助走をつけたラリーカーが勢いよく地面を離れ、ほんのわずかの間だけマシンの下面を晒した直後に着地を決める。この一瞬のアクションに大観衆が沸き立つ光景はWRC世界ラリー選手権におけるひとつの華と言えるだろう。『ラリー・ポルトガル』の名物ステージである“ファフェ”のジャンプスポットもそんなシーンが見られる場所のひとつだ。
では、ドライバー目線に立つとこれらのジャンプスポットはどのように映っているのか。WRC第5戦ポルトガル後のオンライン取材会に出席した日本人ラリードライバー、勝田貴元(TOYOTA GAZOO Racingワールドラリーチーム)に話を聞いた。
“TAKA Airlinesの機長”によると、WRCにおける大ジャンプには大きく分けてふたつの種類があるという。ひとつはメキシコの“エル・ブリンコ”やフィンランドの名物ステージ“ルイヒマキ”のような、魅せるために人工的に作られているもの。もうひとつは“ファフェ”のように自然のなかでできあがったものだ。
ドライバー感覚で言えば、前者は着地地点も広く取られていることもあり、「着地の姿勢だけ」を考え他はあまり気にすることなくジャンプに臨めるという。一方、後者について勝田は「いやらしい」という言葉を繰り返し用いてその難しさを表現した。
「中継映像やオンボードを見るとまっすぐ飛んでるだけに見るのですけど、実は結構いやらしく、微妙に右に曲がっていたりとか、しっかりとラインをトレースしないと着地したところに道がなかったりします」
実際ファフェの着地地点の道幅はそう広くなく、道の両脇は小さな土手のように盛り上がっているため、万が一左右にズレればクルマがロールする可能性がある。さらに、エル・ブリンコやルイヒマキがジャンプ地点にタイム計測ポイントがあるのに対し、ファフェのフィニッシュポイントはもう数百メートル先にあることも忘れてはならない。
「ファフェは飛んだ後40メートル先に軽い右コーナーあって、飛びすぎてしまうとそのコーナーで曲がれなかったりします」と続けた勝田。
「ですので姿勢もそうですが、どちらかというと走行ラインをすごく意識しています」
「特にファフェのような狭いステージのジャンプでは、結構そういったいやらしいライン取りが必要なところがあるため、僕だけでなく皆が意識していると思います」
「毎年同じステージを走っているので(おおよそ)分かってくるのですけど、やはり飛ぶ前は(丘を)超えてから実際に見てみないと自分のライン取りが合っているかどうかって分からなくて、ちょっとドキドキしながら飛んでいます」
「皆そんなところでクラッシュしたくないですからね」