今年もインディ500の予選は最後まで悲喜こもごものドラマが入り乱れた一日だったが、チップ・ガナッシ・レーシングの佐藤琢磨は、今日に限って言えばそのドラマの主役にはなれなかった。
予選2日目は、前日のトップ12台によるクオリファイと、グリッド最後の一列を争うラストチャンスクオリファイ、最後にポールポジションを決めるファストシックスが行われる。
クオリファイが始まる前のプラクティスで、琢磨は3番目のタイムをマークしていた。トップタイムはチームメイトのマーカス・エリクソン、その次にアレックス・パロウとなり、チップガナッシのエース、スコット・ディクソンは6番手。
この最後の調整でも琢磨は4ラップのタイムの落ち込みが厳しいことを危惧していた。
予選1日目ほど各車のアテンプトコンディションの差はないが、スピードとダウンフォースの狭間でエンジニアと試行錯誤は最後まで続く。
トップ12のクオリファイが始まり、5番目に琢磨の予選アテンプトの順番が回ってくる。
琢磨は自分より先にアテンプトしていたエリクソンから、マシンが滑るとのインフォメーションを得ていたことから、エンジニアのエリック・カウディンはややダウンフォースを増し、タイヤのグリップの落ち込みを減らして4ラップのスピードを安定させる選択をした。
琢磨は白煙を上げながらコースインしていくと、今日はマシンを滑らせる失敗もなく4ラップを無事に走り切って平均時速233.098マイルのタイムをマーク。その時点で4番目のタイムをマークした。
琢磨の後に今年のインディ500で引退を表明しているマクラーレンのトニー・カナーンがアテンプトしたが、琢磨を上回れず。
しかしその後のアレクサンダー・ロッシら6人のドライバーが琢磨のタイムを上回り、琢磨は結局8番手となって、ファストシックスには進めなかった。
「エリクソンのアテンプトの後、インフォメーションを聞いてダウンフォースを付けることにしたんですが、4ラップの落ち込みは少なかったですけども、絶対的なスピードは足りなかった……」と悔しがる。
少なくともファストシックスに進みポールポジション争いをし、最低でも2列目という目標は達成したかったのだが……。
ファストシックスに残った6人のうち、チップ・ガナッシからはアレックス・パロウとスコット・ディクソンが進出。
他にはシボレー・ユーザーのエド・カーペンター・レーシングのリナス・ヴィーケイ、AJフォイトのサンティーノ・フェルッチ、アロウ・マクラーレンのフェリックス・ローゼンクヴィストとパト・オワードのふたり。
やや劣勢に立たされたホンダ勢だったが、アレックス・パロウが素晴らしいスピードで走り234.217mphをマークして、ポールポジションを獲得した。スペイン人ドライバーのポールポジションは初めてのこと。
琢磨はエリクソンやダリオ・フランキッティらと一緒に、ディクソンとパロウのアテンプトを応援し、パロウのポールが決まると心からチームメイトのポールを喜んだ。
だが反対にラストチャンスクオリファイでは、レイホール・レターマン・ラニガンとデイル・コインの2チーム、4台が戦うことになり、なんと非情なことにグラハム・レイホールが初めてバンプアウトを喫して決勝には出られなくなった。
この2チームは琢磨の古巣のチーム。4台のうち誰が落ちても、琢磨にとっては胸の痛いことだっただろう。
「本当に見ていて辛かったですね。レイホールのチームは昔の仲間がたくさん残っているし、グラハムのエンジニアは僕の担当だったエディだし」
「結局どのドライバーがバンプされることになったとしても辛いけど、グラハムのことだから、また強くなって帰って来てくれると思います」と元のチームメイトに向けて労いの言葉を送った。
そして決勝に向けて期待を聞くと「月曜とカーブデイの2回のプラクティスが残っていますから、その2回で決勝で戦えるクルマにしたいと思います」と語った。
予選でも上位を狙っていただけに、悔しい気持ちは収まらないだろうが、28日の決勝に向けてゆっくりでも気持ちを切り替えてもらいたいもの。
われわれがそう言って簡単に切り替わるくらいなら、苦労はしないだろうが、レースで荒波を乗り越えて来たベテランに期待しよう。