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中学受験で子に包丁を突きつけて勉強させ、守られなければ土下座や正座 教育虐待に走る毒親たち

2023年05月20日 09:51  弁護士ドットコム

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過熱する中学受験をはじめ、スポーツや音楽などでも親が暴走して子どもを追い詰める教育虐待が社会問題となっています。


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子どものために塾や習い事に通わせる「教育熱心」な親とは異なり、子の意志を無視して極端な追い込み方をするのが特徴だとされます。毒親問題を専門にする吉田美希弁護士に教育虐待の実態、そしてその後の親子関係について詳しく聞きました。



●親としての自信のなさが教育虐待につながっている

——ここ数年で「教育虐待」という言葉がメディアでも取り上げられるようになっています。



教育虐待を一言で表現するのは非常に難しいんですが、子どもの意思を尊重せず、親自身のために親の意向だけで教育方針を決めているようなケースが該当すると思います。



例えば、医師を目指していた親が「子どもは何が何でもお医者さんにしたい」と言って、何が何でも医学部に入れようとするケースですね。他によく聞くのは音楽系です。ピアニストになりたかった親が、子どもが嫌がっているにもかかわらず、教室に通わせ、執拗にピアノの練習をさせる。



うまく弾けなければ食事抜き、包丁を突きつけて練習や勉強をさせているケースもあります。



——親はなぜそこまで強制してしまうのでしょうか



親自身が非常に自信のない人たち、自分を受け入れることのできない、ありのままの自分を受け入れることができない人たちなのかなと感じています。



普通に勉強をして学校を出るだけとか、ピアノも普通に楽しみとして習うだけではダメで、医学部に入れないと自分が親としてダメなのではないか。自分が親として評価されないのではないかという不安を抱えているのかなと感じます。



●子どもの意思を尊重できるかが、教育虐待の境界線

——教育熱心な親と虐待教育にまで至ってしまう親との違いはどんなところにありますか



紙一重の面ももちろんあると思うんです。初めは「子どものために」だったのが、周りの親との競争だったり、親が自分の人生に少し不満を抱えた時期と重なってしまって、子どもに夢を託すようになるケースもあると思います。



ただ、教育熱心と教育虐待の一番大きな違いは、そこに子どもの意思を尊重する姿勢があるかどうかという点だと思ってます。



選択肢を示したり、習い事をさせたことが即教育虐待になることはありません。



子どもに習い事、ピアノとか音楽系、スポーツ分野で、トップレベルにさせようとすると早いうちからやらせますよね。3~4歳くらいの子どもが自分で情報収集することや、教育の機会を獲得するのは難しいので、親がある程度その選択肢を示してあげることは大切だと思うんです。



習い事を始めてからも暫くの間親が一緒に宿題をやってあげたりとか、レッスンの付き合いも勿論必要です。そうした伴走は虐待ではなくて、ただの教育熱心と評価できるのかなと思います。



ただ、幼少期であっても、子どもが習い事が嫌だったりすると、毎回行く時にお腹が痛くなるなど体調不良もあります。弊所に相談にいらっしゃる方の中には、小さい頃に習い事のたびに嘔吐していた方もいるんですよね。



それにもかかわらず、子どもにその習い事を続けさせる。そんなレベルに至ってしまうと、子どもの意思を尊重してるとは言えないので、教育虐待に差しかかっていると評価して差し支えないかなと思います。



●教育への投資が増えるのはいいことだが……

——子どもが少なくなってきた影響なのか、子どもに対する期待や投資は過熱しています。こうした現状に何か懸念点はありますか。



親が教育に投資すること自体は問題ありません。



ただ、どんな経済状況でも、子どもが一人や二人であれば、ある程度集中して子どもに投資することはできてしまいます。すると、投資した分を回収しなければという思いで、子どもの成果に執着することもあるかもしれません。その点は少し心配ですね。



子沢山の時代であれば、一人の子に集中して監視したり、コントロールすることはなかったはずです。現在のように子どもが少ないと、親が本気を出せばいくらでもコントロールできてしまいますから。



●夜勉強中に寝てしまわないようにと、包丁を突きつけてくる親

——教育虐待にまつわるもので、先生の印象に残っているお話はありますか



中学受験の時、どんなに眠たくても、横で親が包丁を突きつけてきて怖いから、寝ないように勉強していたというエピソードです。



小学生であるにもかかわらず、5分刻みのスケジュール帳を親が作って、きちんと守れないと食事抜きとか、場合によっては土下座や長時間正座をさせるというケースもありました。



●大人になってからも「親の意向でやらされた」という意識に苦しむ子どもたち

——その後どういうふうに成長されたんですか



教育虐待も虐待の一種なので、他の虐待と同様、人を信じられず、自分の感情がわからないまま、心身に不調を抱えて成長する方は多いです。



ただ、ほかの虐待とまた少し違ってくるのは、教育虐待の先に、いま現在の職業や出身大学がつながってくることですね。



例えば、親が何が何でも医師にさせたいというケースで、実際に本人はお医者さんになり、経済的にも社会的にも成功している。でも、本人にとっては「自分で選んだ職業ではない」「親を喜ばせるために、親の意向に沿ってやらされた」という意識があります。いくら社会的、経済的には成功しても、本人は「あれ、自分はなんでこんな仕事をしているんだろう」とジレンマがある。



傍からは成功しているように見られるけれども、自分自身は少しも幸せではないという、そのギャップに苦しんで葛藤し続けるケースは多いです。



それは成功したパターンですが、親から強制されたけれども医師になれなかった、ピアニストになれなかったなど失敗してしまうと、それはそれで親のことを一生恨み続けてしまう。



恨むってすごくエネルギーを使います。その結果、鬱病とか精神疾患になってしまうことも多いですし、別の職業に就いても、本人は全然幸せを感じることができず、「自分はドロップアウトした人間だ」という意識を背負ったまま苦しんで生きていくケースも多いのかなと感じています。



●受験、思春期と、コントロールを続けていく親

——教育虐待では、大学入学なり職業に就くなどそのゴールを達成した後はどうなるのでしょうか



やはり教育虐待が起こる家というのは、親が子どもの意思をきちんと尊重したり、子どもを人としてきちんと尊重したりしていません。もし、その姿勢があれば、そもそも教育熱心のレベルで留まるはずですから。



教育虐待が始まったきっかけが中学受験だったとすると、次は大学受験、その次は職業選択や就活にまで発展していくケースも多いですね。



中学受験は終わったのに、今度は「中学の中でいい成績を」という教育虐待もあります。中学受験が終わった時期は、子どもが思春期にさしかかって親から自立していこうとする時期です。



ところが親からすると、子どもをまた支配コントロールしなければ、となりがちな時期なんですよね。中学、高校にさしかかるぐらいの時期に、支配やコントロール、暴言など心理的虐待がヒートアップするケースも多いかなと思います。



●教育虐待で生じる親子間のギャップ

——成人した後は、どのような親子関係になっていくのでしょうか



いじめや虐待は、やった側はすぐ忘れるし、やったことさえ覚えてない。そして、やられた側はそれを忘れないという傾向があります。



教育虐待があった家庭も同じで、子どもは親が目標とするいわゆる良い学校に入れたのかもしれないし、職業に就いたかもしれない。しかし、その親子関係は破綻に向かう確率が高いのかなというふうに思ってます。



——親としては自分が思い描いたものを子どもが達成して、「子どもは幸せに違いない」と思い込んでるというギャップがありそうですね。



そうですね、そこに苦しんでいる子どもも多いのかなと思います。親は当然、自分達の希望がかなったので、幸せだし、満足してますよね。子どもも幸せに違いないって勝手に思い込んでさえいるのかもしれない。



その親の様子を見て、子どもは「ああ、自分はやっぱり所詮親の人形に過ぎないのか」と葛藤もするし、すごく苦しみますね。その結果として、親子関係は破綻に向かっていくのではないかと思います。




【取材協力弁護士】
吉田 美希(よしだ・みき)弁護士
幼少時からの虐待を含む自身の家庭での経験を踏まえ、親子問題(毒親・機能不全家族の問題)に積極的に取り組む。親子問題のうち、子の立場に立脚した弁護活動に特化しており、2015年の事務所開設以来、相談に乗ってきた子の立場の相談者はのべ700名を超える。親との間で問題を抱える人たちが、問題を解決し、前向きな人生を歩むための出発点に立てるよう、弁護活動に加えて、自身の体験や日々の発見をベースに、毒親や機能不全家族で悩む人たちに向けた情報発信も行っている。note:https://note.com/yoshida_miki/
事務所名:法律事務所クロリス
事務所URL:http://chloris-law.com/