2023年05月23日 10:21 弁護士ドットコム
他人のツイートをスクリーンショットして投稿すると著作権侵害にあたる――。そう判断した東京地裁の判決が今年4月、東京高裁でひっくり返った。
【関連記事:カーテンない家を「全裸」でうろつく女性、外から見えてしまっても「のぞき」になる?】
この裁判は、ツイッター上で著作権侵害されたとして、原告のXさんが、NTTドコモを相手取り、ユーザー2人(AさんとBさん)について発信者情報の開示を求めたもの。
AさんとBさんは2021年3月、Xさんのツイートのスクリーンショット(スクショ)を添付したツイートをおこなっていた。
1審の東京地裁は、Xさんのツイートを「著作物」と認めるとともに、そのスクショをツイートすることは著作権法に定められた「引用」と認めなかった。
ところが、控訴審の知財高裁は、「引用」かどうかの点について異なる判断を下した。そのポイントはどこにあるのだろうか。
まず、1審の争点は2つあった。1つ目は、「Xさんのツイートに著作物性があるか」。2つ目は「Xさんのツイートのスクショを添付したツイートは、著作権法上で許されている引用にあたるか」だ。
Xさんは、4つのツイートについて「自分が有する思想と感想を創作的に表現したものであり、文芸の範囲に属する言語の著作物に当たる」などと主張した。
これに対して、NTTドコモ側は、これらのツイートについて「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」にあたるかどうかは疑義がある」と反論した。
東京地裁は、Xさんのツイートについて、いずれも「原告の思想又は感情を創作的に表現したもの」と認めて、著作権法が定める「小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物」(同10条1号)であるとして、次のように結論づけた。
「ツイッターの規約は、ツイッター上のコンテンツの複製、修正、これに基づく二次的著作物の作成、配信等をする場合には、ツイッターが提供するインターフェース及び手順を使用しなければならない旨規定し、ツイッターは、他人のコンテンツを引用する手順として、引用ツイートという方法を設けていることが認められる。そうすると、本件各投稿は、上記規約の規定にかかわらず、上記手順を使用することなく、スクリーンショットの方法で原告各投稿を複製した上ツイッターに掲載していることが認められる。そのため、本件各投稿は、上記規約に違反するものと認めるのが相当であり、本件各投稿において原告各投稿を引用して利用することが、公正な慣行に合致するものと認めることはできない」
しかし、控訴審で、知財高裁はまったく逆の判断を下したのだ。著作権にくわしい澤田将史弁護士に聞いた。
——控訴審判決のポイントを教えてください。
控訴審は、上記1審判決の「そうすると~公正な慣行に合致するものと認めることはできない」を削除し、次のとおり判示しました。
「そもそも本件規約は本来的にはツイッター社とユーザーとの間の約定であって、その内容が直ちに著作権法上の引用に当たるか否かの判断において検討されるべき公正な慣行の内容となるものではない。また、他のツイートのスクリーンショットを添付してツイートする行為が本件規約違反に当たることも認めるに足りない。他方で、批評に当たり、その対象とするツイートを示す手段として、引用リツイート機能を利用することはできるが、当該機能を用いた場合、元のツイートが変更されたり削除されたりすると、当該機能を用いたツイートにおいて表示される内容にも変更等が生じ、当該批評の趣旨を正しく把握したりその妥当性等を検討したりすることができなくなるおそれがあるのに対し、元のツイートのスクリーンショットを添付してツイートする場合には、そのようなおそれを避けることができるものと解される。そして、弁論の全趣旨によると、現にそのように他のツイートのスクリーンショットを添付してツイートするという行為は、ツイッター上で多数行われているものと認められる。以上の諸点を踏まえると、スクリーンショットの添付という引用の方法も、著作権法32条1項にいう公正な慣行に当たり得るというべきである」
ポイントとしては、控訴審判決は、ツイッターの規約が、直ちに公正な慣行の内容となるものではないと判断し、1審判決の判断(本件規約に違反したことをもって直ちに公正な慣行に合致しない)とは真逆の判断をした点にあります。
また、1審判決と異なり、他のツイートのスクリーンショットを添付してツイートするという行為(スクショツイート)の実態にも目を向けている点もポイントです。
スクショツイートの実態とは、ツイッター上で多数おこなわれていることや、批評の趣旨を正しく把握したり、その妥当性を検討したりすることができなくなるおそれを避けることができることです。
——AさんとBさんのスクショツイートが「引用」にあたるのかどうかについては、どのような判断がされたのでしょうか。
引用の成否について、以下のとおり述べて、著作権法32条1項の引用にあたる可能性があるという判断を示しました。
「引用をする本文と引用される部分(スクリーンショット)は明確に区分されており、また、その引用の趣旨に照らし、引用された原告投稿の範囲は、相当な範囲内にあるということができる」
「本件各投稿における原告各投稿のスクリーンショットの添付は、いずれも著作権法32条1項の引用に当たるか、又は引用に当たる可能性があり、原告各投稿に係るXの著作権を侵害することが明らかであると認めるに十分とはいえないというべきである」
この点も、1審判決の判断、つまり「スクリーンショット画像が量的にも質的にも、明らかに主たる部分を構成するといえるから、これを引用することが、引用の目的上正当な範囲内であると認めることもできない」とは異なる判断をしています。
特に、Aさんがおこなったツイートは「この方です(´・ω・`)。。」という極めて短いものであるにもかかわらず、引用の成立の可能性を認めている点は、従前の裁判例からすると、やや緩やかな判断に見えて興味深い点です。
——1審判決後の記事で、澤田弁護士は「知財高裁で異なる判決が出る可能性がある」と指摘していましたが、あらためてその背景をお教えください。
以前の記事でもコメントしたとおり、公正な慣行に合致するかどうかは、利用実態と社会通念に基づいて判断されるものです。
利用規約に違反しただけで、直ちに公正な慣行に合致しない、という1審判決は一般的な判断手法とはいえないため、知財高裁では異なる判断がされる可能性は十分にあると考えていました。
実際に、1審判決後にスクショツイートが問題となった裁判例で、1審判決と同様の判断をしたものは公表されていません。
他方で、控訴審判決とは異なる裁判体で、「本件規定は、ツイッター社とツイッターのユーザーとの間の利用規約にすぎないことからすれば、本件規定に反する行為であるからといって、直ちに当該行為が引用に係る公正な慣行に合致しないものであると評価されるものではないというべきである」と判断したもの(知財高判令和5年4月17日・令和4年(ネ)第10104号)があります。
また、実態を踏まえて「スクリーンショットの添付という引用の方法につき、運営者が提供する引用リツイートの機能によらないことをもって直ちに公正な慣行に合致しないとするのは相当ではない」と判断したものがあります(東京地判令和4年9月15日・令和4年(ワ)第14375号。東京地判令和4年7月5日・令和3年(ワ)第14780号も同旨)。
このような状況を見ても、やはり1審判決の判断は「独自のものだった」といえます。
また、1審の段階では、NTTドコモ側から「公正な慣行」に関する具体的な主張立証がなかったという点も大きい要素です。
控訴審で、NTTドコモ側は「原判決の判断は、一般的に利用規約に抵触する可能性のある行為は全て『引用』に該当しないとの解釈を導き得るもので、妥当でない」「スクリーンショットを使用した投稿は、ツイッターのユーザーの間で広く用いられている」と主張したため、控訴審が判断しやすかったというところはあるだろうと考えます。
——控訴審判決による一般ユーザーへの影響はありますか?
1審判決の判断を前提とすると、スクショツイートについては、常に引用は成立せず、他に適法となる理由がない限り、著作権侵害になってしまうという問題がありました。そのため、一般ユーザーに対して、スクショツイートは控えて、ツイッターが用意している引用リツイートの方法を用いることをおすすめせざるをえませんでした。
これに対して、控訴審の判断では、スクショツイートであっても、態様によっては引用が成立する可能性があるということになります。
先ほど述べた複数の裁判例があることも踏まえると、少なくともスクショツイートであることをもって、直ちに引用が成立しないと判断される状況ではないと考えてよいでしょう。したがって、現在の状況では、一般ユーザーにはスクショツイートをおこなうという選択肢もあります。
ただし、誤解してはならないのは、控訴審は「スクショツイートはすべて適法」と言っているわけではないということです。あくまでも「スクショツイートは一律にアウトではない」と判示しただけで、態様によっては、引用が成立しないことはもちろんありえます。
ツイッターが用意している引用リツイートの方法のほうがより安全であることには変わりはありませんので、一般ユーザーはこうした状況を踏まえてどちらの方法でツイートするかを検討するのがよいでしょう。
また、最終的な引用の成否についても注意が必要です。
今回のケースは、発信者情報開示請求事件なので、「著作権法32条1項の引用に当たるか、又は引用に当たる可能性があり」と示していることからもわかるとおり、「権利が侵害されたことが明らかである」かどうか(プロバイダ責任制限法5条1項1号)について判断したのみで、「権利侵害がある/ない=引用が成立しない/する」と結論付けたわけではない(引用が成立する可能性があると述べたにとどまる)という点です。
そのため、今回のケースのように、自らのツイートが極めて短いツイートでも「必ず引用にあたる」という誤解をしないように注意する必要があります。
【取材協力弁護士】
澤田 将史(さわだ・まさし)弁護士
2011年、早稲田大学大学院法務研究科修了。2012年、長島・大野・常松法律事務所入所。2016年には文化庁著作権課に著作権調査官として出向。2020年から三村小松山縣法律事務所パートナー弁護士。著作権法をはじめ、特許法、商標法、不正競争防止法など知的財産法に関する案件やデータ・AIに関する案件を中心に取り扱っている。著作権法に関する著作や講演の実績多数。
事務所名:三村小松法律事務所
事務所URL:https://mktlaw.jp/