2023年05月27日 09:11 弁護士ドットコム
東京・新宿歌舞伎町のコンビニ店に自転車に乗ったまま突入し、店の業務を妨害した罪に問われた住所不定、ブラジル国籍のハセべ・フェルナンド・マルコス被告(37歳)に対して、東京地裁(高橋諒裁判長)は、懲役1年6カ月、執行猶予4年とする有罪判決を言い渡した。また、執行猶予期間は保護観察処分とした。判決は5月18日付。
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ハセベ被告は、歌舞伎町のシネシティ広場で清掃活動や炊き出しなどをしていたボランティア団体「歌舞伎町卍會」(現在は解散)のナンバー2だった。新宿東宝ビル横に集う「トー横キッズ」に親しまれていた。「(裁判が終わったら、地元の)群馬に戻りたい」。公判でそう話した彼は「トー横」から離れることができるのだろうか。(ライター・渋井哲也)
起訴事実を認めていたハセべ被告は、証拠調べでも、コンビニ店の防犯カメラ映像が流れるモニターを静かに見つめるような冷静な態度をとっていた。また、「このたびはみなさんにご迷惑をかけ、申し訳ありませんでした」と反省の言葉を口にしている。
一方で、判決当日、上下ラフな緑色とグレーのジャージ姿だったが、靴下は履かず裸足だった。席に座るまでは少し緊張した面持ちだったが、徐々にリラックスしたのか、傍聴席に顔見知りの姿を見つけると、笑顔も見せていた。
ハセべ被告は、ボランティア団体「歌舞伎町卍會」のナンバー2で、東京拘置所内で急死したリーダー、ハウル・カラシニコフ(当時33歳)を支えていた存在。「インフィ」と名乗っており、トー横界隈に集まる未成年・中高生たちに親しまれていた。
検察側の冒頭陳述によると、ハセべ被告はブラジル生まれで、1991年に来日。高校を卒業したあと、職を転々としていたという。
筆者は過去に何度も取材したことがある。常に昼間から路上で酒を飲んでいる印象で、何度話しかけたとしても、筆者のことは記憶に残っていないようで、毎回「はじめまして」と言われていた。過去にAV男優やホストをしていたことは何度も聞いている。
判決などによると、ハセべ被告は、歌舞伎町のシネシティ広場近くのコンビニから「出禁」となっていたという。
きっかけは2022年10月、「これ、温めて」と他店で購入したインスタントラーメンの汁を温めるよう要求したことだ。しかし、店のルールで、他店で購入した商品を温めることはできない。店員が断ると、いやがらせをするようになり、店側は同年11月に出禁とした。
しかし、それ以降も、いやがらせ行為を続けた。そして、2023年1月13日未明、自転車に乗ったままコンビニ店内に侵入。そのうえで、店員に対して、「おい、カス。ここにいるのは全員仲間だぞ」と言って、業務を妨害した疑い。
被告人質問では、次のようなやり取りがあった。
弁護人:店員に腹が立った?
ハセベ被告:店員がバカにしたような対応だった。大人気ないと思うが、そこに反応してしまった。
検察官:店員がバカにした?
ハセベ被告:「温めてください」と言ったとき、店員が斜め上からの対応だった。バカにしていると思った。顔の前まで店員が来て、「出て行ってください」と言われた。
検察官:騒いだり、文句を言った理由は?
ハセベ被告:好きな店員もいた。ちゃんと説明を受けたかった。
検察官:どうして自転車で入店?
ハセベ被告:記憶にないが、怒りが頂点に達して、突発的にしたのかな。
検察官:知人に「ダメだよ」と言われていたのは覚えている?
ハセベ被告:よくわからない。
また、これに先立つ1月7日午前1時過ぎ、シネシティ広場で、ハセべ被告が旗を持っていたため、近くにいた男性と口論となった。警察官もその場に居合わせて、男性の妻が仲介役となったが、ハセべ被告は傷害の現行犯で逮捕された。
弁護人:なぜ、女性を叩いたのか?
ハセベ被告:バイク(自転車)が押された。それに対する反応で叩いた。
弁護人:逮捕当時は覚えていないと言っていたが。
ハセベ被告:覚えてはいないが、あとで話を聞くと、そうかなと思った。二度叩いたことは覚えていない。近寄ってきたタイミングで叩いたのだろう。
検察官:口論をしたのを覚えていない?
ハセベ被告:そう、広場でお酒を飲んでいた。(広場にいる人とした)腕相撲に勝って、お酒を奢ってもらって飲んでいた。
そう、いずれの事件も飲酒がきっかけによるものだった。これ以前も、飲酒の末に傷害事件を起こし、執行猶予付きの有罪判決を受けたことがある。検察官は、酒の付き合い方について質問した。
検察官:酒の付き合い方をどうするのか?
ハセベ被告:ほどほどにしたい。1~2杯程度にしたい。
検察官:1~2杯程度でやめられる?
ハセベ被告:今回、痛い思いをしたので、できる。
裁判官も酒のことを気にしていた。
裁判長:前回の事件の裁判記録を読むと、「お酒を飲まないようにする」と言っていた。
ハセベ被告:判決は覚えている。
また、酒と切っても切り離せない「歌舞伎町」という場所について、裁判長は、事件を誘発すると考えているようだった。
裁判長:新宿は過ごしやすい?
ハセベ被告:はい。
裁判長:(監督をすると言っている親がいる)実家に戻ると、楽しい新宿を捨てることになる。
ハセベ被告:今の状況を考えると、生活を立て直ししたい。
裁判長:歌舞伎町で知り合った人たちから「戻ってこい」と言われないのか?
ハセベ被告:はい。
裁判長は判決で、保護観察付きの執行猶予を言い渡したあと、「保護観察所では守らなければならない遵守事項があります。酒の付き合い方や夜間の過ごし方などです」と指摘していた。
もしハセべ被告が、遵守事項が守られなければ、最終的に刑務所に入ることになる可能性がある。トー横キッズやSNSの一部に「インフィに会いたい」という声もある。歌舞伎町を離れて、酒にのまれず、立ち直ることができるのだろうか。