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猪苗代湖ボート事故、「県警幹部から聞いた話」で起きた誤報 名誉毀損訴訟で共同通信が問題認め和解

2023年05月19日 13:11  弁護士ドットコム

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2020年9月に福島県会津若松市の猪苗代湖で遊泳中の4人がプレジャーボートに巻き込まれ、男児ら3人が死傷した事故で業務上過失致死傷に問われている元会社役員・佐藤剛被告人(45=一審禁錮2年・控訴中)が、誤った報道により名誉を傷つけられたとして共同通信社と福島民報社を相手取り計3300万円の損害賠償を求めていた民事訴訟は、5月16日、福島地裁(小川理佳裁判長)で和解が成立した。(ライター・高橋ユキ)


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●問題の記事の内容は?

佐藤被告人の逮捕は2021年9月。問題の“誤った報道”は、逮捕翌日に共同通信が配信した『3人死傷の猪苗代湖ボート事故 同乗者撮影の動画に「やばい」と声』と題された記事だ。



本文には〈プレジャーボートの同乗者が撮影していた事故当時の動画に、異変に気づいた関係者が「やばい」などと慌てる声が記録されていた〉ことや〈船がそのまま走っていく様子が映っていた〉こと、そして〈同乗していた約10人に佐藤被告人が「何も無かったよな」などと口止めをしていたことが判明〉したことが書かれていた。



福島民報社は共同通信が配信した記事に加筆し、紙面や自社サイトに掲載した。



民事裁判の被告である共同通信は、全国の地方新聞社等を加盟社とする社団法人であり、取材・作成した記事を加盟社等に配信する事業を行なっている。加盟社はその記事を自社の発行する新聞等に掲載・配信することができるため、2022年1月当時、福島民報などが、今回問題となった記事を配信しており、日本全国にこの記事が広まった。現在も、当時の共同通信の配信を元にした情報は『まとめブログ』の記事に残っている。



●証拠開示請求、福島地検は動画は「不存在」と回答

佐藤被告人の刑事裁判は2021年12月から福島地裁で開かれていたため、原告代理人でもある弁護人が動画について証拠開示請求を行ったところ、福島地検の回答は「不存在」というものだった。「やばい」という音声が記録されたという動画は存在しない、という回答だ。



加えて、記事公開後、福島県警は他の報道機関に対し、これが誤報である旨、明言したという。共同通信の配信を元に記事を公開していた報道機関は、記事を取り下げていた。佐藤被告人は刑事裁判で「人は見えなかった」と事故の認識がなかったことを主張しているが、この記事が広まったため「事故の認識があったのに嘘をついていたのか」と友人知人に罵られ、子どもは幼稚園の入園を断られるなどした。



報道機関が発表した記事に対する名誉毀損訴訟では一般的に、報道機関側が記事の内容の真実相当性を立証するため、取材メモなどの記録を提出するが、この民事訴訟において被告・共同通信側が提出したのは、取材メモではなく、取材記者が上司に報告したLINEのスクリーンショットのみ。“県警幹部から聞いた話”だとする内容を箇条書きで送信したものだった。



2022年3月の提訴から1年2ヶ月で和解となった。



和解条項は、 (1)解決金の支払い (2)おわび記事の配信 (3)取材の問題点の検証、の3点。共同通信は5月17日におわび記事を配信し〈これまで動画の存在や口止めの事実は確認されていない〉と認め〈記事は、共同通信が複数の関係者を取材し配信しましたが、確認取材が不十分で、現時点で事実と確認できない内容の記事により、佐藤被告の社会的評価を低下させたことをおわびします。原因を調査し、再発防止に努めます〉とお詫び文を掲載。



福島民報も同様のお詫び文を配信している。



●原告代理人「見たこともないような虚偽報道」

原告代理人の吉野弦太弁護士は取材に対し以下のようにコメントした。



「事実と確認できない点を、訴訟の途中で報道機関がみずから認めた意義は大きい。ただし、問題の記事は、これまでの法律家人生の中で見たこともないような虚偽報道だと考えており、共同通信に限らず、報道機関には、こうした事態が起きたことを深刻に受け止めてほしい。犯罪とはいえ、報道対象が一私人であることの重みは考えていただきたい」



「やばい」などと佐藤被告人が発言した動画は存在しなかった。同乗者への口止めも確認できなかった。にもかかわらず、なぜ記事が配信されたのか。和解条項のひとつである「取材の問題点の検証」が待たれる。



●共同通信社のコメント

記事は、共同通信が複数の関係者を取材し配信しましたが、確認取材が不十分で、現時点で事実と確認できない内容により、佐藤被告の社会的評価を低下させたことをおわびします。原因を調査し、再発防止に努めます。



●佐藤剛被告のコメント

私の主張が裁判所に十分に理解されたため、早期の和解に応じました。同じようなことが起きないよう、報道機関には自身の職責をしっかりと認識してもらいたいと思います。