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セルフレジ万引き横行、「もやし」スキャンで和牛持ち去る 監視カメラより「声かけ」が重要

2023年05月16日 10:01  弁護士ドットコム

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スーパーでセルフレジの導入が進んでいる。客にとっては待ち時間の解消に、店にとっては人件費削減など生産性向上につながるメリットがある。一方で、セルフレジを悪用した万引き被害が大きな問題になっている。セルフレジを舞台にした万引きの実態や、店舗側の対策について香川大学の大久保智生准教授(犯罪心理学、教育心理学)と万引きGメンの伊東ゆう氏に聞いた。(ライター・国分瑠衣子)


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●バーコードスキャンをかいくぐる「もやしパス」

大久保准教授と伊東さんはタッグを組み、10年以上前から万引き対策に取り組んできた。警察庁の犯罪統計資料によると、2022年の万引きの認知件数は8万3598件に上る。セルフレジを使った万引きのみの統計はないが、大久保准教授は「セルフレジの普及に伴い、店舗からの相談は増えています」と言う。



セルフレジには、客が商品のバーコードを読み取り、精算まで行う「フルセルフレジ」と、店員がバーコード読み取りまでを行い、客は精算のみを行う「セミセルフレジ」がある。不正使用が問題になっているのは、フルセルフレジのほうだ。



どんな手口が多いのか。伊東さんは「複数の商品を1つにまとめてスキャンし、レジをすり抜けたり、ビールケースなど大型商品をショッピングカートの下に置き、スキャンしなかったりとさまざまです」と説明する。家族で来店し、レジの周りを複数人で囲い込み、外から見えないようにした上でスキャンをかいくぐる悪質なケースもあるという。



「もやしのバーコードを紙にはって、輸入菓子とか和牛とか高額商品のバーコードを隠して精算する手口もあります。まるで『もやしパス』ですよ」。伊東さんはあきれ気味だ。



●セルフレジに「使えない人」を配置して、画面を見させているだけ

大久保准教授によると、これまでスーパーなどのセルフレジコーナーでは、1人のスタッフが片隅に立ち、セルフレジが映し出されるモニターを見ているだけのことが多かった。



「店員の中でも使えない人を配置して、お客さんではなく、ひたすら画面を見ているわけです。とてもまずい状況です」



大久保准教授は過去にセルフレジでバラ売りのキュウリを買おうとしたが、スキャンの仕方がわからず、店員に聞こうとした。しかし、店員がモニターを見つめていて声をかけにくく有人レジに回った経験がある。



こうした店側の手薄さが万引きを見逃している可能性もあるとして2人は、2022年に香川県警などと共同で「セルフレジ不正使用防止マニュアル」を作成した。マニュアルでは、店側がホスピタリティーを実践しながら、不正使用を防止することが重要とした。その上でセルフレジコーナーでの店員の配置方法や具体的な声の掛け方をまとめた。





例えば①客がセルフレジエリアに入ったら全てのレジが見える場所に移動する②ホスピタリティー向上へ、「何かお困りですか」など声かけをしてレジ使用をサポートするといったことだ。店員がただ立っているだけの状態を変えるために、店員への教育が大切になる。



また、大久保准教授の調査では、スタッフがセルフレジの間を動き回って声かけをした結果、来店客から声をかけられる回数が以前より増え、客の満足度が上がったという。





●「監視カメラは事後確認のためのもので、万引き抑止には効果がない」

ただ、セルフレジの導入目的に立ち返ると疑問もある。そもそもセルフレジは人手不足対策や人件費削減など、生産性を高めるために導入されるものだ。



万引き防止のために新たに人手や教育にかける時間が必要となれば、本来の目的だった生産性向上につながらない。企業は二の足を踏まないだろうか。



「セルフレジで万引き被害ゼロを目指すことは無理だと考えています」。伊東さんは断言する。伊東さんの経験では、しっかり教育したスタッフを2人配置して、8割ぐらい万引きを減らせる感覚だ。



防犯カメラなど機械による監視の目を増やすのはどうか。「勘違いされがちですが、カメラは事後確認のためのもので、万引きの抑止には効果がないと思っています」(伊東さん)



防犯カメラ以外にも世間にはメーカーが開発した不審者検知システムなどの製品がある。大久保准教授らは海外製のカメラを使った不審者検知システムを複数の心理学者らと検証したが、心理状態との関連性が得られず効果はなかったそうだ。「今の技術では機械化や自動化で万引きを防ぐことは難しい」というのが2人の見方だ。



●「疑うより、ホスピタリティー向上の意識が万引き防止につながる」

セルフレジの不正利用による万引きは、比較的新しい手口で対策も手探りだ。「間違えてしまった」「忘れていた」など、言い訳がしやすいという万引きの特性もある。さらに、クレプトマニア(窃盗症)に代表されるように、精神疾患を主張するケースもある。



このような困難さの中で、万引きを減らすことだけが第一目的の店員教育は、スタッフが敬遠する可能性がある。



大久保准教授は「お客さんを疑うより、ホスピタリティーを向上させる意識を持つ。そのことが結果として目配りにつながり万引き防止につながります」と話す。大久保准教授らはセルフレジコーナーの店員配置の変更や声掛けによって、どのぐらい不正利用を減らせたのか、効果検証する計画だ。