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「少年ジャンプ」脱体育会系? 『あかね噺』『暗号学園のいろは』……”文化系漫画”の全盛期到来か

2023年05月15日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 「週刊少年ジャンプ」といえばバトル漫画の印象が強いが、ほかにもさまざまなジャンルの作品が掲載されてきた。その筆頭と言えるのが、『SLAM DUNK』に代表されるスポーツ漫画だろう。


 しかし近年の連載陣を見ると、そうした体育会系漫画の影が薄くなりつつあるように見える。代わりに台頭しているのが、文化系漫画の数々だ。


 現在の連載ラインナップは、とくに文化系の勢力が強い。なかでも大ヒットを予感させる作品としては、昨年2月から連載がスタートした『あかね噺』が挙げられる。


 同作は落語家・林家けい木による監修のもと、落語家を目指す女子高生の活躍を描いた作品。「落語」という少年漫画らしからぬテーマでありながら、古典落語と人間ドラマが巧みに交錯したストーリー構成によって、多くの読者を魅了してきた。


 さらに同年11月から始まった『暗号学園のいろは』も、異色の作品。題材はずばり「暗号」で、作中では暗号解読員の養成学校「暗号学園」を舞台とした暗号バトルが繰り広げられている。


 『〈物語〉シリーズ』などで知られる人気小説家・西尾維新が原作を担当しており、その謎解きは週刊連載とは到底思えないほどの密度だ。


 そのほか、南北朝時代を扱った松井優征の歴史漫画『逃げ上手の若君』も、広い意味では文化系に分類できるだろう。


 また2023年から始まった新連載でも、文化系の波は途切れていない。『テンマクキネマ』は、駆け出し映画監督の高校生と凄腕脚本家の幽霊によるバディものであり、「映画」を題材としたストーリーだ。
『ハイキュー!!』以降のスポーツ漫画は…
かくして文化系の漫画が台頭している現在の「週刊少年ジャンプ」だが、その先駆けとなったのは『アクタージュ act-age』かもしれない。


 同作は少年漫画では珍しい「役者」をテーマとした物語で、主人公が俳優として才能を開花させていく過程や、演劇・ドラマ撮影などの裏側をリアルに描いていた。「落語」「暗号」「南北朝」といったニッチな題材の企画が通るようになった背景として、同作の大ヒットは少なからず影響しているのではないだろうか。


 他方で気になるのは体育会系、すなわちスポーツ漫画の衰退だ。「週刊少年ジャンプ」では2020年に『ハイキュー!!』が完結して以来、スポーツ漫画の目立ったヒット作が出ていない。


 2021年11号からの新連載として、王道の野球漫画『クーロンズ・ボール・パレード』も掲載されたが、長期連載にはならなかった。


 現行の連載陣でいえば、『アオのハコ』はスポーツ強豪校の部活動を描いた内容。バドミントン部の主人公、バスケ部のヒロインによる青春が描かれている。しかし物語の主軸は、あくまで高校生男女のラブストーリーだ。


 そんななか、5月8日に発売された「週刊少年ジャンプ」からは、ボクシング漫画『ドリトライ』の連載が始まった。終戦直後、ボクシングが「拳闘」と呼ばれていた時代を舞台としており、その熱い展開には体育会系のマインドを強く感じざるを得ない。


 『ドリトライ』は文化系全盛の時代に、一石を投じられるのかどうか。物語の行く末に注目していきたい。


文=キットゥン希美