2023年05月21日 07:01 リアルサウンド
アニメが好評放送中の人気漫画『【推しの子】』(原作:赤坂アカ/作画:横槍メンゴ)。それ自体が多くのファンを獲得した一因とも言えそうだが、本作は単一のジャンルに当てはめるのが難しいハイブリッドな作品だ。
(参考:【写真】推さざるを得ないクオリティの『【推しの子】』星野アイ、1/7フィギュアをさまざまな角度から)
単行本のリリースなどに付随する公式の紹介文は、「全く新しい切り口で“芸能界”を描く衝撃作」。SFアクション、クライムサスペンス、ロマンチックコメディ……のようなわかりやすいカテゴライズは難しく、アニメ第1話が国内外の視聴者を驚かせたように「衝撃作」というのはしっくりくる。
基本的には、『【推しの子】』は昨今のトレンドである「転生」を含むファンタジー作品であり、事件の真相を追うサスペンス/ミステリだが、単にファンタジーと呼ぶには生々しく、単にサスペンスと括るにはあまりにポップだ。
上記のように「転生モノ」という部分にフォーカスしても、完璧なアイドル・星野アイが残した双子、アクアとルビーのどちらに着目するかによって、まったく別の紹介ができてしまう。アクアに着目すれば「恵まれた容姿と“前世”の知識や経験を生かした無双の活躍」にカタルシスがある作品であり、ルビーに着目すれば「大病により若くして命を失った少女が、憧れのアイドルの娘に転生して人生を取り戻す」物語にもなる。
「サスペンス」にフォーカスしても、こちらもトレンドと言える「復讐/リベンジ」の達成に期待することもできれば、張り巡らされた伏線と考察しがいのある仕掛けを「ミステリ」として楽しむファンもいる。そのなかで明らかにコメディ寄りの回もあり、華やかなビジュアルと相まって、作品全体としてはドロドロ/殺伐とした空気に支配されていないのも「サスペンス」と括りづらい所以だ。
アイドルを中心とした「芸能界(とその闇)」を描いた作品としても、多面的な捉え方ができる。演技論を含む俳優・アクアのサクセスストーリーが描かれたと思えば、小役時代から縁のある有馬かながエピソードをつなぐ形で、アイドル・ルビーの奮闘に光が当てられる。芸能界のみならず、SNS/インフルエンサーの問題や苦悩にも踏み込みながら、そのなかで「ラブコメ」と言い切っていいエピソードも少なからずある。そうしてますますジャンルレスな印象になっていく。
面白いのは、これだけ多くの見所がありながら、それらが違和感なくひとつの筋にまとまっていることだ。星野アイのポップでキラキラした存在感と、それが失われた悲しみというアンビバレントなイメージが、ルビーとアクアのそれぞれに引き継がれる形で通奏低音になっており、赤坂アカ×横槍メンゴという人気作家コンビの手腕に唸らされる。
エピソードごとにジャンルを分けて考えれば、「ラブコメ回」が好きな人もいれば、「サスペンス回」が好きな人もいるだろう。ジェットコースターのように揺さぶられる感情に身を任せながら、先の展開を楽しみにしたい。
(文=向原康太)