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ジャニーズ性加害問題、弁護士の8割「第三者委員会は必要」事務所の方針に批判噴出

2023年05月27日 08:41  弁護士ドットコム

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ジャニーズ事務所の創業者、ジャニー喜多川氏(享年87)による「性加害」問題が大きな議論となっている。弁護士ドットコムは、会員の弁護士にジャニーズ事務所の対応や今後の法改正についてのアンケート(実施期間:2023年5月19日~23日)を実施し、168人から回答が寄せられた。


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ジャニーズ事務所の藤島ジュリー景子社長は5月14日夜、事務所サイトで動画を発表し、性加害問題について「心よりお詫び申し上げます」と謝罪しながらも、性加害の事実認定については明言を避け、第三者委員会を設置しないとの考えも示した。26日には、心のケア相談窓口の開設、外部専門家による再発防止特別チームの設置、社外取締役の選出を行うことを書面にて発表したと報じられている。



また26日には、立憲民主党が再発防止のため、地位を利用した第三者からの行為も虐待に含めるなど法律の適用範囲を広げた児童虐待防止法の改正案を単独で衆議院に提出した。



今回のアンケートでは「第三者委員会の設置」と「児童虐待防止法の改正」、それぞれの必要性について質問をした。



結果、第三者委員会の設置については「必要(68.5%)」、「どちらかといえば必要(14.9%)」で、賛成意見が83.4%という結果になった。



また「児童虐待防止法の改正は必要か?」という質問には、「必要(48.8%)」、「どちらかといえば必要(20.8%)と、賛成意見が69.6%にのぼった。一方で、「現行法でも対応可能」という理由で不要だと指摘する声もあった。



以下、アンケートの詳細を紹介したい。



●児童虐待防止法の改正は必要?

5月16日、元ジャニーズJr.のカウアン・オカモト氏、橋田康氏が国会で開かれた立憲民主党のヒアリングで証言。これを受け、立憲民主党が26日、再発防止のため、児童虐待防止法の改正案を単独で衆議院に提出した。今後も社会的な議論は高まっていく見込みだ。



具体的には、虐待が疑われる子どもを見つけた場合、児童相談所などに通告する義務について、現行法では虐待を保護者からの行為と規定しているが、第三者の行為には適用されないため、法改正で第三者の行為にまで通告義務の対象を広げる狙いがあるとされている。



「今回の問題と関連して、児童虐待防止法の改正についてどう考えますか」と質問。





結果は「必要」が48.8%、「どちらかといえば必要」が20.8%と、あわせて7割を上回った。一方で、「どちらともいえない」は17.3%、「どちらかといえば不要」は3.6%、「不要」は9.5%だった。



その理由についての弁護士の声を紹介したい。



●「必要」とする声「虐待をしうる者は保護者と限らない」

「必要」とする意見では、学校や部活動、塾、宗教など幅広い分野で起きる問題に有効であるとの指摘があった。



「子どもにとって、一時的に支配・被支配の環境に置かれることがあるので(学校・塾のほか、宗教団体など)、保護者の範囲を広げて、準保護者からの虐待についても防止する規定を設けるべき」



「学校関係、スポーツ関係、芸能関係などにおいて、第三者による児童虐待は確実に存在すると思われるため」



「保育士、ベビーシッターなど虐待をしうる者は保護者と限らないから」



「習い事の先生やクラブチームのコーチ、学校の先生、部活の顧問も『指導』と勘違いした『虐待』をしていると思われることが多々ある。そういう行為が抑制できたり、警鐘を鳴らすことにつながったりするとよいのではないだろうか」



「第三者の行為による虐待からも子どもを保護する必要がある。ただし、今の児童相談所には虐待通報の増加に対応できる状況がないと思われ、児童相談所の人的、財政的な拡充が必要」



「犯罪被害者支援に関わっている弁護士です。子どもに対する虐待(殊に性的虐待)は保護者からの行為に限られず、知る限りでも、小学校教諭、塾や習い事の先生からの継続的かつ深刻な虐待が起きています。性交同意年齢の問題等により、強制性交ではなく児童福祉法違反レベルでしか処罰されないこともしばしばです。児童虐待防止法に限らず、刑法改正等を含め幅広く対応していくことが必要だと思います」



●「どちらかといえば必要」とする意見

「どちらかといえば必要」とする意見では、実効性への疑問も。



「どこまで実効性があるかについては疑問もある」



「本件のように、大人と子供の距離が近く、かつ問題が発覚しづらい場面では、第三者行為に通告義務を求めるのは妥当」



「児童虐待の側面もあると思うが、子どもが雇用されている立場で雇用主(代表者)からの性加害であるため、職場のセクハラとして、セクハラ禁止法を作り、そのなかで、児童や若年者への特別な類型として規定し、被害についても特別な配慮、相談、救済のあり方等を規定するのが適切ではないか」



●「どちらともいえない」とする意見

「どちらともいえない」という意見では、否定的ではないものの、今回の事件については別の法律の問題ではないか、などの指摘が寄せられました。



「何らかの法規制はいると思うが、児童虐待防止法の範囲かと考えると、議論は尽くすべきところ。むしろ、未成年者の雇用契約(ないしは類似の契約)の中で、チェック機能を確保する法改正を検討するべきではと思う」



「児童虐待防止法を改正したところで防げる問題でもないと思う」



「そもそも創業者から従業員への行為は虐待というよりも、パワハラ(民事)や強制わいせつ(刑事)の問題かと思われるし、第三者からの虐待について通告義務を広げる点については性急な議論は望ましくないと思う」



「通告義務の対象を広げるのであれば、通告先も増やさなければ、現在の通告受理機関(児相、子ども家庭支援センター)がパンクします」



「児童に対する第三者の性加害は本来犯罪。児相が扱う虐待事例とは根本的に異なる」



●「どちらかといえば不要」「不要」とする意見

「どちらかといえば必要」「不要」と考える意見を最後に紹介します。



「通告義務の濫用のおそれがある。刑事罰にあたるなら告発で対応できる」(「どちらかといえば不要」)



「どの程度疑われた場合に通告すべきなのかが不明であり過度な義務となり得る」(「どちらかといえば不要」)



「不要」とする意見には、現行の刑法ですでに対応可能とする意見が多くみられました。



「刑法で既に対応可能であり、刑罰を伴う規制法の制定には慎重であるべき」



「現行法の範囲内で十分に対応可能」



「今回の問題は法律が整備していたから避けられたわけではない」



「そもそも加害行為が事実であれば強制わいせつなどの罪によって刑事事件にすることもできるため、児童虐待防止法を改正する意義はない」



●第三者委員会は必要?

次に第三者委員会の設置について質問した。



5月26日、ジャニーズ事務所は心のケア相談窓口の開設、外部専門家による再発防止特別チームの設置、社外取締役の選出を行うことを書面にて発表したと報じられている。一方で14日、藤島社長は第三者委員会は設置しないとの意向を示した。



弁護士は第三者委員会の設置についてどう考えるのだろうか?





結果は、「必要」が68.5%、「どちらかといえば必要」が14.9%で、賛成意見が8割以上。また、「どちらともいえない」が7.1%、「どちらかといえば不要」は3.0%となり、不要は6.5%にとどまった。



以下でその理由について紹介していく。



●「必要」とする意見

第三者委員会の設置が「必要」とする理由としては、次のような意見が多かった。



「ジュリー社長は、ジャニー元社長の姪っ子であり、いわば身内のため、長年常態化していたセクハラを自浄作用によって根本的に見直すことは期待できない」



「加害者が死亡している以上、警察が動くことはないわけですから、第三者委員会を設置しない限り、事実は再びうやむやにされることになる」



「ジャニーズ事務所は親族経営であり、社長の権力が非常に大きいことから、単なる企業内部による調査では十分な真相解明及び被害者への心理的ケアがなされない恐れがある」



「何十年放置してきた会社がまともに検証できるとは到底思えない」



「社内調査では客観性を説明できない。会社として問題究明、再発防止の姿勢を見せるべき」



「スキャンダラスな内容でもあり、単なる内部調査では、結果の如何にかかわらず社会的なコンセンサスを得られない」



「一般企業であれば記者会見でつるし上げされるような事案であるのに、一方的な動画の公開で済ませる体質、そしてそれに疑義を差し挟まない報道機関のことを考えると、当事者や報道機関による検証には期待できない」



「国民に夢を与えるはずの大規模なタレント事務所がそれを裏切ってきた可能性があり、実態を解明して説明する責任があり、第三者委員会でなければなし得ない」



現状、ジャニーズ事務所は「コンプライアンス委員会」の設置を発表しているが、それでは不十分との声もあった。



「徹底した事実調査を透明性を確保しながら行う上では、第三者委員会がふさわしいから。再発防止のみなら『コンプライアンス委員会』が適当だが、徹底した事実調査を御行うには調査する側の独立性が不可欠」



●「どちらかといえば必要」とする意見

「どちらかといえば必要」とする意見には、設置を肯定的に捉える一方で、懸念点もあるとする意見がみられた。



「コンプライアンス委員会に中立的第三者も入っていれば、円滑さに加えて対応も無理なく立て直せる」



「会社としては隠したい事実であるだろうから、第三者委員会がなければ、何も真相には近づけず、社会の納得は得られないだろうし、会社に対する評価はあがらないだろう。他方で、ジャニー喜多川さんが亡くなっているので、第三者委員会ができることには限度もあり、必要不可欠とは言えない」



「望ましいと思うが、一民間企業が第三者委員会を設置する場合にどのように第三者性(独立性)が担保されるのか、費用の支弁は当該企業から支払われるであろう以上、形だけの第三者委にならないかの方が心配」



●「どちらともいえない」とする意見

会社としての経営や第三者委員会そのものの性質から「どちらともいえない」とする意見も多く挙がりました。



「事実認定が可能となる調査範囲、調査方法について、社外取締役と第三者委員会のいずれがすぐれているかは、人によって異なるため」



「人選や費用を会社がするのであれば意味がない」



「ワンマン経営者によるパワハラ・セクハラであり、既に、加害者が退社・死亡している以上、客観的に何があったかを明らかにすることが必要なのか、仮に調査をしても、どこまで事実が明らかになるかが不明」



「第三者委員会さえあればいい、というものではない。『おおむね何もなかった』と公表するための機能しか果たしていない場合も少なくない」



「問題となった事案そのものは故人の個人的行為と考えられるため再発防止の観点からいえば特段意味があるとは考えられない。他方で、経営体制の見直しに向けた姿勢を見せるためには客観的な評価を受けることについて意義はあると思われるため、いずれとも言い難い」



●「どちらかといえば不要」「不要」とする意見

「不要」「どちらかといえば不要」の意見には、費用対効果やジャニー氏個人の問題であるということを挙げる意見がありました。



「常置機関とするなら、会社法上の機関との権限分配が問題になる」(「どちらかといえば不要」)



「再発防止策を検討する方向性で進めればよいと思っており、過去の故人による行為を暴く必要はないと思う」(「どちらかといえば不要」)



「問題となった人物は既に死亡しており、極めて属人的な問題と思われるため」(「不要」)



「被害者にとってデリケートな問題であり、司法解決を含む公の場での解決を望む被害者もいれば、内々に解決を試みたい被害者もいると考えられる。解決方法は各々の被害者がそれぞれに選択すべきであり、個別の被害者の意向と無関係に大っぴらに一律の被害解決を求めることは適切と思われない」(「不要」)



「未成年者が被害者であった点は、特徴的であり、有名な組織の不祥事であるが、社員数や営業拠点数、売上高等の点から、他のいわゆる大企業などと比較して見たとき、社会的影響力が強い企業とは思わない。他の不祥事や被害事例と比べて、問題視しすぎていると思う」(「不要」)



「加害者死亡という加害者不在状態での現体制の見直しは実益がない」(「不要」)



読者の皆様はどのように考えますか?