2023年05月24日 09:51 弁護士ドットコム
歌舞伎俳優の市川猿之助さんが5月18日に自宅から救急搬送され、同居の両親が亡くなった事件が波紋を呼んでいる。猿之助さんは命に別状はなくすでに退院済。警察の調べに対し、前日に両親と心中について話し合った旨の説明をしたと報じられている。
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報道によると、両親は薬物中毒死の疑いがもたれているものの、現時点では動機や薬物の特定など詳細は不明だ。2人が亡くなっていることから慎重に捜査が進められるとみられる。
今回のようなケースで、仮に刑事事件に発展したのだとすれば、どのような犯罪が成立し、どの程度の量刑になることが考えられるだろうか。元警察官僚で警視庁刑事の経験もある澤井康生弁護士に聞いた。
事実関係が不明なのであくまで仮定の話ということになりますが、今回のようなケースについて場合分けをして検討してみます。
(1)当事者それぞれが自身の意思で自殺した場合
被害者本人が自殺すること自体は違法ではなく、犯罪行為でもありませんので、3人が各々の意思で別々に自殺もしくは自殺しようとした場合には何ら犯罪行為にはなりません。
ただし、3人の合意に基づく心中の場合であって1人が生き残った場合、その者は関与の程度によって、(2)で解説する自殺関与罪に問われる可能性はあります。
(2)当事者の1人が他の当事者の自殺を助けた場合
被害者本人が自殺すること自体は違法ではありませんが、これに他人が関与した場合、その関与した他人は自殺関与罪や承諾殺人罪に問われる可能性があります(いずれも刑法202条)。量刑は「6月以上7年以下の懲役または禁錮」です。
「自殺関与罪」の類型は「教唆」と「幇助」があります。教唆は自殺の決意を有しない者に自殺を決意させる方法、幇助は既に自殺の決意を有する者を援助する方法です。「承諾殺人罪」は被害者の承諾を得て殺す犯罪です。
当事者の1人が他の当事者の自殺を何らかの方法で手伝った場合(たとえば睡眠薬を入手して提供した場合)には自殺の決意を有する者を幇助したこととなり、自殺関与罪が成立する可能性があります。
当事者の1人が他の当事者の承諾を得て実際に睡眠薬を飲ませるなどした場合には承諾殺人罪が成立する可能性があります。
殺人罪が「死刑または無期もしくは3年以上の懲役」であるのに対して、自殺関与罪や承諾殺人罪は「6月以上7年以下の懲役または禁錮」と刑が軽くなっています。
自殺関与罪や承諾殺人罪の場合には被害者本人が自分の生命を放棄していることから通常の殺人罪よりも違法性の程度が軽いからであると言われています。自殺関与罪や承諾殺人罪の場合は個別具体的な情状にもよりますが、執行猶予が付く可能性も十分あります。
(3)当事者の1人による無理心中の場合
無理心中の場合、被害者の同意を得ずに無理に心中させることから、通常の殺人罪が成立します。そもそも被害者に自殺の決意や死ぬことについての承諾がないわけですから、自殺関与罪や承諾殺人罪は成立しません。
追死する意思がないのにあるかのように欺いて被害者を騙して自殺させた「偽装心中」の場合には、裁判例上は被害者の錯誤を利用した殺人罪が成立するとされています(最高裁昭和33年11月21日判決)。
【取材協力弁護士】
澤井 康生(さわい・やすお)弁護士
警察官僚出身で警視庁刑事としての経験も有する。ファイナンスMBAを取得し、企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所の非常勤裁判官、東京税理士会のインハウスロイヤー(非常勤)も歴任、公認不正検査士試験や金融コンプライアンスオフィサー1級試験にも合格、企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他各新聞での有識者コメント、テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。陸上自衛隊予備自衛官(3等陸佐、少佐相当官)の資格も有する。現在、朝日新聞社ウェブサイトtelling「HELP ME 弁護士センセイ」連載。楽天証券ウェブサイト「トウシル」連載。毎月ラジオNIKKEIにもゲスト出演中。新宿区西早稲田の秋法律事務所のパートナー弁護士。代表著書「捜査本部というすごい仕組み」(マイナビ新書)など。
事務所名:秋法律事務所
事務所URL:https://www.bengo4.com/tokyo/a_13104/l_127519/