BLの歴史と文化をたどる展覧会「はじめてのBL展」が、5月20日に埼玉・角川武蔵野ミュージアムで開幕した。同展では初のBL専門誌・JUNE(創刊時はComic Jun、旧サン出版)が1978年に創刊されたことを起点に、BLの変遷を大きく3つの時代に分け、各時代のエポックメイキングとなる作品や動向を当時の原画や書籍、年表、映像などとともに紹介していく。
【大きな画像をもっと見る】7月16日まで開催されている「はじめてのBL展」。来場者は入り口で、イベントビジュアルに使用されている竹宮惠子「『風と木の詩』午睡のKISS」の巨大なイラストパネルに出迎えられる。入ってすぐの右手に設置された大型モニターには、映画「タクミくんシリーズ 長い長い物語の始まりの朝。」や映画「メタモルフォーゼの縁側」など、BL作品に関する映像を見ることができるほか、森川智之によるナレーション楽しむことができる。
その後、1978年に創刊された初のBL専門誌・JUNEをメインに紹介するコーナーが続く。竹宮のイラストが表紙を飾った創刊号や、本イベントビジュアルの精巧な複製原画「原画’(ダッシュ)」、JUNE発の作家が活躍した角川ルビー文庫の作品などを数多く展示。企画担当者はイベントビジュアルについて、「(背景の)青色の表現や目の中の緑色など、印刷したチラシで表現できないほどの美しさがあるので、ぜひ現物をご覧いただきたいです」と熱弁している。また普段葛飾区立中央図書館に収蔵されている、中島梓(栗本薫)が手がけた小説「終わりのないラブソング」などの直筆原稿も見ることが可能。JUNEの編集長を務めた佐川俊彦氏による創刊当時の秘話、吉原理恵子、ごとうしのぶらJUNE発の作家によるコメントも掲示。ドラマCDの先駆けとなった「カセットJUNE」も展示された。
続いて「やおい」文化を紐解くコーナーへ。当時「やまなし、おちなし、いみなし」という意味から自由に描くことのできる同人誌で使われ始めた“やおい”というワードを、本展示会では二次創作系同人BLの総称として定義。ブースでは、1985年頃から女性向け同人ブームの火付け役となった「キャプテン翼」の人気の高まりに着目し、コミックマーケットの「キャプテン翼」を取り扱ったサークル数の推移や、カップリング表記研究家・タルト氏によるカップリングに関する解説パネルが展示されている。カップリング表記専門の単語帳「よいこのカップリング帳」や「カップリング表記検定」などのアイテムも置かれており、来場者は実際に手に取って中を見ることができる。
「花ひらくBL文化」ゾーンは、BL専門誌・イマージュ(白夜書房)が初めて表紙にボーイズラブという言葉を使ったことを皮切りに、次第に「BL」という言葉が浸透していく変遷を、雑誌の展示を追いながら辿る構成。数々のBL専門誌が創刊年順に並べられており、一部雑誌は実際に手に取って読むことができる。さらにBLとBL以外の作品を手がける作家の紹介も。そのうちの一人、あさぎり夕の原画展示も行われている。その後、1999年から最近のBL作品の単行本が約300冊、年代順に壁一面に並ぶ。年代を追って目にすることで、当時流行したジャンルや傾向を辿ることが可能だ。また文化庁メディア芸術祭の「第22回 マンガ部門」優秀賞を獲得した紗久楽さわ「百と卍」の特設コーナーや、世界のBLイベントを集めた地図、展覧会の感想を書けるコーナーなどが展開されている。
本会場から少し離れたブースには、実際に展示されていた作品を読むことができるサテライトコーナーも設置。ブース内では大胆なキャッチコピーで知られているBL本の帯に注目した展示も展開されており、BL帯について以前から自身のサイトで紹介していたフリーライター・マルコ氏によるBL本の帯解説コラムも見ることができる。そのほか壁一面を使用した、1970年代から現在に至るまでのBLマンガの年表も掲示。また場内には、合同誌・共有結晶のVol.2とVol.3から抜粋したBL短歌を印刷したカラフルなパネルが天井から吊るされており、BLを知らない人でも楽しめるようなポップな空間に仕上げられた。
「はじめてのBL展」開催のきっかけについて、企画担当者は「最近はBLドラマなどがよく放送されていてBLという言葉を日常的に聞くようになってきました。そんな中でBLについてよく知らないけど言葉は聞いたことがあるという人にも知ってもらう展示がしたいと思い開催するに至りました」と話す。すでにBL好きな人に対しては「長い歴史で捉えていくと(BLについて)知らない部分もあると思うので、そういう部分も楽しめるように構成しました」と語った。そういったBLを知らない人とBLを好きな人の両者が楽しめるような展示構成は、どのラインまで展開するか悩み苦労した点でもあると話している。
そんな彼女が語る見どころはというと、「原画についてはもちろん見ていただきたいです。普段資料館にあるようなものや、作家さんご自身が持っているものも今回展示しているので。ほかにも随所に掲示している解説パネルも、監修協力の先生方に分かりやすく説明していただいているので、そこを読むだけでも面白いと思います。ぜひ実際に足を運んで見てみてください」とアピールした。
■ 「はじめてのBL展」
会期:2023年5月20日(土)~7月16日(日)
時間:日曜日~木曜日10:00~18:00、金曜日・土曜日10:00~21:00/最終入館は閉館の30分前まで。
休館日:第1・3・5火曜日
会場:角川武蔵野ミュージアム(メイン会場:4F エディットアンドアートギャラリー、サテライト会場:4F エディットタウン-ブックストリート)
※記事初出時、本文中の作品名に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。