2023年05月27日 08:41 弁護士ドットコム
ジャニーズ事務所の創業者、ジャニー喜多川氏(享年87)による「性加害」問題が大きな議論となっている。弁護士ドットコムは、会員の弁護士にジャニーズ事務所の対応や今後の法改正についてのアンケート(実施期間:2023年5月19日~23日)を実施し、168人から回答が寄せられた。
【関連記事:カーテンない家を「全裸」でうろつく女性、外から見えてしまっても「のぞき」になる?】
弁護士からは「最初にメディアが取り上げていれば被害の拡大を食い止めることができた。メディアは重大な責任を負っている」と報道機関に対する批判が相次いだ。一方で、加害者とされるジャニー喜多川氏が亡くなっている以上、慎重な取り扱いを望む声も寄せられている。
寄せられた意見の一部を紹介する。
「性加害が許されないことは大前提として、マスコミの“報道しない自由”の濫用を改めて感じました」
「マスメディア、特にテレビが、公共の電波を割り当てられていながら報道をしないのは大問題だし歴史的スキャンダルだ」
今回、寄せられた意見として最も多かったのが「週刊文春」など一部メディアを除き、積極的に報じてこなかった報道機関、特にテレビ局に対する批判だった。
「喜多川氏は故人だから新たな告発に対する事実認定は難しいとしても、20年前の高裁判決で性虐待が事実認定されたことを報道することは可能だし、その後の事務所の態勢を取材検証することも可能だ。それをしないのは怠慢」
再発防止のためにも、なぜ報道してこなかったのか検証をするべきとの指摘も相次いだ。
「立場の弱い者は徹底的に叩き、強い者には徹頭徹尾忖度するというメディアを持つ国は、国民から見れば、知る権利が制限されている国ということです。本件の問題に限らず、メディアのあり方についてこの機会に批判的検討がされることを期待しています。メディアによる自己批判も不可欠ではないでしょうか」
「ジャニーズ事務所と共犯関係にあったことが明らかな報道機関が、他人ごとのようにジャニーズ事務所を責めている状況なのが理解できない。ジャニーズ事務所を叩いても再発は防止できないが、報道機関の姿勢を正すことでなら再発を防止できる。報道機関をこそ責めるべき事案だと思う」
「独立系メディア以外は、同社が声明を発表するまでほとんど静観するような、控えめな態度を保っていたことが何よりも恐ろしいと感じました。一私企業についてこのような態度であるならば、政治その他の国家権力に関わる論点については、どこまで透明性・公平性が保たれた報道がされているのだろうかと、報道に対する根本的な信頼がかなり揺らぎました」
メディアに対しては、次のような要望も並んだ。
「メディアが報道を避けてきたこと自体を大スキャンダルとして徹底検証すべき。各局とも。そのように公共の電波を私物化するなら、電波の割り当てを受けるのをやめてYouTuberにでもなるべきだ」
「マスコミと繋がりの深い有力者の違法行為ついて追及が手薄になることの問題点が改めて明らかになった。マスコミの取り扱いによって差異を生じさせないようにするためにどのような社会制度をつくれば良いかという問題ではないかと思う」
「ジャニーズ事務所の当時からの取締役であり、ジャニー喜多川氏の相続人の娘である現社長は、この問題について道徳的な責任だけでなく、法的な責任を負う立場にあるのではないかと思います(会社の取締役としての責任と個人としての数次相続による損害賠償義務)。マスコミはこのような法的観点からの視点も交えてしっかり専門家にも取材をしたうえで、客観的な報道をして欲しい」
今回の事件を教訓にして、法的な整備を進められないかとの提言も寄せられた。
「所属タレントとの間で、政府が定めた標準契約書を取り交わす義務を定め、相談窓口を設けるなどして、法律に基づき所属タレントを守るシステムづくりを行うべき」
「将来に向けた被害防止策を、国会の立法、行政の実務対応で対応して頂きたいと切に願う」
「今までは裁判になっても、被害者の救済が適切になされなかったことの裏返しでもあり、情けない話ではある。今後、官民がどのような対応をとるか、注目される」
「強大な権力のもとでは、メディアで問題にもされない現実を改めて感じる。旧統一協会でもそうだったが、民事事件で人権侵害が認められそれが社会的な影響がある場合でも、それが放置されるといったことが起きている。独立した人権救済機関が必要」
「性的虐待に止まらず、さまざまな人権問題で『かけこみ寺』的に機能する人権救済機関が設立され、国民に広く周知されることが必要だと思う」
「週刊文春を除いて報道機関がその役割を果たしてこなかったことが嘆かわしい。日弁連などにホットラインの開設を検討するのはどうか」
ジャニーズ事務所に対する感想も寄せられている。
「ワンマン社長が亡くなると途端に問題が噴出し、離脱者が出るあたりに組織マネジメントの失敗や社内システムの構築に失敗している感がすごい。というか、法務部とかそういった部署がないんだろうなぁ…ってのを外部に露呈していてすごいと思う」
「児童に対する性的虐待が行われてきたことはいわば公然の秘密であり、マスコミも含め、自浄作用が全く働いてこなかったことを意味する。雇用の問題はあるが、問題の根深さや重大性を考えるとジャニーズ事務所の解散は不可避と考える」
「男の子を性的な目で見ているので、将来のスター性を見抜くことができるのではないかと思いました。華やかな世界のダーティな部分が垣間見えたように思います」
長年にわたり見てみないフリをしてきた問題に対して、事実関係の調査や検証をしていこうとする声も多く寄せられた。
「被害者個々にそれぞれの思いがあると思う。被害を受けつつも恩義を感じていたり、被害を公にしたい人、したくない人、いつかはしたいが今ではない人など、被害者であるからといって一律に扱えるものではない。様々な思いの被害者がいることを前提に、解明のみに焦点を当てるのでなく、被害者の個々人の思いを一番に考えた対応や報道であってほしい」
「あり得ない所業であり、これほどの大規模な性虐待はなかなかないと思われる。第三者による調査と被害賠償などを強力に推し進めるべき」
「多くの被害者が、誰も弁護士や司法を頼って自己救済をしようとしなかった点は大いに問題です。男性ユニットライバルをテレビから閉め出したり、批判する芸能レポーターを干す、辞めたタレントも同様に干す、等に対して、独占禁止法の適用を長年しなかったのは問題です」
「男児の性被害がこれまで多く闇に葬られてきました。その実情と被害の影響について、これを機に改めて社会の関心を高めたいと思っています」
「子どもの性被害全体に光が当たり、社会の多くの人が『それは絶対に許されないことだ』という意思表示をして連帯できるのであれば、それはすごく期待したい」
「中学生以下のこどもに芸能活動(歌手など)の名目で例外的に『児童労働』を許可したことが問題の始まりではないでしょうか。ステージに立ちたい、活躍して収入を得て親を楽にしたいと思ってジャニーズに入所した子どもたちが、事務所と対等な立場で労働者としての権利を守れるとはとても考えられません。『子どもを働かせていること』ジャニーズJrのようなシステムを許容した社会にも前代未聞の大量被害者を出した性加害の責任の一旦はあるのではないか」
「加害者だけではなく、みてみぬふりをした大人たち、自分たちの利益や既得権を失うことが怖くて蓋をしてきた大人たちは自分たちのしてきたことを直視してほしい。ジャニーズだけではなく、こういう汚い構造を許す土壌が日本社会にある。一人一人を大切にする、その人の人格や意見を尊重する、自分は大切にされる存在だと認識できる社会となるよう日々、自分自身も闘っていきたい」
最後になるが、今回のアンケートを含め、加害者とされる当事者が亡くなっている以上、慎重に取り扱うべきとする指摘が複数あったことにも触れたい。
「事実認定ができていないのに、まるで性加害があったのが公然の事実のように『ジャニーズ性加害問題』との題名を付けて報道する、日本国内の報道機関の言葉に対する意識の低さに愕然とする。
「事実無根の話ではないのでしょうが…一方の当事者が反論出来なくなっている状況で、片方の話を疑問を差し挟んではならないものとして扱うメディアや有識者にも、本人たちが望んでいないのに“被害者”探しをする世間にも違和感があります」
「問題の裁判では、証人尋問を生で見た一審の裁判官は性加害があったとは認定できないとしている。そのくらいあやふやな性加害を、あったこと前提で、ご本人が亡くなっていて反論できない状況で断罪している現状に違和感を感じる」