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『鬼滅の刃 刀鍛冶の里編』炭治郎の戦闘シーンの変化……原作とは異なるアニメの“演出”

2023年05月20日 07:11  リアルサウンド

リアルサウンド

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※本稿はアニメ『鬼滅の刃』刀鍛冶の里編のネタバレを含みます。


 現在、フジテレビ系で好評放送中のアニメ『鬼滅の刃』刀鍛冶の里編。「週刊少年ジャンプ」の人気漫画を忠実に映像化している同作だが、実は原作とアニメ版の間にはさまざまな違いが見受けられる。


 今回はそのなかでも意外と気づきにくい、“演出法”の違いに注目してみよう。


 原作『鬼滅の刃』を読んだことがある人なら分かる通り、作者の吾峠呼世晴は擬音の使い方が特徴的な漫画家だ。アクションシーンではコマをまたぐほどに巨大な擬音の描き文字がページ上を飛び交い、迫力がある絵作りを徹底している。


 刀鍛冶の里編でいえば、時透無一郎が絡繰人形「縁壱零式」と剣戟を繰り広げる場面が印象的だ。原作の同シーンでは、「ギャギャギャギャ」という描き文字が画面を埋め尽くし、絡繰人形の異常なスピード感が表現されていた。


 また、上弦の肆・半天狗が無一郎と炭治郎のいる部屋に滑り込んでくる場面では、「ぬらり」という特大の描き文字が不気味さを助長している。


 ところがアニメでは、基本的に擬音が文字として映し出されることはないため、“絵作りとしての擬音”は成立しない。そこでアニメ『鬼滅の刃』刀鍛冶の里編では、SEによって独特の擬音を再現しているほか、「あえて擬音を再現しない」というアプローチをとることも多い。


 たとえば第2話で描かれた無一郎と絡繰人形の殺陣では、「ギャギャギャギャ」という音が一切登場せず、高速で華麗な身のこなしを見せる両者の動きが、ハイクオリティな作画で表現されている。


 また半天狗が部屋に侵入してくる第3話のシーンでも、擬音らしきものは控えめだ。“ぬらり”とした動きが、スローモーションの作画によって表現されていた。


 ほかにも第4話、団扇の強風で炭治郎と禰豆子が床に押し付けられるシーン。原作では6つの擬音が画面を埋め尽くしていたが、アニメではSEは控えめに。2人を演じる声優・花江夏樹と鬼頭明里の演技やエフェクト演出によって、迫力を生んでいる。


アニメの特性を活かした演出の数々

 アニメ『鬼滅の刃』刀鍛冶の里編では、逆に原作にはない“音”を追加する演出も試みられていた。第5話、甘露寺蜜璃が里長の救出に駆け付け、恋の呼吸 壱ノ型「初恋のわななき」で金魚の鬼を一刀両断するシーンでのことだ。


 原作では見開き2ページで、あえて擬音なしの演出が行われていたが、アニメでは鬼の体がバラバラになる際、軽やかな効果音が流れている。おそらくその意図としては、恋の呼吸には派手なエフェクトが出ないため、視覚の代わりに聴覚的な演出を工夫したのではないだろうか。


 こうしたアニメならではの演出は、ほかにも随所に仕込まれていた。第1話では神崎アオイの回想によって、昏睡から目を覚ました我妻善逸の近況が明かされるのだが、これはアニメオリジナルの描写だ。


 同シーンでは遠方で任務に就いている善逸が、その場にいないはずのナレーション役・アオイに対して「アオイさん、今俺のこと思い出してる!?」と執拗に語り掛けるシーンが登場。同作では珍しいメタフィクション的な演出となっていた。


 演出の意図を深読みするなら、刀鍛冶の里編であまり出番がない善逸の存在感をアピールするためだった……とも考えられそうだ。


 アニメ『鬼滅の刃』は作画やエフェクトが注目を集めることが多いが、演出法にもさまざまな工夫が見られる。いかにして原作の再現度を高めているのか、ぜひ注目してみてほしい。