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漫画家のサイン色紙、ニセモノ続々登場 背景にあるのは天井知らずの”高騰”

2023年05月28日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 ネットオークションやフリマサイトを見ると、手塚治虫、藤子不二雄、鳥山明、宮崎駿… の直筆サイン色紙と称した品物が目に付く。しかし、これらのほとんどは偽物、贋作である。


 以前からこうした贋作は出品され続けており、ネットニュースでもたびたび取り上げられてきた。また、三浦みつるのようにTwitter上で贋作を指摘する漫画家もいた。しかし、事実上サイト運営側からはほとんど対策は講じられることがなく、放置状態が続いている。


 近年では、ある北海道の道の駅で、あろうことか贋作のサイン色紙ばかりを並べた展示会が開催されていた。おそらく地元のコレクターが集めたものなのかもしれないが、見る人が見ればすぐに贋作とわかる稚拙な品物ばかりだった。


 入場が無料だったのがせめてもの救い……いや、そうとは言えないかもしれないが、少なくとも山下清などは贋作を(本物と勘違いして)集めた展示会が行われていたくらいだから、こうした事例は決して珍しくないのかもしれない。


 ネットオークションを見ると、いったい誰がこんな絵を欲しがるのかと首をかしげたくなるクオリティのものも多く出品されている。しかし、そんな絵が落札されている現実があるのだ。


 しばしネットでは、贋作出品者が別アカウントで値を吊り上げて入札を煽っているのではないか、いい評価をつけて安心させるために落札している、などと言われることがある。確かにそれもあるのだろうが、記者がネット上を見てみると、贋作を手にして喜んでいる人がいた。真剣に、本物だと思っているようで、複雑な気持ちになってしまった。


 長引くコロナ騒動の間、富裕層の投機が活発になり、現物資産にも注目が集まった。異常な値上がりを見せた高級腕時計やポケモンカード、現代アート、ヴィンテージ玩具などがわかりやすい例だが、漫画家の原画や色紙にもその影響が及んでいる。こうした熱の高まりに対し、原画や色紙を鑑定できる公的な組織は存在しないため、コレクターの審美眼と出品者の良識に頼っているのが現状である。


 漫画家のサインが芸能人のサインとは異なる点は、なんといっても絵が入ることが多い点である。そのため美術品と言っていい。例えば、かわいい女の子が描かれていたら、それは美人画であろう。日本の漫画やアニメは世界的に人気が高まっているため、この熱が簡単に冷めることはないだろう。


 原画やサインの売買が盛んになることは、ともすれば転売や盗品売買などの問題とも絡むため、手放しで賛成できない部分もあるといわれる。実際、売りに出されることを快く思わない漫画家も少なくないと聞く。


 しかしながら、日本の漫画が美術品として評価され、さらに原画の散逸や廃棄を防いで後世に伝えるためには、健全な二次流通のマーケットの整備は必要と思われる。そのためにはまず、ネットオークションやフリマサイトがしっかりと贋作の対策を行うべきであろう。


文=山内貴範