アニメ業界に山積する課題解決を目指す、一般社団法人日本アニメフィルム文化連盟(NAFCA)が、去る4月27日に設立された。その設立記者会見が、本日5月19日に東京・としま区民センターで行われ、アニメプロデューサーで代表理事を務める植田益朗氏のほか、アニメーター・キャラクターデザイナーの北尾勝、アニメ監督のヤマトナオミチ、声優の咲野俊介、甲斐田裕子が登壇した。
【大きな画像をもっと見る】商業アニメの成立から約100年経ち、関連産業の売り上げは3.5兆円を超え、国を象徴する文化として世界を席巻する日本のアニメ。その一方で、制作現場は未だに“この仕事が好き”という作り手の思いで支えている状況であり、体力・気力ともに疲弊し枯渇している制作現場の人材を、海外に依存する形で補い続けているという。そんなアニメ業界に山積する課題を解決するための一歩となるため、NAFCA(ナフカ)は設立されるに至った。かつてサンライズの常務、A-1picturesの社長、アニプレックスの社長を務めた植田氏は、「世界的に働き方が変化し、雇用形態に厳しい目が注がれる中で、この状態を放置していいのか。私も業界のことを振り返りながら自問自答し、これからのことにつなげていきたい」と決意を述べた。
会見では、NAFCAの事業概要を説明。人材育成事業となる「アニメータースキル検定」、業界の地位向上を目指した政策への提言、セル画・原画などを守るためのアニメアーカイブ事業、文化外交としてのアニメ活用を考える福祉関連事業および社会的利用事業、業界内外のクリエイター同士のコミュニケーションの強化や、税金に関するセミナー開催も兼ねたアニメコミュニティ事業、そしてアニメーター、声優ファンとのつながり、アニメを楽しむ場を作るためのイベント事業を展開していく。
その中でも最も大事なポイントであるという「アニメータースキル検定」。アニメ業界は長年、先輩から受け継がれてきた口伝をもとに技術を継承してきたが、アニメの制作本数の激増に伴い、職場での技術継承ができずに放り出されるアニメーターも少なくない。そんな危機的状況を食い止めるべく、商業アニメの基礎を学びたいアニメ業界志望者、そして低賃金にならざるを得ない技術不足のアニメーターの再教育の場として設けられた。スキルの基準と、それを証明するための手段となることを目的とする同検定について、ヤマト監督は「(業界志望者には)商業アニメの基礎を習い、自分のアニメ作品を楽しく作るきっかけにしてほしい。そして専門知識が不足したまま仕事をこなさなければならないクリエイター、商業アニメーターの方々には、検定を通して基礎知識や技術を身に付けていただきたい。べテランの動画スタッフたちが高齢に差しかかったこのタイミングが、地に足を着いた技術を次の世代に継承できる最後の機会だと考えています。このスキルを養う検定が、業界の立て直しへの起爆剤になれば」と思いを語った。
甲斐田は「アニメーションという総合芸術の一旦を担うアニメーターと声優。時間に追われ、目の前の仕事を仕上げるのに精一杯という現状は、アニメ業界の未来を確実に先細らせます。アニメーターが声優の現場に、声優がアニメーターの現場に行くことで生まれるのは交流だけではなく、クリエイティビティに直結するものだと確信しています」と発言。「声優や俳優は政治に関わっていくことに躊躇する傾向がありますが、口を閉ざしている間に看過できないほどの状況に陥っています。職業に関係なく、この国の一員として声を上げられる環境作り、意識改革を行っていきたいと考えています」と意志を伝える。
NAFCAでは4つの枠の会員を募集。アニメ業界に携わる人限定の「職業正会員」、業界を応援したいアニメファンなど誰でも参加できる「サポーター正会員」、NAFCA主催のイベント情報がメルマガで無料で受け取れる「準会員」、会社・団体が申し込める「賛助会員」の枠が設けられた。会員特典には、業界内の交流イベント、各種セミナー、お金や生活に関する各種セミナー、ベテランアニメクリエイターによるデッサン・レイアウト・パース・演出などの勉強会、ファンミーティングなどが用意される。本日5月19日にNAFCAの公式サイトで準会員を募集開始。正会員については準備が整い次第、追って発信される。
またNAFCAの公式キャラクター・望月ほくと、ほくとの家臣である犬の影マルは、アニメーター・キャラクターデザイナーの馬越嘉彦が担当。今後公式キャラクターのイラストを使用した各種グッズへの展開や、アニメーター検定の素材としても活用していく予定だ。なお、ほくとと影マルは、制作の際にNAFCAと馬越の間で契約書を取り交わし、二次創作の許可を得ているという。
さらに事業の活動費に充てるためのクラウドファンディングが、本日クラウドファンディングサービス・うぶごえでスタート。リワードには「NAFCA立上参加記念カード」や、ほくとと影マルの各種グッズのほか、馬越のイラストにクリエイターの寄せ書きのサインが入った数量限定複製色紙などが用意された。またクラウドファンディングとは別に、海外ファンに向けたアニメーターによる色紙のオークションなども計画している。詳細は準備が出来次第、各種SNSで告知を行う。
最後の挨拶で植田は、「業界を取り巻く環境は非常に厳しい。思い切った発想での地位向上なくして、現状の改善はないと思っています。これだけ世界に通じるコンテンツであり、メインカルチャーであるアニメに関わる人たちから、人間国宝が出てもいいんじゃないかと」とコメント。「日本のアニメに未来があることを示すべくがんばっていくので、ご協力のほどよろしくお願いします」と述べ、会見を締めくくった。