裁判では判断が分かれている部分もあるとのこと。実際の裁判例を元に、詳しく解説してもらいました。



●離婚原因にもなり慰謝料も発生する

今回は、性風俗店を利用することが不貞行為にあたるかについて、ご説明したいと思います。



結論から申し上げると、性風俗店を利用することも、原則として不貞行為にあたります。不貞行為にあたる以上、原則として法律上の離婚原因(民法770条1項1号)にもなりますし、不法行為(民法709条)として慰謝料も発生します。ただし、慰謝料額は、通常の不貞行為に比べて低額な傾向にあると思います。



ただ、「性風俗店を利用した」と言っても、そのことで紛争になったケースは様々です。裁判例においても、具体的事案で判断が分かれるケースもあります。



そこで、今回は、参考までに、過去に問題となった裁判例をご紹介しながら、解説したいと思います。あくまでも下級審判例(最高裁判例ではないということです)であるため、この裁判例が絶対的に正しいわけではなく、違う判断もありうるところですが、一つの参考にしていただければと思います。



●性風俗店を利用した配偶者に請求した場合

まず、典型的なのは、夫婦の一方が、性風俗店を利用した配偶者に対し、離婚請求や慰謝料請求をおこなう場合です。



(1)原則として不貞行為にあたる
性風俗店を利用することが、原則として不貞行為にあたるので、離婚請求も慰謝料請求も認められることになります。



たとえば、約4~5年間ソープランドに通っていたという事案では、これが「不貞行為」にあたり、「婚姻関係を決定的に破綻させる重大なもの」と判示しています(東京地裁平成15年9月11日判決)。



ただし、これは離婚訴訟の原告本人がソープランドに通っていた事案です。被告は離婚請求の棄却を望んでおり、被告から原告に対する慰謝料請求はおこなっておらず、原告が有責配偶者にあたるため、離婚請求が棄却された事案でした。



(2)立証のハードルはそれなりにある
ただし、「性風俗店に通っていた」ことを裁判において立証するのは、それなりにハードルがあります。単に、性風俗店のティッシュやチラシを持っていたというだけでは、性風俗店を利用していたことの立証はできません。



また、妻の証言により、夫が性風俗店で遊んだことや妻が性病(淋病)に罹患したことが認められたとしても、これにより夫が不貞行為を働いたとまでは認められない、と判断された事例もあります(東京地裁平成17年7月27日判決)。



(3)否定されたケースもある
裁判例の中には、離婚原因または慰謝料発生原因とはならないとしたものもあります。



デリバリーヘルスの性的サービスを1回受けたという事案では、発覚当初から妻に謝罪し、今後利用しない旨の約束をしていることなどが考慮されて、「離婚事由にあたるまでの不貞行為があったとは評価できない」と判示されています(東京地裁平成31年3月27日判決)。



また、ピンクサロンを1回利用したという事案でも、「不貞行為があったとは認められ」ないとしています(東京地裁令和3年11月29日判決)。



なお、この判決では、ピンクサロンに行った事実は被告本人が認めているものの、「被告が実際に同ピンクサロンで性的サービスを受けたかどうか、受けたとしてそのサービスの内容がどのようなものであったかについては、これを認めるに足りる的確な証拠がない」とも判示しています。



ピンクサロンでどのようなサービスがなされているかの証拠を裁判所に提出する必要があるかもしれません…。



●配偶者が性風俗店に勤務していた場合

次に、自分の配偶者が、黙って性風俗店に勤務し、不特定多数の異性と性的行為をおこなったケースです。



妻が夫に黙って「ホテル型ヘルス」に勤務していたという事案では、妻側は、店では顧客との性交が禁止されており、自身も性交はしていないと主張し、不貞行為には当たらないと主張しました。



しかし、判決では「社会一般の常識に照らせば、夫婦の一方が他方に秘して、不特定多数の第三者に性的サービスを提供する業務に就くこと自体、相互の信頼関係を根底から破壊する行為といえ、上記の権利又は法的保護に値する利益を侵害するのであるから、それがいわゆる不貞行為に該当するかという議論に意味がな」いとされました。



ただ、店に勤務を開始した時点で、夫側の暴力や威圧的な言動が大きく寄与していたなどの事情も考慮されて、慰謝料額は30万円とされました(東京地裁平成28年3月28日判決)。



一方、妻が「ピンクサロン」に勤務していたという事案では、ピンクサロンに勤務していたこと自体は、それほど考慮されていません。



ただし、妻が深夜までダンスホールに入り浸っていたり、度を超した遊興生活に耽っていたことなどが考慮されて、80万円の慰謝料が認められています(東京地裁平成17年2月22日判決)。



●配偶者から性風俗店の店員やホステスなどに対して請求した場合

次は、配偶者から、第三者である性風俗店の店員や、クラブのママやホステスなどが行ったいわゆる枕営業などに対する請求です。性的サービスを提供することが、不貞行為にあたるのであれば、理論的には、性風俗店の店員などにも共同不法行為責任が発生することになります。



もちろん、性的サービス提供者としては、顧客が既婚者かどうかについては関心がなく、通常は顧客が既婚者かどうかについて知らないことも多いと思いますので、その場合は、故意も過失もないとして、不法行為責任が否定される可能性が高いと思います。



しかし、常連客などの場合には、顧客から既婚者であることを聞かされることもあるでしょう。その場合はどうなるのでしょうか。



●性風俗店の店員の場合

ホテルヘルス女性のサービス提供 
性的サービスの提供を主とする性風俗店の店員のケースでは、責任が否定されることが一般的ではないかと思います。 これについては、夫が利用していた「ホテルヘルス」に勤務していた女性の性的サービスの提供が不貞行為にあたるとして、妻がその女性に対して不法行為に基づく損害賠償請求をおこなった事案がありました(東京地裁令和3年1月8日判決)。



判決においては、性交渉がおこなわれたことは認められたものの、「店舗の従業員と利用客の関係を超える関係を有していたと推認することはできない」と判示しました(性交渉が売春防止法上違法となるのではないかという点は置いておきます)。



その上で、「風俗店の従業員と利用客との間で性交渉が行われることが、直ちに利用客とその配偶者との婚姻共同生活の平和を害するものとは解し難く、仮に、婚姻共同生活の平和を害することがあるとしても、その程度は客観的にみて軽微であるということができる」とした上で、妻について、「金銭の支払によらなければ慰謝されないほどの精神的苦痛が生じたものと認めるに足りない」と判示して、妻側の請求を棄却しました。



●クラブのママやホステスなどの場合

これに対し、クラブのママやホステスなどの場合では、少し判断が分かれています。



(1)「枕営業判決」
東京地裁平成26年4月14日判決は、「枕営業判決」として、一時期話題になりました。クラブのママないしホステスが、既婚者であることを知りながら、夫と性交渉をおこなったことについて、妻からクラブのママに不法行為に基づく損害賠償請求をおこなった事案です。



この判決では、ソープランドについても言及していますが、ソープランドに勤務する女性については、「当該性交渉は当該顧客の性欲処理に商売として応じたに過ぎず、何ら婚姻共同生活の平和を害するものではないから、たとえそれが長年にわたり頻回に行われ、そのことを知った妻が不快感や嫌悪感を抱いて精神的苦痛を受けたとしても、当該妻に対する関係で、不法行為を構成するものではない」と判示しました。



それに続けて、クラブのママやホステスについては、「自分を目当てとして定期的にクラブに通ってくれる優良顧客や、クラブが義務付けている同伴出勤に付き合ってくれる顧客を確保するために、様々な営業活動を行っており、その中には、顧客の明示的又は黙示的な要求に応じるなどして、当該顧客と性交渉をする『枕営業』と呼ばれる営業活動を行う者も少なからずいることは公知の事実である」とした上で、ソープランドと比較して、「枕営業」は、「対価が直接的なものであるか、間接的なものであるかの差に過ぎない」ことを指摘しました。



その上で、「クラブのママないしホステスが、顧客と性交渉を反復・継続したとしても、それが『枕営業』であると認められる場合には、売春婦の場合と同様に、顧客の性欲処理に商売として応じたに過ぎず、何ら婚姻共同生活の平和を害するものではないから、そのことを知った妻が精神的苦痛を受けたとしても、当該妻に対する関係で、不法行為を構成するものではない」と判示しました。



(2)ホステスが夫と旅行
一方で、ホステスとの関係で不法行為責任を肯定したものもあります。



3回にわたって2人で旅行に行き、いずれもホテルの同室に3日間ずつ宿泊をしたという事案では、「被告のホステス業の営業活動の一環とはにわかに認めがたい」とした上で、「ホステスの行動は、妻と夫の夫婦関係に少なからず悪影響を与える蓋然性があるものであり、婚姻共同生活の平和を一定の限度で侵害した」とされて、30万円の慰謝料額が認められました(東京地裁平成29年3月13日判決)。



(3)ホステス「肉体関係に及んでいない」と主張
また、他にも不法行為責任が肯定された事案があります。複数回に及ぶホテルや自宅での2人きりの宿泊、裸の写真撮影の許容といったことがあった事案において、ホステス側は「夫に来店してもらい指名をとるために好意があるふりをしていただけであり、肉体関係に及んでいない」と主張していましたが、そもそも説明に無理があるとされました。



その上で、「いわゆる『枕営業』と称されるものであったとしても、ホステスが夫と不貞関係に及んだことを否定することができるものではないし、仮に、そのような動機(指名をとるためであったという動機)から出た好意であったとしても、当該不貞行為が夫の配偶者である妻に対する婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益に対する侵害行為に該当する以上、不法行為が成立するというべきである」と判示して、100万円の慰謝料が認められました(東京地裁平成30年1月31日判決)。



このように、性風俗店の店員については、不法行為責任を否定することが一般的かと思われますが、クラブのママやホステスなどについては、判断が分かれています。



ホステスは、基本的には飲食による接待を受けるサービスであって、必ずしも性交渉を伴うものではありませんから、その点が考慮されたのかもしれません。また(2)(3)の裁判例は、上記(1)の「枕営業判決」の後に出されているものなので、枕営業判決は、他の裁判官にはあまり支持されていないのかもしれません。



なお、当初は、顧客と性風俗店の従業員という関係であったが、その後、情が湧いて、男女交際に至った場合などは、通常の不貞行為の話になり、不法行為が成立する可能性があると思われます。



●既婚者女性→ホストを訴えた事例も

ちょっと変わった類型として、自らサービスを利用した配偶者から第三者(性的サービス提供者)に損害賠償請求をおこなったというケースがあります(東京地裁令和元年5月21日判決)。



これは、既婚者であった女性が、性交渉を持ったホストに対して損害賠償請求をおこなった事案です。



このホストは「女性との関係はホストとしての営業ではなく、女性のことを愛しており、ホストを辞めたら一緒になる」などと伝えた上で、ホストクラブに多額の金銭を費消させ、女性が夫と離婚するに至りました。



しかし、その後、ホストから「女性との関係は、女性に金を使わせるための枕営業であり、女性に恋愛感情を持ったことはなく、彼氏のふりをして女性と性交渉を持ったが、本当は苦痛であった」などと言われ、心的外傷後ストレス障害と診断された事案です。



この事案では、慰謝料として30万円が認められましたが、ホスト側は一切訴訟対応していなかったようで、欠席判決となっています。きちんと争っていたら、どうなっていたかはわかりません。



いかがでしたでしょうか。一口に性風俗店の利用と不貞行為と言っても様々な類型があります。裁判例としても判断が分かれている部分もありますので、今後の判例の傾向を見ていきたいと思います。



(中村剛弁護士の連載コラム「弁護士が教える!幸せな結婚&離婚」。この連載では、結婚を控えている人や離婚を考えている人に、揉めないための対策や知っておいて損はない知識をお届けします。)




【取材協力弁護士】
中村 剛(なかむら・たけし)弁護士
立教大学卒、慶應義塾大学法科大学院修了。テレビ番組の選曲・効果の仕事を経て、弁護士へ。「クライアントに勇気を与える事務所」を事務所理念とする。依頼者にとことん向き合い、納得のいく解決を目指して日々奮闘中。
事務所名:中村総合法律事務所
事務所URL:https://rikon.naka-lo.com/