2023年05月21日 08:11 弁護士ドットコム
数十人の保護者が集まった教室で、小銭の音だけが響くー。東京・八王子市上柚木小では、1世帯800円のPTA費の集金は、夏の平日に集合して作業することが慣例だった。
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中には、有給を取って参加している人も。役員の6人は「こんな不毛なこと、いつまで続けるの?」との疑問から改革に動く。2023年度からPTAは解体し、ボランティア組織として生まれ変わるのだという。
全国各地で春になると、PTAの役員決めや業務に対して疑問が噴き上がるのが毎年恒例となっている。改革に踏み切る学校や、業務を引き受ける外注業者も登場してきた。「令和時代のPTA」はどうあるべきか考える。
東京都八王子市にある上柚木小は1995年創立で、現在の児童数は251人。PTAはいわゆるP連には属さない「かみゆぎ会」という組織だが、会則は約30年前から変わらず、業務は旧来のPTAに準ずる形で残っていた。
メスを入れようと業務を棚卸しすると、集金作業のほかラジオ体操や清掃活動、防犯ポスターなど12の活動があった。
法律事務所で働いていた経験がある、当時の副代表大竹るりこさんが振り返る。
「仕事の仕方がアナログで、外の社会とあまりにも温度差があって驚きました。勢揃いしないと仕事の質が下がるというなら分かりますが、有給をとってまで集まる必要があるのか。代替手段を探る必要があると思いました」
解体か、存続か、縮小かーー。結論を急ぐのではなく、まずは、これまでの活動について細かく意見を吸い上げるようなアンケートにしよう。6人は質問案を何度も精査し、2022年11月にアンケートを実施した。
回答率は6割超。12の業務について「必要で手伝いたい」「必要だけど手伝うのは難しい」「不要」との選択肢で意見を募った。こうして「やるべきこと」「できること」「できないこと」を切り分けていった。
業務の効率化のほかに、最大の課題だったのが「役員決めのくじ引き」だ。
そこで、アンケートで「必要とされる活動にもし手伝える人がいなかった場合はどう対応するか?」と問うた。すると「抽選してまで活動する必要はない」が75%を超えたのだ。
自分は手伝えない、それでも誰かに無理やり抽選で押し付けてまで、必要な活動なんてないー。問題意識を共有できた瞬間だった。
それまで、任意団体にもかかわらず、実質的には「所属しない自由」はないに等しかった。役員が面倒な仕事を肩代わりするという現状は、保護者がみんなで負担を分け合うという形からは程遠い姿だった。
なり手がゼロになる懸念、学校や地域との調整…。不安や疑問には丁寧に説明し、調整を重ねていくうちに、おのずと「あるべき姿」が見えてきたという。
2023年度から「かみゆぎ小スマイルサポーター(かみサポ)」として入退会自由なボランティア組織に生まれ変わることが決まった。会費は1児童200円とし、ゆうちょへの振り込み対応になった。集金作業はなくなった。
「いざ自分が入ってみるまで、役員がどんな活動をしていたか皆、分かっていませんでした。今年度から形は変わりますが、これまで子供たちのために組織を維持し、機能させるために苦慮してきた歴代役員の方々に感謝しています」(大竹さん)
PTA業務の負担を軽減するため、会費から捻出して「外注」に頼る動きもみられる。
PTA支援サービス「PTA’S(ピータス)」を運営する合同会社さかせる代表の増島佐和子さんによると、PTA'Sには、現在、ITサポートや書記業務の代行、警備などを請け負う約60社が登録し、幼稚園から高校までの1159団体(44都道府県、2023年5月19日時点)がサービスを利用しているという。
PTAと企業をつなぐだけではなく、個別の困りごとの相談にも応じる。保護者の希望に応じて旗振り当番の曜日や頻度などを調整する「シフト作成ツール」をつくったこともある。導入により、もっとも負荷の高かったシフトを割り振る委員会を廃止することができ、保護者の参加意欲も高まった。
増島さんがPTA'Sを立ち上げたのは、自身も神奈川県内の小学校でPTA副会長を務めた経験があるからだ。児童数は約900人で、もともと外注には積極的なPTAで運動会の警備などプロに依頼していた。
「無理なく楽しくやることは、先生や子どもたちのためにもなる。会費を払うだけで何もしないのが後ろめたいという人もいますが、それも十分な貢献です。抱え込まずに、外注など支援サービスをうまく使うのもひとつの手段です」(増島さん)
上柚木小の場合は、外注ではなく業務縮小の道を取ったわけだが、これには学校側の協力も不可欠だった。
イベントなどでの安全面を考慮して全児童加入とした年100円のPTA保険は、学校関連の別の組織が集金を代行。また、防災備蓄費(毎年購入、1年間保管し何もなければ返却)は、学校側が教材費とともに引き落とすことになった。
また、市の事業で学校が活用している全世帯が登録するアプリを通して、かみサポの情報を発信することも可能となった。
折衝を担当してきた畠中勝美副校長は 「学校はあくまでアドバイザー的な立場で、効率化のために『ここまでなら可能ですよ』と提示するなど、やりとりを重ねてきました。これが外注だったら、保護者と学校がかかわる機会を奪ってしまうのでは」と話す。
川合孝征校長も「『できるときに、できる人が、できることを』が大前提です。保護者の方が無理せず、やりやすいようにしてほしい。前例踏襲は楽だけれど、変えようとするほうが労力が要るんですから」と、2022年度役員の労をねぎらった。
2023年度からは、立候補した5人が活動を主導していくという。改革メンバー6人のうちの一人で、引き続き活動する小野絵美さんは、決意をこう語った。
「もっと身近に感じてもらえるようにホームページでの発信を増やしたい。子どもが喜ぶことには、保護者も参加したいと思ってくれるはずなので、新しいことにも挑戦したいです」